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第45話 Side Story 女達の座談会

まさかの三日連続投稿w

異世界編ラストです。


 昼下がりの中庭でお茶を嗜むとのことなので、私は先に準備をするために中庭の中央にある四阿(あずまや)に来ています。

 王城勤めの侍女など王族や高位貴族の我が儘に振り回されるものと相場が決まっていますが、幸いこの国ではそのような愚物は多くなく、というよりは戦乱の中で自然と淘汰されてしまいましたから殆ど残っておりませんね。

 そのような者は部下や領民に対しても同じような態度ですから国が厳しい状況になれば真っ先に部下や領民が離散し見捨てられてしまいます。

 お陰で代々続く名門貴族なども随分少なくなり風通しが良くなりました。

 戦乱の数少ない功績ですね。

 とはいえ、私はそのような貴族を揶揄って遊ぶのが密かな楽しみだったので少し残念ではありますが。

 

 準備が粗方終わった頃、お迎えする予定である姫様とアカネ様のお二人と共にレイリア様とティアさんがいらっしゃいました。

 この組み合わせは意外ではありませんが、4人が揃っておられるところを見るのは初めてです。

「エリス、悪いけどお茶の用意の追加をお願い」

 姫様の指示に直ぐさま対応します。

 というか、余分に準備がされているので特に問題はありません。

「メルスリアを訪ねたら中庭でお茶をするというのでな。それならばということで我とティアも同席させてもらうことにした」

「エリスさん、急にご免なさい」

 ティアさんが申し訳なさそうな顔をしますが気にしないように笑顔で対応します。

 それなのに何故だかティアさんは益々萎縮してしまいました。何故でしょう。

 

「そういえば主殿は今日はどうしたのだ?」

 それぞれが席に着きお茶を配っているとレイリア様が不意にお訊ねになりました。

「ユーヤ様は亜由美様を伴って王都の散策に向かわれました」

「そういえばアユミが来ておったのぅ。ならばもうしばらくは帰るまい」

 レイリア様が何やら思いついたような顔をしていらっしゃいます。

 何やら実に楽しそうな予感がしますね。

「けれどユーヤさんが街に行けば大騒ぎになるのではないでしょうか」

 姫様がそう懸念を述べられるのも無理はありません。

 帝国との講和が成ってから一月が経ち、王都も嘗ての賑わいを取り戻しています。

 元々救世の英雄であるユーヤ様の顔は王都の民に広く知られています。加えてこの度の帝国の侵攻による国家の危機に颯爽と駆けつけ僅か一日で帝国軍を撃破。更にその余勢を駆って帝都まで逆に侵攻し全面的な降伏を勝ち取った。

 そんな英雄が目の前に現れれば王都は大騒ぎになるでしょうね。

 下手をすればそこらの尻の軽い売女にお持ち帰りされてしまうかもしれません。あの方は比類無い強さを持っている割に変に隙が多いですからね。そこが狙い目なんですが。

 

「心配あるまい。我が変化の魔法を教えておいたから姿を変えておるはずじゃ」

「え? でも私は直ぐに判りましたよ?」

「それができるのはティアくらいじゃよ。まぁ、アカネにもできるかもしれんが、な」

 そう言ってレイリア様は思わせぶりな視線をアカネ様に投げかけます。

「ど、どうしてそこに私の名前が出てくるんですか」

「さて、な。ところで、アカネは主殿と少しは進展があったのかの?」

「な?! そ、そ、そんなのあるわけ無いじゃないですか!」

 アカネ様が真っ赤になりながら叫びます。ティアさんはキョトンとしておられますが姫様は興味津々で探るような目で見ておられますね。

 ここは私が助け船を出すべきでしょうね。

「ユーヤ様が帝国から帰ってこられた最初の日にアカネ様とユーヤ様は熱烈な抱擁をなさっておられました」

「?!」

「ほう!」

「ほ、本当ですか?」

「(ニコニコ)」

 おや? アカネ様の助けになればと事実をご報告したのですが。

 

「い、いや、あれはね、ちょっと、感極まってちょっとだけよ、ホントに」

「実に29分41秒に及ぶ抱擁でございましたね」

「な、なんでエリスさんがそこまで知ってるんですかぁ!!」

 侍女たるものたとえその場にいなくても奉仕する相手が何をしているかを把握するのは当然のことですよ。まぁ、あの時は扉の隙間から覗いていたのですが。

「中々やるではないか。で? その後は?」

 興味深そうにレイリア様が更に追及します。ティアさんも興味があるのか耳がしっかりとアカネ様の方に向いています。姫様は、かぶりつくように顔を寄せていますね。

「その後はお互い紅い顔でそそくさと離れて少し話をしただけですね。あそこまでしておきながら、ユーヤ様のヘタレっぷりには驚きを禁じ得ませんでした」

 いつでもウェルカムな雰囲気を出しているアカネ様を前にしてあの体たらく、あの方は衆道の気でもあるのでしょうか。

 

「なんじゃ、結局まだ何も進んでおらんではないか。アカネよ何故その場で押し倒さなんだ」

「お、おし、押し倒すって、そんなこと……」

「あ、あの、まさかとは思いますが、アカネさんはその、ユーヤさんと深い関係ではないのですか?」

 姫様が驚いたように尋ねます。

 どうやら姫様は気づいておられなかったようですね。

 ユーヤ様は筋金入りのヘタレですよ? 胸やお尻をあれほど物欲しそうな熱い視線で見ておきながら私がどれほど直接的に誘っても指一本触れようとしないのですから。

 アカネ様と居るときの見ていてイライラするほどのもどかしさ、初々しいを通り越して何度ひっぱ叩きたくなったことか。今時子供でももう少し積極的でしょうに。

 

「ふ、深い関係って、私とユーヤはその……」

「? アカネ様はユーヤ様と子作りしないのですか? ユーヤ様のことお嫌いですか?」

 さすがはティアさん、獣人だけあって直接的ですね。ユーヤ様も獣人の血が少しでも入っていればもう少し私のアプローチにも積極的に応えてくれるのでしょうか。

 ……獣のように私に襲いかかるユーヤ様。そそられますね。

「ふむ。普人種は男女関係も面倒だとは聞いていたが、異世界人はその上を行くようじゃな。その方面では主殿も少々情けないがアカネもそれほどまでに雌の匂いを振りまくくらいならサッサと押し倒さぬとカビが生えるぞ」

「カビが生えるってどういう意味ですか!! そ、それに雌の匂いなんて……」

 レイリア様も姫様もティアさんまで『何を今更』という呆れた視線でアカネ様を見ています。

 これに関しては失礼ながら私も同感ですね。

 

「そういえばユーヤ様はヴァリエニス様より転移の宝玉という神器を授かったとか。なんでもこちらと異世界を繋ぎユーヤ様が居られない一方の世界の時は停止しているとか。……完璧な二重生活が可能ですね」

「おお! そういえばそのようなことを主殿が言っておったな」

「と、いうことは、こ、こちらの世界でも妻を娶ることができるということでしょうか」

 姫様の食いつきっぷりが素晴らしいですね。

 だれもそのようなことは言っておりませんのに。まぁこうなるように私が話を誘導したのですが。

 

「ユーヤ様の魔力量では一方の世界だけで過ごすには寿命が長すぎますから今後はかなりの長期間にわたって行き来することになるでしょうね。現にこちらの拠点をどうするか陛下と話し合われているようですし」

「!? た、確かに裕哉からそんな話も聞いた気がするけど、それは向こうで歳を取らないのは不自然だからだって」

「主殿のことじゃからそこまで深くは考えていないかもしれんの。しかしそうすると大部分はこちらで過ごすことになるのぅ」

「そうなんですか!?」

「うむ。主殿の話では異世界では寿命は普通80年程度だとか。こちらでは魔力が高い者が長寿なのは当然であるし、メルスリアほどの魔力があれば300年ほどは生きられよう。ティアでも200年近くは生きられるはずじゃ。無論死ぬのは寿命ばかりではないがの。もっとも我ならば主殿と最後まで添い遂げることができる故どちらの世界でも共に居るつもりであるがな」

 レイリア様の言葉に絶句されるアカネ様。

 さり気なく自分の欲求を入れてくるところはさすがです。

 

「そんな……」

 アカネ様にはショックが強すぎたようです。

「心配せずともアカネも魔力を伸ばせばそれだけ寿命も延ばせるぞ? しかも単に老化がゆっくりになるのではなく若い期間が延びるのじゃ。その他にも寿命を延ばす方法なぞこちらには幾らでもあるしの」

「ほ、本当ですか?!」

「うむ。我が鍛えてやっても良い。まぁ、少々条件もあるがの」

 小聡明(あざと)い。ですが実に効果的ですね。アカネ様も条件の内容が予想できるのか相当葛藤しているようです。

 

「いずれにせよユーヤさんが今後王国に拠点を設けるならば相応の立場が必要となりますね」

 立場というか立ち位置が問題となるでしょうね。今後はどの国もユーヤ様を取り込もうと動くでしょうから。

「それならメル様がこちらでの正妃となれば良いのではないですか?」

「そ、そうですね。ユーヤさんのお気持ち次第ですがユーヤさんは救国の英雄でもありますし周りも反対はしないと思います」

 ティアさんの言葉に姫様が即座に食いつきます。最早隠す気も無いようですね。

 素晴らしい肉食ぶりです、姫様。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!メルさんまで」

「アカネには理解しづらいかもしれぬが、この世界では優秀な男に複数の女が侍るのは当然のことと考えられているのじゃよ。まして戦乱のせいで男の数も減っておる。放っておけば主殿の周りにどれだけの女が押しかけるか想像もつかん」

「?? アカネ様の世界では違うのですか?」

「違います!! 中には浮気とか不倫とかする人もいるけど、け、結婚するのは一人だけです」

 それでは結婚できない女性も出てくるのではないでしょうか。

 男性は、まぁその環境で相手を作る甲斐性がないのでしたらどちらの世界でも同じでしょう。

 

「こちらで一人しか娶らないとなれば余程甲斐性がないか、何か欠陥があるか、或いは男色の気でもあるかと思われるぞ? アカネは主殿がそのような目で見られても良いのか?」

「そ、それは……」

 レイリア様が容赦なくアカネ様を責め立てます。

 実際には平民でも貴族でも一人しか妻を娶らない者もそれなりにいるのですが、敢えてそれは言わずにアカネ様の価値観を塗りつぶしてしまうおつもりでしょうね。

 

「人ごとのように聞いてるけどエリスはどうなんですか? これまでも度々ユーヤさんを誘惑していたようですが」

 姫様が矛先を私に向けてきました。味方を増やそうとしておられるのですかね。

「姫様を差し置いて私がユーヤ様の妃となるつもりは御座いません」

「そ、そう」

「はい。ただ時々摘み食いをしていただければそれで十分で御座います」

「…………貴女ねぇ」

 はて、何かおかしなことでも言いましたでしょうか。

 姫様が疲れたような顔で私を見つめます。

 

「でも大丈夫ですよ? ユーヤ様ならきっと皆ちゃんと大切にしてくださると思います」

 ティアさんがアカネさんを慰めます。

 既にティアさんの中ではユーヤ様が全員娶ることは決定しているようです。

 こうなってしまえばアカネ様も中々否とは言えないのではないでしょうか。

「何、我等もアカネを差し置いて抜け駆けしようとは思っておらぬ。付き合いの長さから言っても先ずはアカネが主殿を射止めるのが先決じゃ」

 レイリア様の言葉に姫様の頬が僅かに動きます。どうやら抜け駆けする気満々だったようですね。

 

「う゛う゛う゛ぅぅ」

 アカネ様が頭を抱えて机に突っ伏してしまいました。

 これはまだしばらく時間が掛かりそうですね。

 それまで姫様の我慢が効けばよいのですが。

 私は、あくまで摘み食いですからカウントされないと考えてよろしいでしょう。


予告通り次回から日本に舞台は戻ります。


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古狸は心よりお待ちしておりますm(_ _)m

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