そばにいるのは
「海お姉ちゃん、お悩みは何ですか?」
「だから悩みなんて無いから大丈夫だよ。それより敷いてあるお布団は?」
「必要ないと思う。今日はこの布団で海お姉ちゃんと寝ることにしたから」
俺は海お姉ちゃんの手を握る。
「だから、何でもいいから話してよ。元気が無いなら明日どっか行こう。遊びにでも行こうよ」
海お姉ちゃんの手は、まだ温かい。
「わざわざ気を使ってくれてありがとね、でも本当に悩みは無いの」
「だって、元気が無かったから・・・」
「悩みは解決してるから大丈夫。それより・・・」
「?」
「翼君の方が、悩みがあるんじゃないかな?」
「俺は無いよ。そんなに溜め込まないから」
「嘘だよ、そんな嘘、私は分かってるんだよ、私も翼君も同じだから」
少し嬉しそうに話をしてくれる海お姉ちゃんが、そこにいた。
「同じって?」
「私も翼君も下に弟か妹がいるから、何かあったら溜め込んじゃう性格になってるから」
「俺はそんなことは無いと思うけど・・・」
「でも、たまに甘えたいなぁとか思うでしょ?」
その問いに、俺は素直にうんと言ってしまう。
俺は帰宅部だったから、帰ったら家事の手伝いをやったりする。けれど妹は部活をやってるというだけで、何もしなくていいというのが、俺にとって少ししんどかった。たまには代わって欲しかった。
そんな風に思ったときは、この経験がいつか役に立つと思い込んで取り組んでいた。
あの時の自分はわがままだったと思う。
「私もね、甘えたいなって思うことはあるよ」
「そうなんだ」
「それじゃあ、翼君はお悩みは無いの?」
「・・・・・・少し甘えてみたいです」
海お姉ちゃんの相談を聞くつもりが、逆に俺が海お姉ちゃんにお願いをしてしまっている。
「・・・いいよ、具体的にどうしてほしい?」
「と言っても、具体的なら思い浮かばないなぁ」
甘えてみたいというお願いの解決。いつかあの部室で聞くことになりそうだなとふと思った。
「ちょっとだけ恥ずかしいかもしれないけど・・・いい?」
「海お姉ちゃん、何するの?」
俺の上半身が海お姉ちゃんの腕によって、そっと包み込まれた。要は、抱きしめられた。
俺の顔が、海お姉ちゃんの胸に吸い寄せられる。当たってる・・・胸が当たってる。そして、柔らかい。
けれど、落ち着く。優しさが俺を覆い隠してくれてるような気がした。これが母性というものか。
「うぅ、ぅん・・・・・・すぅ」
俺は寝てしまいそうだった。俺も海お姉ちゃんを無意識の中でぎゅっと抱き付いていた。
「おやすみなさい、翼君」
目が覚めた時は、眠りについた時と同じ状態のままだった。海お姉ちゃんの胸に溺れ、ずっとこのままだったらいいのになぁと思ったりした。
海お姉ちゃんはまだスヤスヤと寝ている。これは起こさない方がいいな。別にまだ胸に埋もれていたいとか匂いを嗅いでいたいと考えてないよ。
・・・もう少し寝ておこう。自分の下半身が軽く反応してしまってる。寝ることに集中しよう。
二度寝をして、今は朝の九時。
海お姉ちゃんも起きてしまったので、幸せな時間は終わりを迎えた。甘えさせてくれてありがとうとお礼を言って、リビングで朝ごはんを食べる。
「泊めてくれてありがとね、また真と遊びに来るね。それじゃあ、失礼します」
その後、バイトが午後からあると伝えられ、海お姉ちゃんは家をあとにした。
今日は祝日。
校外活動の感想を書くという課題もあるし、昨日やっただけではそう簡単に終わらない。
今日は一日かけて、課題に立ち向かわないといけない。カバンから感想を書くための用紙を取り、適当に書き上げる。こういうのは、班のみんなと頑張ったとか書くのではなく、班のみんなと協力する中で自分が何をしたらいいのかというのを考えさせられて、自分が少し成長出来たのではないかと思うとか書いてれば、周りと俺は、一味違う感を見せつけられる。あと、言い回しを難しくすれば、文章の量も増えるし、楽々と終わらせられる。
こんな感じで、一つ課題を終わらせる。
昼ごはんを何にしようかと考えるが、食いたいものもないし、晩ごはんまで食べずに過ごそうかな、リビングにお菓子あるからそれ持ってこよっと。
「翼、今から空と買い物に行くけど来る?」
我が母親が突然、部屋に襲来してくる。特にやましいことが無くても、焦るのは男なら当たり前。
「俺はいいや、課題するから」
「了解。晩ごはんなんか買ってこようか?」
「うーん。唐揚げとか買ってきて」
分かったと言い、部屋から出ていく。
今日は暇だなぁ。俺は暇な時間を感じた。
こういうときに真由に会いたいなぁと思う。




