試験二週間前
生徒会長から空本さんの忠告を受けて、その日は空本さんのことをちょっと観察してみた。
朝におはようと挨拶をし、空本さんの方を見る。空本さんは何人かの女子と普通に仲良く話をしている。とりあえず表向きだけだが、もしかしたら仲良くしてる他の女子が悪口を言ってるかもしれない。
空本さんは勉強も出来るため、課題を写さしてと頼ってくる女子が何人もいる。
一日を通して、空本さんに対しては、特に恐いという印象はない。
今日だけ観察しても、期待の結果が現れることはない。これから何回かこういう調査を続けてみることを決めた。
今日の部活は何事もなく終わっていった。
あれから、投書箱を振ってみたりして、入ってるか確認してみるけど紙の音が全然しない。
こういうのって告知でもしておかないと、俺がこの学校にいる間に一枚も入れられる気がしない。
木曜日。
再来週の木曜日から土日を挟んで四日間で中間試験が始まる。一番いい日程であるかもしれない。
試験の範囲や時間割は未発表であるけれど、覚えるような教科は土日が欲しいものだ。でも、平均点が上がるから差が付きにくい。まぁ、勉強が出来る人はどんな日程でこようと、高得点取るけどな。
あと、二週間で試験が始まる。部活には行きたくない。今日はサボってみようかな、どうせ相談なんか来てもらってもやる気がほとんどないし、一回だけサボってみよう。これは勇気が必要だ。
帰る瞬間に頭を「無」にして、俺は悪いことをしていないと自分で自分を洗脳する荒技をする。
六時限目の授業が終わり、帰る準備をする。
帰りのホームルームもすぐに終わり、掃除の当番には当たってないので、速攻帰る。
なるべく誰にも会わないようにというのは、不可能だから空本さんに会わなければ俺の勝利。
会ったとしても、逃げれば俺の勝利。
ほとんどのパターンは俺の勝利だ、
下駄箱でいつもよりもスピーディーに靴を履き替えていると、真横で声が聞こえた。
「今日も・・・部活だよ」
「ひぃぃ」
漫画でしか言わないような悲鳴が出てきた。
確か今日は空本さんの班が掃除の番だったはず。なのにどうして・・・
「今日はホームルームが終わって、いつもより急いでたよね? まるで、誰かから逃げるかのように」
「そ、そそそそんなこたはございましぇん」
軽いホラー映画みたいに怖かった。生徒会長が伝えたかった恐いってこれのこと?
「何で帰ろうとしたの? 理由はここで聞くから」
「そ、それはですね」
必死に言い訳を探している。
今のところ「気の迷い」というのが、理由としては最有力だ。だって、たまにはサボりたいんだよ。
「試験も二週間前だから、たまには部活も休んで勉強したいという気持ちがありまして・・・」
「部室でも勉強は出来ますよ」
敬語やめてって言ってた人が敬語使ってるよー、泣いちゃうぐらいに恐怖感が伝わってるよ。
こうなったら・・・
「空本さん・・・・・・・・・さようなら!!!」
全力で走り抜けた。俺は殺されるかもしれない。
そう直感した俺は校門まで全力で逃げた。
俺は振り返らない。振り返れば空本さんの恐ろしい顔が待ち構えてるに違いない。
校門を出ると、黒い車から運転手が出てくる。
「水本さん、少しだけお待ちください」
空本さんの運転手の東山さんだった。
俺は半笑いで後ずさりをしていた。
「え、え、何ですか?」
「先ほど電話で水本さんの足止めをしろと申されましたため、このように待っていただくつもりです」
多分、こういう運転手の人は武道を極めているような人が多いという俺の偏見が足の筋肉を動かさないようにしているのかもしれない。
「水本君、今日は送っていくから話でもしよっか、車なら電車を使うよりも早く着くと思うんだけど」
これを断ることはできない。少しだけ生徒会長の言ったことが理解できた気がした。確かに恐い。
「では、お言葉に甘えます」
「聞きたいこともあるし」
ボソッと呟かれる言葉に冷や汗が流れる。
俺は為す術なく、車に乗せられることになった。




