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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
88/112

まだまだ続く

「具体的にはどうするんですか?」

 羽柴(はしば)さんの質問に対しての答えも昨日(正確には今日の夜中)から考えていた。

「まず、気になる人を俺と空本(そらもと)さんで誘う。そのときに羽柴さんの名前も出しておく」

「簡単に言ってますけど、誘えるんですか?」

「土下座でも何でもするつもり」

 ここは俺の犠牲を軽く払うぐらいの気持ちで誘えば問題はない。

水本(みずもと)君、さすがに土下座なんかしなくても」

「俺の土下座は安くて、使い勝手がいいからな」

 お得商品並の俺の土下座である。

「それって、怪しがられるんじゃないですか?」

「まあ、何かしら疑うか不信感を抱くぐらいはするとは思うけどな」

 突然知らない人が土下座して誘われたら、怖いもんな。俺なら、ごめんなさいって言いそう。

「ダメなんじゃないですか?」

「そこで、空本さんを投入する」

「このタイミングで私は何するの?」

「俺を踏みながら、上目使いでお願いをする」

「・・・・・・」

「踏みながらは冗談だから」

 人の目が死ぬ瞬間ってのを人生で初めて見たような気がします。すぐに冗談って言ってしまった。

「空本さんがお願いすれば、大丈夫なはず」

 俺が感じているのは空本(そらもと)風花(ふうか)というネームバリューから溢れ出す自信。

「そういえば、気になる人ってどんな人なの?」

「あっ、言ってなかったですね、明るくてクラスの中心に近い人です」

 決してクラスの中心ではないということですね。あと、同じクラスの人なんだな。

「じゃあ、多分大丈夫だな」

「疑われたりして、大丈夫ですか?」

「むしろ疑われるぐらいがちょうどいい。だって、企みであることには変わりはないんだから。誘うことさえできればこっちのもんだよ」

「色々と不安があるんですけど」

「それは俺も思ってる。だから、この提案は別に乗らなくていいから。最初に空本さんが言ってくれた解決案にしてもいい。昨日の夜に浮かんだことだから、簡単に上手くいくとは思えないのは俺も同じ」

 散々説明しておいての、圧巻の手のひら返し。


 そう、これはあくまでも俺が独りで考えて発表をしているだけで、二人で考えた解決案でもいい。


「ただ、この解決案のメリットは、友達に自分の気になる人を自分から言う必要は無くなる。俺たちは絶対に周りに言わないし、サポートもする」

 多分、これぐらいしかメリットがない。

「自分から言うのと周りで噂として盛り上がるのは少し違うからな」


「私はどうしたらいいんですか?」

 心配そうな顔をしながら、俺たちに問う。

「今日答えを出しても、実際に動けるのはどんなに早くても明日の朝ぐらいだから、今日はじっくり考えてもらった方がいいと思う。今日も部活あるんじゃないの? 運動部でしょ?」

「どうして運動部って分かったんですか?」

「ちょっとだけ日焼けしてたから」

「よく見てるんですね」

 まるで俺が変態のような言い方だよ、それ。

 室内の部活だったら分からなかったけどな。


「明日には答えを出します。今日はありがとうございました。明日の朝ってここにいますか?」

「・・・います、います」

「それじゃあ、明日の朝にここに来ます」

 椅子から立ち上がって、羽柴さんは部室から出ていく。


「空本さん、すいませんでした!!!!」

「別に謝ることなんてないよ。あの娘のために頑張って昨日考えてくれてたんでしょ」

「それはそうなんだけど、余計な仕事を増やすことになったりしてるし、本当にごめんなさい」

「じゃあ、これは貸しってことでいいのかな?」

「もちろんです」

「じゃあ敬語やめて」

「は、はい」


「それで実際はどんな感じにするつもりなの?」

「四人でどっかに行って、俺たち二人がどこかのタイミングで席を外すことになる・・・のかな?」

「具体的なことはそんなに決まってないの?」

「一応、あるにはあるんだけど」

 聞かせてと空本さんが仰るので説明をする。

「四人で、どっかのタイミングで空本さんが俺に電話をして、俺が適当に妹から電話来たとか言って席を外して、トイレか外に行く。次は俺がそこから空本さんに電話して、空本さんも席を外す。これで二人きりになる」

 ふぅーんと空本さんが頷いている。

「それじゃあ、そんなに二人きりの時間は稼げないんじゃない?」

「うん。十分ぐらいしか二人きりになれない」

 これを何回か繰り返すつもりであって、ここまでが俺が昨日考えた計画であった。


「明日の朝は何時に来るの?」

 また、空本さんに迷惑をかけてしまうのか、朝早く学校に来てもらうのは忍びない。

「俺は七時半ぐらいかな?」

「そうなんだ、私もその時間ぐらいに来るね」

「すみませんねー」

「部活だからね」

 本来なら明日から部活は試験前で一時的な活動休止になる。俺も空本さんも前回の試験ではトップテンだったから、結構頑張らないといけない。

「そういえば、試験勉強はちゃんとしてる?」

「毎日帰ってからちゃんとしてるよ。水本君は?」

「俺は・・・ちゃんとしてると思います」

「してないってこと?」

 ちょっとした()だけで、おれの嘘を見抜くなんて、空本さんはやはり手強い女子だな。


「今日の部活はもう終わった方がいいかもね。水本君は疲れてるみたいだし、明日の朝も早いから今日はゆっくり睡眠を取らないとね」

「お気遣い頂きありがとうございます」

「どうして敬語になるの?」

「心配してくれた人に対して敬語使うのって普通でしょ」

 当たり前のように俺はそう言い放つ。

「そうだけど・・・なんていうか、その」

 言葉が詰まる空本さんをよそに、俺は部室から出る準備(主に窓を閉める)をする。

「空本さんはこの時間でも大丈夫なの? お迎えの車とかまだ来てないんじゃないの?」

「それなら大丈夫。いつも私を迎えに来る前にこの近くで買い物をしてるから。呼んだらすぐに来てくれるの」

 スゴく便利なタクシーだよね、それ。お金持ちというのはみんながみんな、こんな感じなのかしら?


 部室を出て鍵を返し、校門まで歩いていく。


「また明日の朝」

「うん。それじゃ、また明日」


 空本さんが手を振ってくれているので振り返す。


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