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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
96/112

一人だと辛かった

 ここの体育館では、学校で使っているシューズを使用している。走るたびにキュッと音が鳴るのが、マジで部活してます的な感覚を覚えちゃうよね。


「先輩、背中押してください」

 現在、私は座って開脚している未来の後輩の柔軟のお手伝いをしています。やはり、つい最近までスポーツをしていたからなのか体は柔らかい。

「先輩も背中押してあげます」

 俺も座って、開脚をするがあまり開かない。男子で体が柔らかいなんて体操選手かお相撲さんぐらいでしょ。つまり、俺は体を柔らかくする必要なんて・・・って、痛い痛い痛いよ・・・恐怖を感じる。

「先輩、お風呂上がりとかにストレッチした方がいいですよ。体が柔らかくなりますし」

「アドバイスありがと」

 ストレッチって大事だよな。俺なんか風呂上がったら、まず真っ先に冷蔵庫に行って、何かしらの冷たい飲み物をグイッと飲んじゃうんですよー。全国の働いている皆さんは分かってくださるでしょ?


「先週したやつの復習でもするか」

「あれですか?」

 おそらくあれでしょう。オーバートスですね。そもそも俺って指導者としてこの場にいていいのだろうか?

「やってみよっか」

 ボールを投げて、玲那(れな)にそう言うと、玲那はトスの練習を始める。この空間には俺と玲那の二人しか存在していない。これが普通の男子高校生なら興奮するよね。俺も実は興奮してますけど何か?

 ポーンとトスが上げられたが、すぐに落としてしまっていた。先週の練習より出来なくなっている。

 あれは慣れだからな。もしかしたら、他のことを練習するべきなのか? 俺は女子の気持ちとかそれ以前に人の気持ちとか分からないから、できることなら言って欲しいなぁ。

「サーブの練習とかしたい?」

「してみたいです!!」

 食い付きがいいね。まぁ、トスとかの地味な練習より迫力あるサーブの方が楽しいもんね。それにせっかくネットも張ったからサーブをやらないと損な気もする。

「見本いる?」

「ぜひぜひお願いします!!」

「分かった」

 玲那からボールを受け取り、エンドラインから少し離れてから軽く集中をする。ふぅと息を吐いてから、ボールを高く高く上げる。

 助走を付けてから、思いっきりジャンプをする。


 ドン。

 ネットの向こうに落ちたボールの音が体育館の中で響き渡る。やっぱり、サーブって楽しい。

「先輩カッコイイです」

「どうも」

 パチパチと拍手をしながら近付いてくる玲那は、キラキラと目を輝かしている。人生でカッコイイなんて、言われたこと無いよな。あくまでそれはサーブの話なんだよな、何かを期待することもない。

「私もやってみたいです」

「どうぞどうぞ」

 籠に入っているボールを倉庫から出して、玲那の近くに置いておく。まずは、指導とかをせずに見よう見まねでやらせておくほうが玲那にはいいかもしれないな。とりあえず、今は見守るか。

「それじゃあ、いきまーす」

 元気という言葉を体現してるような彼女の声が、俺は好きだ。こういう声って、自分も元気が貰えたりするんだよな。

 すると「あっ」と声が聞こえてきた。

 俺が想定していた通り、ジャンプサーブをしようとしたが、タイミングが合わず失敗したようだ。そこら辺は俺も通った道だからな。最初なんか上げる高さが低すぎて、ジャンプサーブにすらならなかったもんだ。そこから学んでいくことが成長に繋がるよ。失敗は成功のもとって本当にそうだと思った。

「先輩、コツ教えてください」

「コツかぁ、出来るだけ高く上げることかな?」

 俺のサーブはコツというよりか努力の塊で出来てるからな。自分が理想だと思うサーブに近付けようとして、ボールの高さを調整するための力加減を探り探りでやってきたからコツとか分からないな。


「うーん」

 それからしばらくタイミングが合わずに悩み続ける一人の女の子がそこにいた。こういった悩みをサッと解決できるようになりたい系男子です。

「普通のサーブからやってみる?」と言いたくなったが、口にすることは無かった。

 なぜなら、それが妥協であるからだ。変に気を使ってそうするよりかは、一回でいいからできるまでさせてあげた方がいいはずだ。

「先輩、もう一回やってください」

「了解」

 俺はもう一度ボールを持ち、サーブに入る。

 わぁ、すごい見られてるよー、緊張するよー。


 ドン!!

 さっきより少し音が響いていた気がする。

「やっぱり私には難しいのかなぁ?」

 あっ、ダメだ。ここで心が折れるわけにはいかない。何としてでも元気付けないと・・・。

「れ、玲那」

「は、はい!!」

「俺が付いてるから一緒に頑張るぞ」

 俺の誠心誠意の応援です。下手くそか。

「はい!!!!」

 これで良かったのかもしれないけど、具体的にどうしてあげるべきかまだ何一つ分かってない。変に体を触れようもんなら、セクハラで訴えられるし、かといって口で説明するのも苦手だし、俺ができることは唯一つなのかもしれない。

「とりあえず、手本として頑張るわ」

「私は少し見学させてもらいまーす」

 玲那が俺の横で観察してくれている。俺は何本もサーブを打ち続けた。玲那の手本として少しでも手助けになれば俺にとって幸いである。


「はぁ、しんどい」

 体力低下が著しいんですけど、俺の体・・・中学時代ならもう少しあったんだけどな。電車通学になってから歩く距離とか減ったからかもな。

「私もやります」

 玲那が見学兼休憩を終えて、またボールを持ち、サーブの練習を始める。向こうに渡ってしまったボールを回収しに行こう。少し小走りでネットの向こうに行く。そこから玲那を軽く見る。

 玲那がボールを思いっきり上げて、ジャンプをする。俺がやっているのと同じようにも見えた。

 そこから振り下ろされた手がボールを思いっきり叩きつけられ、こっち側に向かってくる。

 スピードに乗ったボールを避けるのに必死になるほどスゴいサーブが来た。

「できた・・・先輩!? できましたーー!!」

 ボールの回収を忘れて、喜んでいる玲那の方に俺は駆けていった。

「スゴいスゴい、できたじゃん!!」

「ありがとうございます。先輩のお手本があったお陰ですよ、やったーー」

 そこにいるのは紛れもなく、中学生の女子そのものだった。嬉しそうで、楽しそうで。

「先輩♪」

 すると、突然玲那から抱きつかれてしまった。ピョンピョンと跳ねたりする彼女と俺は一緒に喜びながらはしゃいでいた。少しだけ報われた気がする。

 俺は玲那の手をゆっくり剥がして、肩の方に手を置いて・・・。

「今の感じを忘れないようにね」

「はい!!!!」

 元気があってよろしい。


 気が付くと、体育館の使用時間は終わりを迎えていた。俺たちはすぐに片付けをして、更衣室で着替えを済ませてから、体育館を出ていった。


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