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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
98/112

4人テーブル

「いらっしゃいませ、何名様ですか」

「四人です」

「喫煙席と禁煙席が空いてますが」

「禁煙席で」

「では、自由にお座りなってください」

 席に通されて、俺と玲那(れな)がソファー側に宮本姉弟がイスに座ることになった。この状況は俺にとってはそこまで芳しくない。誘った俺が言ってるんだけど。すぐにメニューを開いて、玲那と一緒に注文するものを決める。最近、至近距離でも特に緊張することも無くなっている気がする。

「先輩は決まりましたか?」

「前来たときと同じにする」

「じゃあ、私も」

 人が三人以上になったら、話す勇気が出ない。それが人見知りの真骨頂である。二人なら何とか自分も喋ろうと努力するけれど、やはり三人になると自分だけ話題に付いていけないことが多々ある。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

 こういう空気がそこそこ滞っている時に来てくれる店員さんが女神に見えてくる。注文を取り、ここで空気を一度リセットして、とりあえず自己紹介がてら小さな会話を始めてみよう。

「じゃあ、えーと、紹介します?」

 そっか、この中で全員と知り合いなのって俺なんだ。まこっちゃんと海お姉ちゃんは玲那のことは知らないし、玲那は二人のことを知らないから、俺がちゃんと説明しないといけないんだな。

「こちらが、俺の心の友である宮本(みやもと)(まこと)で、女性の方はそのお姉ちゃんで宮本海(うみ)です」

「どうも、はじめまして」

「こちらこそ」

 少しだけ会話のキャッチボールあったな。

 二人の方が説明しやすかったから、先に玲那に二人を紹介することにした。そもそも、俺と玲那の関係って言葉で説明だと難しい気がする。

「えーと、こちらが早見(はやみ)玲那(れな)で、俺の一個下の中三で、先週初めて会って今に至ります」

「それだけ!?」

 だって、玲那の情報なんか俺分からないもん。情弱っていうやつ? 知っている情報を並べたんだけど、説明不足の度が過ぎていたのかな?

「私は先輩に色んなこと教えてもらってます♪」

「色んなこと・・・ねぇ」

 今の言い方だと色んなこと(意味深)って勘違いされても言い逃れができそうにない。いやいや、変な目線送るの止めてもらえませんか? まこっちゃんはちょっと苛立ちが見え隠れしてますよ。

「色んなことっていうか、バレーボールの練習に付き合ってるだけだからな」

「でも、先輩この後勉強教えてくれる約束しましたよね? 約束は守ってもらいますよ」

「ね、ねえ、玲那ちゃん? その勉強というのは、どこでするのか、その、決まってるの?」

 レストランに入って、海お姉ちゃんがやっと会話に参加をしてくれた。

「先輩はどこでするつもりだったんですか?」

「別にここでもよかったんじゃないかな? 静かな所だったら図書館だけど」

 ほんと俺って、何かあったら図書館に行けば何とかなりそうだと思っちゃう。

「そ、そうだよ・・・ね」

 ホッと一呼吸分の吐き出した息が俺の胸の奥をモヤモヤとさせた。

「と、とりあえずドリンクバーに行こう」

 三人とも同意して、一斉に席から離れる。その結果俺は一人みんなの荷物が盗られないように見張りとしてドリンクバーには行けずじまいだった。

 どうしよう、どうしよう、何が四人の共通の話題になるんだろ。全員が全員タイプ別だよな。こういうのを気にせずに喋ることができるのがコミュニケーションを上手に取るということなのだろう。


「じゃあ、俺も取りに行ってくる」

 戻ってきた三人に対してそう言い、俺はドリンクバーに向かった。こんなこと前にもあったような気がする。氷を入れてボタンを押して飲み物を出す。

「お待たせ~」

 自分には似合わないチャラさを際立たせた言い方になったが、俺はそこまで嫌いではない。

 一旦、ソファーに座り一息つく。

「・・・」

「・・・」

 すぐに会話が無くなっちゃったよ。ちょっと前なら昨日見たテレビ番組とかがメジャーなんだけど、テレビ離れがあるらしいからもう無理だ。

「そういえば(つばさ)は試験勉強してんの?」

「俺? して・・・ないって言ったらしてない」

「翼君大丈夫なの?」

「大丈夫。何とかなる何とかなるよ」

 人間追い詰められたら何とかなるんだよ。ただ、追い詰められる前に手は打っとかないと死にそうになること間違いなし。

「先輩テスト前だったんですか?」

「うん、まあ」

「言ってくれたら練習休みにしましたのに」

 どのみち昨日も外に出掛けてたし、もともと練習の約束をしていたから休みにしたいなんて言えそうにないし、まあ一種の後輩思いの先輩として振る舞いたかったというのもある。

「問題はないから」

 嘘つきは追い込まれる前兆。多分、二、三日後には学校に行きたくないとか所詮試験程度だ、ここで失敗しても人生に影響はほとんどないと開き直ったりとかしちゃいますよ。青春あるあるですよ。


「私は七月の末だから、まだのんびりしてるかも」

 海お姉ちゃんは大学生なんだよな。実際、大学生ってバイトとかサークルで忙しいから勉強する暇とか無いんじゃないのかな?

「大学の勉強ってどんなの?」

「え、えーとね、専門的な分野を、その、勉強してる。まだ一ヶ月ちょっとしか経ってないから分かんないや」

 ちょっと照れている海お姉ちゃんはまるで天使である。要するに大学の勉強は高校よりも専門的に詳しく勉強するってことだな。

「あとね、英語以外も勉強するよ。私はフランス語を履修してるの」

「海お姉ちゃんも何か話せるの?」

「えっと、ほんのちょっとだけ」

「最近覚えた例文とかある? 海お姉ちゃんのフランス語ちょっと聞いてみたいな」

「え・・・じゃあ、少しだけ、ジュ…ジュテーム」

「ジュテーム? 聞いたことある。意味は?」

「い、意味は教えられません」

 何その急に突き放す感じ。えー、教えてくれないなら帰ってから調べないとな。ジュテーム、ジュテーム・・・。


「ご注文は以上でよろしいですか?」

 テーブルに運ばれた料理たちを前に、手を合わせていただきますと言い、食事が始まる。

「せーんぱい、ハンバーグ一口くださーい」

「はいはい」

 先週もやったやり取りだが、二人にとっては異様な光景だったのかもしれない。というか、二人の視線が痛い。こんなことするの、恋人かすごい仲良い兄妹ぐらいしかしない。つまり、俺たちは腹違いの兄妹なのか・・・とか、昼ドラ的な展開は少しも期待してないけれど、あったらあったでストレス半端無いだろうな。

「はーい、先輩もスパゲティ食べてください」

 玲那から巻かれたスパゲティをパクッと頂いて、美味しいと一言だけ添えてハンバーグを食べる。


「今日は俺がおごるよ」

 まこっちゃんのその言葉は俺にとっては救いである。最近のお金の使い方は浪費って言うレベルを超えてる気がする。

「また、今度は俺がおごるから」

 おごってもらってありがとうだけだと何か悪い気がしたので、次の機会があれば俺がおごると約束する。


「それじゃあ、ありがとな」

 宮本姉弟とはここでお別れをして、俺たちは二人きりで勉強する場所を探すことになった。



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