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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
86/112

きっと答えはないのである

 昼休みも終わり、再び授業が始まる。

 気分転換のような昼休みが思いの外頭の休憩には良かったのかもしれない。さっきよりは勉強に集中できるようになっていた。眠気もほぼない。


水本(みずもと)君、昼休みどこに行ってたの?」

 村上(むらかみ)君が俺にそう質問をしてきた。特に隠す必要もなかったので、学校の外で食べたと伝えた。

「外で食べるお弁当美味しかった?」

「うん。たまには外の空気を吸った方がいいな」

 この言い方だと、普段は引き籠っていて窓から降り注ぐ太陽の光すら浴びていない人間のように思われてしまう。そんな誤解は与えるつもりはない。

「今度は誘ってね」

「遠慮なく誘うよ」

 そんな約束を結んで、今日最後の授業の始まりを待つ。


 どんなに辛くても部活の時間は存在する。

 たとえ、それが文化系の部活であってもだ。

 部室の鍵を取りに行き、階段を上っていく。いつも通りその部屋は待っていてくれる。部室の外に置いてある投書箱の中を軽く調べておく。相談者から何かしらの情報が入っているかもしれない。藁にもすがるそんな気持ちであったが、特にそれに見合うものは入っていなかった。差し込み口に鍵を差し、ドアを開く。夏が近いということもあり、少し蒸し暑かった。窓を開け換気をする。


「水本君の方が先だったんだ」

 教室の前半分の窓を開け終えた時、空本(そらもと)さんが少しだけ遅れて部室にやって来た。空本さんはカバンを置いて自ら指定している椅子に座る。

「それじゃ、昨日の相談について話し合おっか」

 昨日考えて思い付いた全てのアイデアを黒板に書き記してみた。と言っても書いたことは誘い続ける戦法と関係性を作ってから誘う戦法の二つだけだ。しかし、チョークを持ち続けていたため、指先は真っ白になっていた。

「こんな感じのことぐらいしか思い付かなかったけど、空本さんも何か考えてきた?」

「え、えーとね、私も水本君とほとんど同じことしか思い付かなかったんだけど」

 空本さんが他に思い付いたのなら、それに便乗しまくるつもりだったんだけどな。

「じゃあ、これから改良していきましょう」

 一番現実性がある「関係性を作ってから誘う」という方法を元に解決案をなんとかしよう。

「まずはどうやって、関係性を作る?」

 根本の質問をしてしまう。それぐらいこの相談は何一つ進んでいないことを物語っている。

「一番なのはお話をするとか? 共通の趣味があればいいんだけどね」

「共通の趣味なんて限られてくるからな。特に男と女で共通の趣味なんてほとんど無いと思うけど」

「例えば何だろう?」

「アウトドアなら、スポーツとかアクティビティ的なやつだろうな。インドアならアニメとかゲームぐらいかな」

 本当に男も女も好きなものってこの世に少なすぎる気がする。あと、三大欲求ぐらいしか無いのではとすら思ってしまう。

「とにもかくにも話をするってのが大事なんでしょ? だったら、そこは相談してくれた人に任せるにして、私たちは誘う方法を考えないと」

「じゃあ、関係性を作ったということにします。そこからどう誘うのかという問題ですね」

「結局、誰の家で勉強会をするの?」

「相談してくれた人かその友達か、どっちかだろうな」

「家って、やっぱりハードル高いのかな?」

「ハードルは高いよ、でも絶対に無理ってわけじゃない。最悪この相談の回答は家じゃなくても適当にファーストフード店に誘う方法を教えてもいい。ただ、俺はなるべく相談者とその気になる人との距離をすぐに縮められるように、あえて家の場合で考えている」

「家とファーストフード店の差って何?」

「お金がかかるかかからないかとか、家に上げることで生活というのを見せて、少しだけ心を許し合う仲になれる可能性があることとか」

 差と言われれば、勉強会そのものでは無いのかもしれない。けれど、どこで勉強会をしたのかでは少しだけ変化はするはずだ。その人を家に上げたという事実が出来上がる。それが次の一歩になることだってあるわけだ。

「水本君は私の家に来て、私に心許してる?」

「・・・」

 痛いところ突いてくるなこの子。心を許してないわけではないけれど、許してるのかって言われたら多分、許してはないはずだ。

「つまり、そんなもんだと思うよ」

 俺が思ってるより、人の気持ちというのは動かないと空本さんは言ってくれてるのだろうか・・・確かに動かないということもあるはずだ。

「やっぱり、誘うだけなら家よりファーストフード店か図書館の方がいいかもしれないね。それに、図書館なら無料だからお金もかからないよね」

 空本さんの言ってることはまともで正論で説得力があった。ここまで考えてくれてるなら、この案に乗ってみるのが最善策だろう。


「それじゃ、空本さんの考えてくれた方向性でもう一回考えますか」

 結局、最初に戻っていくのか・・・堂々巡りしていくんだろうな。数学の証明問題のようなもんだ。何でそう思ったか俺には分からない。単純に言ってみたかっただけなのである。最初に問題提起されたことに対して、あらゆる角度から挑戦していく。そして、結局、最初に考え付いた考えた方が最適解だった。そういう風に解いていくことで、完全な解答に最も近いものを作り上げていく。


 この恋愛相談はきっと答えはないのである。

 だから、俺たちがその答えを作っていくんだ。


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