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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
83/112

議論は必要だ

「さてと、解決策を考えていきますか」

「うん。そうだね考えよっか」

 期限は水曜日の放課後。残りは四十八時間。相談内容の丸文字を見る限り、女子が送ってきたのだと思われる。それまでに解決策を出してあげないといけない。

 気になる人を勉強会に誘う方法とは一体・・・

「黒板あるから色々と書き出そっか」

 空本(そらもと)さんがやる気を出している。今日は相談者はいないが相談はあるのだ。下手に会話をする必要がないから、気楽に構えればいい上に頭の回転も増すだろう。

「とりあえず、全部書くか」

「全部って?」

「想定できる範囲について全部」

「うん」

 何で心配そうな顔をしてんの? そこまで無理難題は言ったつもりはないんだけどな。

「まず、誘うにしても何人で勉強会を開くかだな」

「複数人の方がいいと思うけど」

「あぁ、でも二人きりというパターンも一応考えておく必要もある」

 黒板に二人きりと複数人のグループと白のチョークで簡単に書く。どの選択肢がベストエンドに向かうかある意味ギャルゲーに近い考え方だな。

「いきなり二人きりって、ハードル高いよ」

「あくまでも、可能性だから。後々消去法で消していく」

「複数人だと、何人ぐらいがいいのかな?」

「家なら最高四人。学校の図書館だったり、ファミレスなら六人までがギリギリOK」

 家なら自分の部屋かリビングになる。そこまで大人数入れる部屋なんて無い方が普通だ。つまり、四人ぐらいがボーダーラインだろう。

 外で大人数になると、決まって遊ぼうとするやつが出てくるから抑止力になる人が一人いればいいんだけど、そういうやつってあんまりいないからな。

「じゃあ、外だね。いきなり家とかは恥ずかしいだろうと思うし」

「高校生だし、外でいいとは思うんだけど」

 一応、複数人と書いている下に家と外と二分化して書いておく。

「誘う方法だよね? どうやってするの?」

 誘うことも誘われることも皆無な俺にとっては、実行することが無理ゲーであるが、考えるなら得意だ。俺はありとあらゆる妄想をしてきた猛者だ。

 ただ、勉強会なんてなくても成績が常に上だったから、妄想の価値が全く無かったな。自慢してスマン。

「一番早いのは友達を使うってことだよな」

「どういうこと?」

「軽い感じで『今度の土曜日勉強会するんだけど、一緒にしない? メンバーは○○ちゃんと○○ちゃんと・・・』みたいに友達の女子の名前を羅列していき、釣糸を垂らす。普通の男は確実に食い付く」

「うわぁ」

 うわぁって、ひどくない? 結構良い案だと思うけどな。マジで自画自賛してもいいレベル。

「普通の男ならな!!」

水本(みずもと)君は違うの?」

「違うな。俺は絶対に複数では行きたくない」

 一対一でないとまず、その輪から勝手に外れる。単純に空気読めずに一心不乱に勉強することになってしまうのが自分なのだろう。移動中に適当に用事思い出したフリでもして帰って、一人で勉強でもするはずだ。もしも、俺が誘われたならの話な。

「あと、上目遣いで『○○君には来て欲しいなぁ』とか言っちゃえば、普通の男なら一撃必殺のつのドリルみたいなもんだ。普通の男ならな」

「つのドリル?」

 技の名前だからそこはどうでもいいんだよ。

「それはそれとして、好きな人を誘うにはその誘われる人は頼られていることを自覚させることと、この誘いに乗れば色んな女子がいるという特典を付けさえすれば、誘うだけというのは簡単」

「何か色々と仕組まれてるよね」

「恋愛は駆け引きとか言われてるし、これぐらいしなくちゃ好きな人を落とすのは無理」

 誘うということは相手にどういうメリットがあるのかというのをこっち側が理解しないといけない。その上で、それを理解できたなら、あとは周りに協力を煽いで誘ってしまえば目標は達成する。

 これはあくまでも複数人にのみ適用される。二人きりだと同じ相手しか話すことができないし、知り合い程度の関係だと話が合わない可能性もある。


「それで、回答はそれでいいの?」

 空本さんからはさっきに比べるとやる気が感じられないのだけれど、気にするな。

「明日もあるし、今は暫定的な回答がこれ。まだまだ考える時間はあるし、もっと詳細にしていく」

「水本君はもし、好きな人を勉強会に誘うとしたらどうするの?」

「俺? 俺は・・・・・・誘わないかな」

 勉強会を開こうとすら思わないんだもん。

「それは答えじゃないと思うんだけど」

「恋愛に関しては奥手だからな。いつも後悔とかしてたりする。あのときに行動をしてたらとか、こんなときに行動を起こしてたらとか振り返ってばっかりだったな」

 中学校の時には勇気を出して真由(まゆ)に告白はしたけれど、あれ以来、積極的に女子と関わろうとしなかった。いつも相手から話をしてもらって、そこから会話が始まる。自分からしようとしなかった。

「相談してきた人はやり方だけが分からなくて、それを教えてもらえれば、自分から積極的に歩み寄っていこうとしている。立派なもんだよ」

 自分の演説も終えて、相談の回答を考える。

「自分からも積極的にならないとだな」

 自分の目標が一つ決まった。

「複数人で勉強会を開くとしたらどこがいいんだろうか? 空本さん?」

「・・・えっ? あー、どこにしようかな?」

「話聞いてた?」

 俺の演説は空本さんの耳には響かないどころか、完全に拒絶されていた。話してた俺、超ダッサ。

「やっぱり、ファーストフード店とか?」

「そうなるかー、やっぱり限られるな」

 勉強会なんて、公共なら図書館かどっかのファーストフード店ぐらいしか使えそうな所ないもんな。

「思い切って、誰かの家とかの方がいいかもな」

「でも、確かに家ならお金とかいらないから、実質的には家もアリなのかもしれないね。高校生だし」

「そこからお泊まりの流れになれば、親密度が増す可能性もあるし、複数人のお泊まりコースが結構、いいのかもしれない。ただ・・・」

 懸念すべきことは存在する。

「誘ったときに断られることもある」

「そうなの? 水本君の案なら普通にその誘いに乗っかるんじゃないの?」

「さすがに、鈍感な主人公で無い限り、そこまで知らない人の家に誘われたってすぐに行こうと思わない。ある程度友達付き合いがあるのは別にして」

「でも、水本君もすぐに私の家に来たよね?」

「あれは、いきなりだったからであって」

 俺は鈍感主人公だと言うのか? そんなことはあり得ない。あれは空本さんが悪いはず。お父さんと会ってくれないと一緒に買い物できないと言われたから付いていったのだ。人のせいにする俺、最低。

「よし、考えていこう」

 とりあえず、今からはいかにスマートに誘うことができるのかというのを思考錯誤していく。

「二人きりのパターンは、家に持ち帰ってから考えよう。今は複数人パターンの家バージョンだ」


 議論は続いた。いかにして家というハードルを言葉だけで下げる方法を重点に置いたこの議論はほとんど進展もないまま終わりを迎えそうになった。

 黒板には書きなぐった文字たちがいくつも存在した。そのほとんどは役にも立たない、消される運命が待ち受けている。


「もう五時だよ」

「時間って経つの早いよな」

 特に締め切りがあるだけで、いつもの倍は早く感じる。明日もおそらく今日と同じように話し合いが行われるのは目に見えてる。帰ったら、色々とアイデアを捻り出そう。


 部室から出ていき、昨日よりも暑く少しムシムシするような廊下を二人で歩いていく。

 部室の鍵を返すときに、エアコンの電源が入ってる職員室で涼むのがオアシスになっている。


「んじゃ、空本さん、また明日」

「水本君もまた明日」

 軽く手を振り、俺は駅まで、空本さんは車で互いの帰路を進んでいく。


 締め切りまであと四十六時間。頑張ろう。


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