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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
87/112

探し続けた

 自分の考えたものが無駄であった・・・そんなことを少しだけ思う。大したものでは無いにしても、やっぱり全没というのは堪える。

 けれど、今からは正しい方向性というのが見つかったから、また考えていかないといけない。

 黒板消しでを全てを消し去っていく。

 新たに書くのは、ファーストフード店か図書館に誘う方法だ。結局、家という案は却下した。


「普通に誘えばいいんじゃない?」

「普通ってのが分からないから相談してくれた人はこの投書箱に入れてくれたんだよ」

 変なタイミングで俺の天然ボケが炸裂する。自分で天然ボケって言ったら、それは天然ではないな。ただの可愛く見られたい腹黒い人にしか見えない。


「どんな誘い方が一番上手くいくんだろう?」

「相手によるだろうな」

 この相談において、相手がどんな人間であるかというのが一番必要な情報である。

「そのことなんだけど、さっき水本君がそこに書いてたようにOKしてもらえるまで誘い続けるってのがいいと思うんだけど・・・」

「ある意味、それがいいのかもな・・・でも」

 気力とかそのものが無くなりつつある。少しやっつけ仕事になりそうだった。

「それはあくまで、相談者が明るい人だったらな」

 あらゆる想定をすることが好きだ。特に自分とは全く関係ないことだったら尚更だ。

「相談者が超絶人見知り根暗で、その気になる人が底なしの明るいお調子者だったら、頑張って誘い続ても、確実に心が折れちゃうだろうな」

 逆ならまだあるかもしれない。お調子者が誘い続けることで、根暗がその人に心を開いていき、色んな波乱を乗り越え最終的に恋人同士になるというよくある少女漫画のような展開が存在するかもな。

 モテるイケメンが、冴えないけど可愛い女子を好きになり、すれ違いながらも互いを好きになる。

 ただ、本当に冴えない女子がイケメンを好きになって、付き合うってそんなにないはずだ。

水本(みずもと)君って用意周到だけど、その結果最終的にどうしたいのか分かってないよね」

「準備だけいいってことだよね」

 言われて気付くこともある。確かに色んな想定をしてはいるけど、実際どうしたいんだろ?

 色んなところに予防線だけ張ってるだけで、その中でこれをするべきだというのが見つかってない。

「俺は、その二人がいい感じになればいいかなって思ってるけど」

「いやいや、思ってないでしょ?」

 急に俺に毒づいてくるのは何故でしょう?

「いやいや、思ってるから」

「水本君はそういうタイプじゃないでしょ」

「俺は人の幸せを願う聖人のような人だよ」

「自分で言うあたりがもう・・・」

 だから、何でそんな毒づいてくるの? 急に性格変わりすぎだよ。恨まれてんのかな?

「こんな話はもうやめよ、俺が傷つくから」


「こんな感じなら回答としてはいいんじゃない?」

 空本(そらもと)さんと共に二人で考えていった答えは、ほとんど完成していた。明日の放課後にこれを伝える。

「じゃあ、空本さんが説明してね」

 俺は「んんーー」と声を上げながら腕を上のほうに伸ばして、体を軽くほぐしていく。

「水本君がやった方がいいよ」

 俺はもう説明とかする気力がないんだよ。

「空本さん、お願いします」

 俺は椅子に座りながら頭を下げていた。土下座をしてでも、俺はやりたくなかった。実際はしてないんだけれど。自分としてはこの相談はなるべく女子同士の方が話が進みやすいと思っている。

「そこまで言うなら私がやりますけど」

「ありがとうございます」

「そろそろ本気で敬語直してもらえない?」

「自分、敬語しか出来ないっすから」

「どうしてなの?」

「分かりません」

 漠然とした答えに空本さんも少々がっかりする。

 部活は五時を過ぎて帰る時間になった。いつも通り戸締まりをしっかりして、鍵を返しにいく。

 そして、校門の前でまた明日とそう言って、いつもの帰宅ルートを辿っていく。


 その夜。

 俺は相談のことについて考えていた。

 自分の中では、この相談に対しての答えに自信は持てていない。「恋愛相談部」として果たして正しいのだろうか? ベッドの上でずっと考え続けて、空本さんと二人で考えた答えを何度も再考する。

 部活をしているときは、早く帰りたいとそう思っていたから「そうだね」とか「こっちがいいと思う」とかしか言わず、相談に真摯に取り組んでいなかった。このままでいいとは思わない。



「なら、もう一度考えてみるか」

 相談を最初から考え始める。試験の時と同じだ。

 自信があるような問題は、解き終われば見直しはほとんどしない。だが、明らかに自信がない問題は何度も何度も見直してたりする。

 そして、また初めから解き直すこともしばしば。

 この相談に対しての答えは自信がない。そして、考え始めるのは夜も更けていった頃だった。



「あのー、投書箱に入れたんですけど」

 水曜日の放課後になり、恋愛相談の締め切りでもある。相談してきた子は、普通の子といった感じであった。アニメで言うところのモブAと表現しても差し支えはない。失礼なこと言ってるな。

「それじゃあ、そこに座って」

 今日は空本さんに任せている。毎回俺がいつもやっているような気がするから、今回は空本さんで。

「学年、クラス、それとお名前を言ってください」

「あ、はい、一年E組の羽柴(はしば)奈乃(なの)です」

 羽柴奈乃なの? というダジャレが浮かんだあたり、俺は人としてダメ人間なんだろうなぁ。

「それでは、私たちが考えた相談の回答を言いますね?」

 空本さんは羽柴さんに説明をしてくれてる。

 とりあえず誘い続けるという方法を教えて、どこに誘うべきか何人ぐらいで行くべきかとか、そういったことを納得してもらえるまで教えた。


「ありがとうございます。参考にします」

「こちらこそどういたしまして」

「ごめん。ちょっとだけいい?」


 俺は、そう会話に口をはさむ。

 何?と空本さんは言い、俺は口を開く。


「俺が昨日考えてきたの言ってもいい?」

「えっ、いいけど。羽柴さんもいい?」

「いいですよ」

「ありがとうございます」


 俺は一呼吸分だけ置いて、昨日考えたものを二人の前で発表する。自信はあると思う。



「この三人で同盟を組んで、羽柴さんの気になる人を誘うという方法なんだけど」

 はっきり言って、この相談を受けたときにゴール地点を見誤った。誘う方法を教えるのではなくて、初めから誘って、二人の出会いを形成させる。

 俺は百パーセント誘いに乗る方法を考えてた。でも、その答えは見つからなかった。

 なら、その部分をすっ飛ばして初めから誘ってしまえばいいんじゃないのかと思った。

 もし、羽柴さんに友達がいるなら気になる人を誘った時点で、友達にその気になる人がバレるかもしれない。そういうことはすぐに広がっていくから、秘密にしておくべきである。だが、俺たち二人なら秘密を漏らすようなことは起こり得ない。俺も空本さんもそういう人だから。自分が多少の身を削るかもしれないが、そこまで辛いものでもない。


 まだこの相談は終わりそうにない。


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