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追憶  作者: たびー
4/8

クラウディオと……

 ディオンは領主には、なりませんでした。

 ディオンは成長し、亡くなった時のクラウディオそのものになっていきました。学舎が休暇のたびに帰省し、かつてクラウディオが着ていた服を身につけたディオンを見て、奥方さまが心穏やかでいられるはずがありません。

 ディオンは館から遠ざけられました。けれど奥方さまの気の病いは日に日に重くなり、ついには亡くなってしまいました。領主さまは嘆き悲しみ、家督を自身の甥に譲ると隠居してしまったのです。


 ディオンは館から離れた、ブラント家のなかで一番小さな鉱山で暮らすことにも、領主を継げなかったことにも、不服はありませんでした。

 館のものたちの冷たい眼差しから解放され、緑豊かな山中にいると、心からくつろぐことができたからです。

 反面、職務は甘くはありませんでした。鉱山はしばしば事故が起こります。とても危険な仕事なのです。ディオンは抗夫たちが毎夕、無事に戻って来られるよう、腐心しました。

 自ら坑道を見回り、山の神に祈りを捧げました。

 はじめこそ、『エルフの養い子』と遠巻きにされていましたが、ディオンの熱心で誠実な仕事ぶりに皆は心の垣根を取り払っていきました。



 夢のなかでクラウディオは森を駆けていました。柔らかな下草のうえを。木漏れ日があちらこちらにまだらな日差しを落としています。

 クラウディオは長い黒髪をたなびかせる背中を追っていました。

 はやる気持ちを抑えつつ、もつれそうになる足で、黒髪のエルフを捕まえようとします。

 ヒナギクの冠を戴いたエルフは、ときおりからかうように振り返りますが、逆光で顔は見えません。

 明るい笑い声が森に響きます。

 走って走って、クラウディオはついにエルフの肩を捕まえ、背中から抱きしめます。

 柔らかく、今にも折れそうなほどの華奢な体。花の香りがします。

 クラウディオは、エルフの耳元に唇をよせて名前をささやきました――。


 殴られたような衝撃を感じてディオンは目覚めました。頭がひどく痛みます。額の汗をぬぐいながら、胸に手を当てると、鼓動はさながら肌を突き破るような勢いです。

 ディオンは膝をだき、うずくまりました。

 うすうすは感じていたことです。

 クラウディオは呆然としています。

『日記』の新しい頁が繰られたのです。

 ディオンは十八歳になりました……。



 鉱山に来て一年が経ちました。

 以前からずっと思っていたことがあります。ディオンにはどうしても会いたい者がいるのです。

 それは、ノームです。

 ノームは地下のすべてをる者たちです。鉱脈を見つけて採掘することをはじめとして、鉱石を加工すること、ことに細やかな工芸品や装飾品を作ることに長けています。

 ノームにその技を鉱山で働くものたちに教えてくれるよう乞いたいのです。

 けれど彼らと話し合うには、困難がありました。ノームは誇り高い種族です。体こそ、人の半分くらいの背丈しかありませんが、ひじょうに力持ちなうえ賢いのです。

 そのため、心根のよくないノームに出会うと人間などひとたまりもありません。石ころを宝石と惑わされて自身の値の張るものと交換してしまったり、雪の中を何刻も歩かされたりするのでした。

 住んでいる場所もはっきりとはしません。

 鉱山より奥の岩肌が目立つところがそうかも知れないと言い伝えられています。風のない、天気のよい日に人が住まないはずの山奥から煙が立ち上るのが見えるときがあるからです。

 冬を迎えたとき、ディオンはまだ雪が少ないうちにと岩山へ出向きました。

 大きな岩が山肌からむき出しになり、ところどころに洞窟の入り口のようなものが見えます。けれど、生き物の気配はしません。

 岩山を見ながら立ち尽くす、ディオンの毛織物の外套を何かが足下から上ってきました。

 軽やかな早さで、肩まで上るとディオンの頬に柔らかい毛があたりました。

 銀の毛並みが見事な(いたち)でした。大きな体のわりに、ふわりと軽く重さが感じられないほどでした。よく動物になつかれるディオンです。特に気にしませんでした。たわむれに鼬に話しかけてみました。

 ノームの住まいを知らないか、と。

 すると、鼬はするすると肩から薄く積もった雪のうえに下りました。

 ディオンが不思議そうに見ていると、まるで道を教えるように時おり振り返りながら前を歩き始めました。

 ディオンは鼬に素直に従いました。やがて岩と岩が幾重にも重なる場所へとたどり着きました。

 人一人通るのがやっとというくらいの洞穴で鼬は鋭く鳴きました。岩に声がこだまします。すると、中からも同じような声が返ってきました。

 もしかして、鼬の巣へ案内されたのでしょうか。ディオンが首を傾げていると、中の岩肌に灯りと人影が見えました。鼬の声で呼んでいたのは、まだ少女のノームでした。鼬は再びディオンの肩に乗り、ちっちと甘く鳴きました。少女は驚いたのか、大きな瞳をさらに大きくして口元をかくし、慌てて中へと戻っていきました。


 ノームにしか慣れない銀鼬が案内してきた人間のディオンは、ノームの岩屋へ客人(まれびと)として招き入れられました。

まだ続くようです(^^;)

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