まだまだ続く
「具体的にはどうするんですか?」
羽柴さんの質問に対しての答えも昨日(正確には今日の夜中)から考えていた。
「まず、気になる人を俺と空本さんで誘う。そのときに羽柴さんの名前も出しておく」
「簡単に言ってますけど、誘えるんですか?」
「土下座でも何でもするつもり」
ここは俺の犠牲を軽く払うぐらいの気持ちで誘えば問題はない。
「水本君、さすがに土下座なんかしなくても」
「俺の土下座は安くて、使い勝手がいいからな」
お得商品並の俺の土下座である。
「それって、怪しがられるんじゃないですか?」
「まあ、何かしら疑うか不信感を抱くぐらいはするとは思うけどな」
突然知らない人が土下座して誘われたら、怖いもんな。俺なら、ごめんなさいって言いそう。
「ダメなんじゃないですか?」
「そこで、空本さんを投入する」
「このタイミングで私は何するの?」
「俺を踏みながら、上目使いでお願いをする」
「・・・・・・」
「踏みながらは冗談だから」
人の目が死ぬ瞬間ってのを人生で初めて見たような気がします。すぐに冗談って言ってしまった。
「空本さんがお願いすれば、大丈夫なはず」
俺が感じているのは空本風花というネームバリューから溢れ出す自信。
「そういえば、気になる人ってどんな人なの?」
「あっ、言ってなかったですね、明るくてクラスの中心に近い人です」
決してクラスの中心ではないということですね。あと、同じクラスの人なんだな。
「じゃあ、多分大丈夫だな」
「疑われたりして、大丈夫ですか?」
「むしろ疑われるぐらいがちょうどいい。だって、企みであることには変わりはないんだから。誘うことさえできればこっちのもんだよ」
「色々と不安があるんですけど」
「それは俺も思ってる。だから、この提案は別に乗らなくていいから。最初に空本さんが言ってくれた解決案にしてもいい。昨日の夜に浮かんだことだから、簡単に上手くいくとは思えないのは俺も同じ」
散々説明しておいての、圧巻の手のひら返し。
そう、これはあくまでも俺が独りで考えて発表をしているだけで、二人で考えた解決案でもいい。
「ただ、この解決案のメリットは、友達に自分の気になる人を自分から言う必要は無くなる。俺たちは絶対に周りに言わないし、サポートもする」
多分、これぐらいしかメリットがない。
「自分から言うのと周りで噂として盛り上がるのは少し違うからな」
「私はどうしたらいいんですか?」
心配そうな顔をしながら、俺たちに問う。
「今日答えを出しても、実際に動けるのはどんなに早くても明日の朝ぐらいだから、今日はじっくり考えてもらった方がいいと思う。今日も部活あるんじゃないの? 運動部でしょ?」
「どうして運動部って分かったんですか?」
「ちょっとだけ日焼けしてたから」
「よく見てるんですね」
まるで俺が変態のような言い方だよ、それ。
室内の部活だったら分からなかったけどな。
「明日には答えを出します。今日はありがとうございました。明日の朝ってここにいますか?」
「・・・います、います」
「それじゃあ、明日の朝にここに来ます」
椅子から立ち上がって、羽柴さんは部室から出ていく。
「空本さん、すいませんでした!!!!」
「別に謝ることなんてないよ。あの娘のために頑張って昨日考えてくれてたんでしょ」
「それはそうなんだけど、余計な仕事を増やすことになったりしてるし、本当にごめんなさい」
「じゃあ、これは貸しってことでいいのかな?」
「もちろんです」
「じゃあ敬語やめて」
「は、はい」
「それで実際はどんな感じにするつもりなの?」
「四人でどっかに行って、俺たち二人がどこかのタイミングで席を外すことになる・・・のかな?」
「具体的なことはそんなに決まってないの?」
「一応、あるにはあるんだけど」
聞かせてと空本さんが仰るので説明をする。
「四人で、どっかのタイミングで空本さんが俺に電話をして、俺が適当に妹から電話来たとか言って席を外して、トイレか外に行く。次は俺がそこから空本さんに電話して、空本さんも席を外す。これで二人きりになる」
ふぅーんと空本さんが頷いている。
「それじゃあ、そんなに二人きりの時間は稼げないんじゃない?」
「うん。十分ぐらいしか二人きりになれない」
これを何回か繰り返すつもりであって、ここまでが俺が昨日考えた計画であった。
「明日の朝は何時に来るの?」
また、空本さんに迷惑をかけてしまうのか、朝早く学校に来てもらうのは忍びない。
「俺は七時半ぐらいかな?」
「そうなんだ、私もその時間ぐらいに来るね」
「すみませんねー」
「部活だからね」
本来なら明日から部活は試験前で一時的な活動休止になる。俺も空本さんも前回の試験ではトップテンだったから、結構頑張らないといけない。
「そういえば、試験勉強はちゃんとしてる?」
「毎日帰ってからちゃんとしてるよ。水本君は?」
「俺は・・・ちゃんとしてると思います」
「してないってこと?」
ちょっとした間だけで、おれの嘘を見抜くなんて、空本さんはやはり手強い女子だな。
「今日の部活はもう終わった方がいいかもね。水本君は疲れてるみたいだし、明日の朝も早いから今日はゆっくり睡眠を取らないとね」
「お気遣い頂きありがとうございます」
「どうして敬語になるの?」
「心配してくれた人に対して敬語使うのって普通でしょ」
当たり前のように俺はそう言い放つ。
「そうだけど・・・なんていうか、その」
言葉が詰まる空本さんをよそに、俺は部室から出る準備(主に窓を閉める)をする。
「空本さんはこの時間でも大丈夫なの? お迎えの車とかまだ来てないんじゃないの?」
「それなら大丈夫。いつも私を迎えに来る前にこの近くで買い物をしてるから。呼んだらすぐに来てくれるの」
スゴく便利なタクシーだよね、それ。お金持ちというのはみんながみんな、こんな感じなのかしら?
部室を出て鍵を返し、校門まで歩いていく。
「また明日の朝」
「うん。それじゃ、また明日」
空本さんが手を振ってくれているので振り返す。




