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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
71/112

誰だ!誰だ!誰だ~

 ゴールデンウィークが終わり、学校に向かう。正確には、今日行けば明日は土曜日になるから、ゴールデンウィークが終わってないというか、故意に終わらせようとしない人間が数人ほどいるはずだ。

 家に居続けても運動不足になるし、駅から学校まで歩くことが、運動代わりになれば問題なし。

 ここから、三連休や突発的な祝日は海の日まで存在しないと知っているため、本当に心底しんどい。

 中間試験まで一ヶ月は切ってる。そろそろ、試験勉強をしないと学年トップテンには入れない。


「おはよー」

空本(そらもと)さん、おはよーです」


 空本さんは俺と挨拶を交わすと、すぐに自分の席に歩いていった。

 部活もなかったため、会うのはゴールデンウィーク以来になる。この時期ぐらいから運動系の部活が活発になり、練習中の声がよく聞こえてくる。

 しかし、同時に暑さが増してくるため、体調管理もしっかりしておかないと色々と迷惑をかける。

 学校生活は、制服が冬服のため、暑さで授業に集中できなくなる。特に校舎側で、名字がま行やらや行の我々にとっては、苦でしかない。


「一昨日楽しかったねー」

「そうだな」


 村上(むらかみ)君にゴールデンウィークに家に来てもらい、一緒に遊んだりして過ごしたという話は、また今度させてもらおう。とにかく楽しく、悔しかった。


「また遊びにいくね」

「もちろんですとも」

「ちゃんと課題はやってきた?」

「それはちゃんとやってきてるよ」

 実際はかなり追い込まれていた。途中まではコツコツと積み重ねてたが、気が付いたらゴールデンウィークの最終日に何故か課題が結構残っていた。午前三時までシャーペンを片手に握りしめ、終わったと同時に死んだ様に眠った。

 それから、ゴールデンウィークに何していたのかという話を互いに話しているとチャイムが鳴った。一時限目の授業の先生が教室に入ってくる。


 委員長という肩書きを持つ身としては、授業の始めと終わりで起立と礼を言わないといけない。

 しかし、これで内申点が少しでも上がったり、校内の推薦で大学を決められるのなら、楽なものだ。

 クラスの雰囲気は少しずつ決まっていっている。明るい人は固まり、物静かな人は個人もしくは二人ぐらいで過ごしてることが多くなっている。俺は物静かな部類に分けられているだろう。


「それじゃあ、課題を集めて提出よろしくね~、日番の人よろしくねぇ」

 担任の森野(もりの)先生がそう言う。今日の日番は確か・・・空本さんか、よし、手伝っておこう。イメージアップになりそうだな。俺って超腹黒。


 しかし、そんなことをする必要はなかった。

 空本さんを手伝おうとする女子がちらほら現れていたので、俺自身は必要ではないと感じた。

 俺は教室から出ていき、部室へと向かう。

 職員室で鍵を取り、眠気による欠伸を大きくかまして、口を大きく開いてしまう。それを手で覆い隠しながら階段を上がっていく。


 部室の前に到着すると、今までとは少し違った光景を目にする。


「恋愛相談投書箱」


 段ボールで作った箱にマジックでそう書かれていたそれは明らかに異様なものだった。

 一体誰がこれを作ったのだろうか? 気にするのはまずそこだった。空本さんなのか? 顧問か? 謎を考えて続けていたが手がかりそのものが存在しない。まずは空本さんが来たら聞いてみよう。

 俺は鍵を使い、部室の戸を開く。カバンをドサッと置いて、一度部室から出ていく。不安が増してしまう。早く来ないかなぁ、怖いんだよなぁ、こういうの。なるべく早く解決がしたい。

 部室の近くの階段から足音が僅かだが聞こえた。空本さんだろう。やっと仲間が増える。一人は本当に心細いからな。中学校のときのぼっちは軽い地獄だった。

 音の主は、予想通り空本さんだった。


「部室の鍵忘れたの?」

 まぁ、そう言われてもおかしくはない。でも、階段の下から言われることではない。

「違う違う。ちょっと不審なものがあって」

「不審なもの?」

 空本さんが階段を上りきり、部室の前の状況を見る。そして、それをじっくりと見る。

水本(みずもと)君が作ったの?」

「空本さんが作ったんじゃないの?」

「私は作らないよ。作るとしてももう少し綺麗なものを作ると思うよ」

 軽くディスってるのはさておいて、空本さんが作ったのではない。となると、顧問かな?

 いや、あの先生が作るとは思えない。却下。



「どう? その投書箱・・・よく出来てるでしょ」



 俺の後ろから凛とした声が届く。

 俺と空本さんは同時ぐらいに振り返り、声のした方向に目を向ける。

 その人は、確か入学説明会や対面式で見た人だ。

 名前は覚えてるようで、覚えてないな。

 でも、肩書きは覚えてる。


「生徒会長さん?」


「ふふっ、初めまして、生徒会長の東島(ひがししま)佐奈(さな)です」


 生徒会長は微笑みながらこちらに近づいてくる。

 だが、明らかに俺と目線は合ってない。つまり・・・

風花(ふうか)、久しぶりね。元気だったかしら」

「お久しぶりです。東島さん」

「そんな名字にさん付けしなくていいのよ」

 明らかに俺は無視されてるな。目配せをしても無意味だ。これは帰った方がいいのかな?

「ごめんなさいね、あなたを無視するようなことしちゃって。お名前は何て言うの?」

 突然、俺に降りかかってきた言葉の刃。

「あー、一年の水本(みずもと)(つばさ)と言います」

 簡単な自己紹介で会話を終わらせる。


「そう、悪いけど今日は少し席を外してもらえるかしら、少し二人で話したいの」


 威圧してくる感じで言葉が向けられる。

 二人は何かしらの関係か因縁かがあるだろう。これは俺がいたところで邪魔でしかない。

 空本さんに軽く目線を送る。空本さんは少し考えてから頷いた。


「それでは、失礼します。空本さん、また月曜日」

「うん。それじゃあ、さよなら」

「さよなら」


 俺は階段を下りて、下駄箱まで足を進める。

 空本さんと生徒会長の関係を考えた。

 あるとするなら、中学校の先輩後輩、親戚、あとは何だろう? 靴を取り、他に考えが浮かばない。

 俺は決して盗み聞きなどをしようとはしない。校外活動の例外を除いてだけれどな。

 いつもより早く帰れることは嬉しい。けれど、何か物足りない。本屋にでも寄ろう。


 その夜、空本さん宛てにメールを書いたみたが、削除をする。これを数回繰り返す。

 また、月曜日に聞けばいい。少しでもモヤモヤした脳内を解消するために本を読み続けた。


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