#4
~4~
真実は,俺の予想通りだった。
結城さんは高校に入ってすぐ,夜になると猫の姿になってしまうようになってしまったらしい。
最初はそこだけ隠せていれば問題も無かったのだが,そうもいかなくなったのが冬休み。
休み中に突然髪の毛が真っ白になってしまったらしく,その突然の変化に通っていた学校では対応が出来ないという事になり,提携校であるこの学校に慌てて転校してきたらしい。
それも,両親が仕事の関係でどうしても来られないという事で,たった1人で。
話を聞く限りではむしろ1人暮らしは自由でとても楽しいとのことだが,問題は猫になってしまう時間がまた少し伸びてしまったという事。
前は夜の7時くらいが目安だったのに,今では夕方の5時くらいには変わってしまうのだと。
初めて俺と出会った時がその1回目だったらしく,見知らぬ街で予定よりも早く猫になってしまい,途方に暮れていた所を助けたのが俺だったと。
その後も,どうせ街中をうろついていても仕方がないし,ここに来れば暖かいご飯と寝床にありつけるという事で家に入り浸っていたという訳だ。
「最初はびっくりしたわよ。私は猫のはずなのに,普通に話しかけてくるんだもん」
猫が言葉を話せるのは気持ち悪いからと,ずっと猫の鳴きまねをしてたらしい。
もちろん体は猫なんだから人間がやるよりもずっとその精度は高いようで,普通に聞いたら分からないはずなのだが,俺にはそれがネックだったようだ。
そりゃ普通に話せるのに自分からにゃ~にゃ~と鳴くだけだったら俺にもそう聞こえるよ。
「…それにしても,まさかあれが夢じゃなかったなんてなぁ…」
そう,あの朝に見た夢。
もう夢だと思っていた物にはなるが,あれも現実だったらしい。
慣れない家でトイレに向かった後,いつもの癖でベッド入ってしまったのだ。
そこで緊張の糸が切れ,普段とは違い人間に戻っても起きなかった。
話を聞くと,彼女の目が覚めたのは俺とほとんど変わらないそうだ。
突然の状況に動く事も出来ずにあわあわしていた所,俺が勝手に勘違いをしてすぐ二度寝をしたのが幸運だったという訳。
あぁ,寝ぼけていて本当に良かった。
もしあの時夢だと思って本気で手を出していたら,今頃どうなっていたか……
「そうね。私もあの時は心臓が止まると思ったわ。でも,あんな事があったから,私もここにいられるのかもね」
「…と,言うと?」
「そりゃ,私だってあの瞬間は覚悟を決めたわ。こんな美少女が一糸纏わぬ姿で年頃の男と添い寝だなんて,もうその後の展開は決まっているじゃない。…でも,あなたはそうはしなかった。今まで会った男子とは,ちょっと違うなってその時思ったのよ」
「そ,そりゃどうも…」
「だから,私はそれ以降もあなたに近付けた。本当はもっと早くに気づいてくれる予定だったけど,まさかここまで鈍いとは思わなかったわ」
「だって,夜になったら猫に変身するなんて誰が思うよ…」
「私だって,動物と話せる人間なんて信じてなかったわよ。自分がびっくり人間代表みたいなくせに,私のことは信じられないって訳?」
「べ,別にそこまでは言ってないだろ」
『大輔にユキちゃ~ん。そろそろご飯よ~』
「は~い」
「にゃ~」
そんな話をしていると,1階から母親の声が聞こえて来た。
俺たちはその声に大きな返事をしながら立ち上がる。
今日の夕飯は,俺たちの大好物の唐揚げだ。