前編
あなたは、同性の人を愛したことがありますか?
私は、あります。というかしてます。
その相手は、うちの中学の弓道部主将と同じか、それ以上の実力を持ち、彗星の如く現れた“広院寺悠香”さん。
強くて、凛々しくて、かっこ良くて、それだけで、私のハートを射抜くには十分でした。
◆
広院寺さんは、ある日突然私のクラスに転校してきました。
どうやら親が転勤族で、頻繁に各地の学校を渡っているらしいです。
一目惚れでした。
初めて、人を好きになりました。
初めて、愛を覚えました。
……初めて、劣情が湧きました。
あの繊細そうな肢体を、腕に抱きたい。
あの腰まで届きそうな黒髪を、自信の指で梳きたい。
あの絹のような柔肌に、舌を這わせたい。
そんな感情が、私の心を満たしていきました。
◆
でも、実際の私は臆病者で。
話す機会が増えるかもしれないのに、怖気付いた私は無所属のまま、放課後弓道場に忍び込んで、更衣室に置いてある彼女の制服の匂いを嗅ぎながらこっそり声を出さないように自慰をして、彼女が練習しているところを物陰から覗き込むことしかできませんでした。
それが、私の限界でした。
結局、私は怖かったのです。こんな感情を抱いてしまった私がむやみに触れてしまったら、彼女に一生拭いきれない汚れをつけてしまうような気がして、一歩踏み出すことができなかったのです。
結局一言も声をかけることなく、ただ時間だけが刻々と過ぎていきました。
◆
あの人がこの学校へ来てから、二週間ほど経った頃でしょうか。
いつものように弓道場の更衣室で密かに水音を立てていたところに、広院寺さんがやってきました。
私は、スカートの中のショーツに指を突っ込んだまま、思考が停止しました。
「……それ、もしかして私の制服……?」
「あ、あぁぁぁぁ…………」
そのとき、私の中で色々なものが壊れました。
それらと一緒に理性も壊れてくれたら幾分か良かったのですが、なぜかこんな時に限って道徳心や倫理的精神が働いてしまい、涙を流すばかりでした。
「すみませんごめんなさいでした!」
呂律が回らないまま、私は最大限の謝罪をして、その場から逃げ去りました。
おかしいですよね。こんな変態にいかがわしいことをされて、泣きたいのはあなたの方なのに。
私は占い師ではありませんが、既に自分の未来が見えました。
きっと枕を濡らして、被害届を出し、あなたは私を侮蔑するのでしょうね。
多分、明日にでも私は逮捕されます。
そのまま起訴されて、有罪になって、檻の中の生活が待っています。
どうせ捕まるなら、彼女の制服のポケットからくすねたハンカチをさるぐつわにして首を吊ろう。
お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。骨はお墓に入れないで、どこかへ捨ててください。
広院寺さん。罪深き私は、ちゃんとあなたの前から消えます。どうか、いい人にもらわれてください。
◆
その後自宅に走り着き、ロープの用意をしました。




