「結婚不適合者」
真由との一件が終わり、部屋で一人寝ていた。
起きると、夕方の六時過ぎだった。携帯が光ってたので、開くと真由からメールが来ていた。
なんと三件も。一ヶ月にメールが三件も来ない俺にとっては、大記録ものだ。
まぁ、内容はそんなたいしたものではなかったが。
一件目は、「これからよろしくね。あと、夏休みとか絶対どこか遊びにいこうね。絶対だからね」
という、まるで付き合って一ヶ月かと言いたくなるようなメール内容だった。あくまで、俺たちは、「友達」という関係からやり直しているので、こういうメールは、少し恥ずかしい。
二件目は、「何で、メール返してくれないの(泣)」という、束縛きつくて、重い女のようなメールが来ていた。こうなると、別れる寸前のカップルみたいになるから、束縛って害悪でしかない。
三件目は、怒りマークだけ送られていた。
後で、メールで謝っておこうと、思った。
俺は、「ごめん、寝てました。絶対遊びます」と返信した。
そして、リビングに向かうと、妹の空が、台所で料理をしていた。俺は気になって、
「おかえり。何作ってんの?」
「ん~、ハンバーグだよ」
妹の笑顔が、眩しい。こんな女の子なら、モテるんだろうな。それに比べて、俺は......。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと、病んでしまいそうになった」
「大丈夫。大丈夫」
何が大丈夫なのか聞きたい、すごく聞きたい。
「今日も、母さんと父さんは、帰ってこないのか?」
「多分ね。最近、仕事が忙しいって言ってた」
俺は、そんなこと聞いてないとかそんな小さいことは、言わなかった。
そもそも、今、一番俺が暇である。それなのに、妹に料理させているって、俺って本当に何なんだって、自己嫌悪に陥りそうになる。
「バイトとか、しといた方がいいのかな......」
「しなくていいんじゃない」
「何で?」
「いや、『今』はね。大学生になってから始めても、遅くは無いと思うよ。それにこれから、高校生だよ。そんな最初から、バイトなんかしたって、授業とかついていけなくなったら、元も子もないよ」
妹に叱られるとか、もう兄として、酷いものだ。
でも、空の言ってることは、正しいと思う。
「せっかく頭の良い学校行ったんだから、ちゃんとしなきゃだめだよ」
「ありがとう、妹よ。兄は元気が出たよ」
「どういたしまして。お兄ちゃん」
兄妹で、仲が良いのは、非常にいいことだと思う。
「お兄ちゃん、お皿出しといて。もうすぐ出来るから」
「はい。分かりました」
「お皿に乗せるよ」
お皿に乗ったハンバーグは、とてもよく焦げてらっしゃった。空は、まだそこまで、上手ではなかった。
「ごめん、ちょっと焦がしちゃった」
「大丈夫だよ。料理は、練習して慣れてくるもんだし、これは、練習やと思えば大丈夫やって」
空は申し訳なさそうにしていた。俺は頭を撫でてあげた。
「結婚するまでなら、何回でも練習すればいい」
謎の名言を吐いて、皿をテーブルに持っていく。
ハンバーグの味は......言わなくてもいいだろう。
四月三日。
俺は制服を取りに、高校まで向かっていた。中学校の制服で行くべきか、私服で行くべきかどうか悩んだが、一応高校なので、制服で行くことにした。
今度は、制服の控えと小説を持っていき、電車で読んでいた。揺られて三十分後。
目的の駅に着き、高校まで歩いていった。
制服を受けとる場所までいくと、私服七割、制服三割といった感じだった。
こういうとき、すごく恥ずかしく感じるのは、何故だろう。別に間違えてはないはずなのに、何か恥ずかしい気分になる。列にならび、待っていると、ふと、あの娘を思い出していた。説明会のときに、荷物を持ってあげたあの女の子。
名前は......? 名前何だったかな? あぁ思い出せない。メモしときゃ良かった。すげぇ良い名前だった気がする。そして、順番が回ってきた。制服を受け取り、そのまま高校をあとにした。
制服を着た人が、制服を持って帰る。
何か面白く感じるのは、俺だけか、俺だけだな。
その日、俺は一日中悩み続けた。
家へ帰ると、空が待っていた。部活は、休みだったらしい。
「お兄ちゃん、制服は?」
「持ってるよ」
「一回着てみて」
「別にいいけど、興味あるの?」
「興味はあるよ」
「じゃあ、着替えるから、リビングから出といて」
「着替え終わったら呼んでね♪」
「分かった」
そして、俺は新しい制服を取り出した。
制服から制服に着替える。
面白く感じるのは、俺だけか、俺だけだな。
「着替えたぞ~入ってきていいよ」
「失礼します」
「どうですか」
「普通だね」
「・・・」
「あぁ、別に良い意味で、普通だよ」
「・・・」
「ごめんなさい」
空の感想は、普通。
一番言われて困るのは、普通。
良い意味の普通は、悪い意味の普通と何が違うのか、少し考えないといけないな。
こうなったら、友達の感想を聞いてみよう。
最近出来た友達に、メールを送る。
返ってきたメールは、「家にいっていい?」
「出来れば、そうしてほしい」と俺は、返す。
「分かった。今すぐ行くね」
一分後。
ピーンポーン。
俺は、玄関に向かう。友達が、来たようだ。
玄関を開くと、友達の柳井真由さんが来ていた。
俺は、
「どうですか?」
友達は、
「普通だね。期待して損した」
「柳井さん。帰ってください」
俺は、勢いよくドアを閉めると、向こうから
「ちょっと、率直な感想言っただけじゃん。あと、柳井さんって言わないで。真由ってちゃんと呼んで!」
「バカ、真由のバカ。もう知らない」
俺は、すぐに自分の部屋で着替えた。
四月五日。入学式の二日前。
高校の始業式は、明日。
珍しく俺は、朝早く起きてしまった。
二度寝出来そうになかったので、リビングに向かう。
「珍しいね。翼が早く起きるなんて」
「何か、目が覚めちゃって。朝ごはんある?」
「パンでいい?」
「じゃあ、お願い」
朝早かったので、ニュース番組しかなかった。
しかも今は、「結婚不適合者」の話題で持ちきりだった。今日が更新の日らしいので、家に市役所から封筒が届けば、「結婚不適合者」に認定される。
多分、多くの人が不安に思っている。
ある意味、これからの三年間がかかっているので、冗談でもからかったりしてはいけない。
ニュース番組では、現役の「結婚不適合者」に取材していたり、アンケートをとっていたりと、注目度が高いニュースの一つである。
「パン焼けたよ」
「は~い」
俺は、パンを食べながら、テレビをずっと見ていた。俺は、「結婚不適合者」になるかもしれないとは、微塵も思っていない。
「それじゃあ、仕事いってきます」
「いってらっしゃい」
俺は、母さんを見送った。
それからしばらく、ボーッとテレビを見ていた。
すると、ストンという音が玄関から聞こえた。
俺は、何だろうと思い、玄関に向かった。
すると、玄関に封筒があった。
嫌な予感がした。ものすごい嫌な予感がした。
「ありえない。ありえない。ありえない」
そう呟きながら、俺は少しずつ、歩みを進めた。
まさかと思った。そんなわけがないと思った。
でも、この世のなかは、俺に対して、不親切だった。
封筒のなかに書いてあったのは、
「水本翼さんを、『結婚不適合者』に認定することをここに記す」
「嘘だよ。俺が何やったっていうんだよーーーー」
そして、俺の波乱の高校三年間が、始まろうとしていた。