再出発
約一年ぶりに面と向かって、会話した俺と真由。
何故真由が俺の家を知っているかというと、家が向かいにあり、昔からの幼馴染だったからである。
「久しぶり」
彼女の言葉に俺はそう返した。
「ちょっと話が、したかったの・・・いい?」
「上がるの? それとも玄関でこのまま話す?」
「上がらせてもらっていいかな?」
俺は彼女を家に上げることにした。
彼女をリビングまで連れていき、ソファーに座らせる。
「飲み物は、コーヒー牛乳でいいかな?」
「それでいいよ」
俺は台所に行き、新しいコップを取り、コーヒー牛乳を注いだ。それをソファーの前のテーブルに置く。
「・・・」
「・・・」
俺と彼女の間に、冷たい沈黙が流れる。
そして、俺が口火を切った。
「話があるんじゃなかったの?」
「あぁ...うん...」
俺は待つ。彼女が話始めるまで待つ。
「高校は、どこに行くの?」
多分、彼女は、本題に行く前に、世間話を入れようと思ったのだろう。
「常清だけど」
「常清なんだ...高校は、別々なんだね...」
「真由は、松野南なの?」
「うん...家から近かったから」
「そうか...」
会話が途切れる。今までは、互いに言い合えた仲だったが、俺が彼女に告白したことによって、それが出来なくなってしまっている。
「・・・」
「・・・」
また、沈黙が流れる。
だが、今度は、彼女が口火を切った。
「あのね、実はあの日のことを謝りたかったの」
あの日というのは、俺が告白した日だろう。
「別に、謝る必要は無いと思うよ。俺が勝手に告白しただけだから」
俺からすれば、今さら謝られてもどうしようもない。
「私は、あの時、翼の告白に驚いたの。翼が私のこと好きだったって信じられなかったの」
「ひた隠しにしてたからな」
「私ね、別に翼のこと嫌いだなんて、一度も思ったことはないからね。むしろ好きだったと思う。だから告白されたとき、すごく嬉しかったの」
「確かに、告白したときにすごい嬉しいとか言ってたな。それでも俺は、振られたけどな」
嫌みっぽく言った俺は、本当に駄目な男だと思う。
「私は思ったの。翼とはこの先ずっと一緒にいたいなって。でも、もし告白にOKしたら、付き合うことになるじゃん。もし別れたら、もう会えなくなるって思ったの。幼馴染の関係は、全部消えてしまう。私はそれが嫌だった。嫌だったの」
「だから、告白を断ったのか...」
なんともいえなかった。
だとすれば、俺の中に一つ疑問が出てきた。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「じゃあ、お前が卒業式のときに手を握って、歩いていた男は何なの? 彼氏なんじゃないの?」
「何で、その事知ってるの? 見てたの? だとしたら、あの人は、私とは別に何の関係もないよ」
不信感が募る。
「何の関係もない人と、卒業式に手繋いでいるってありえないぞ。普通だったらその二人はカップルだと思うよ」
「本当に何の関係もないの! 信じて......」
「信じてって言われたって、事実だということは認めるんだ」
「それは...」
俺の中で、女というものが分からなくなる。
「お前の言っていることの意味が分からない。俺とずっと一緒にいたいと言えば、俺以外の男と普通に手繋いだりしてるし、それで信じてって言われて信じるやつがいると思うか? 俺は思わない。例えそれが、幼馴染であったとしてもだ。一つだけ事実を聞かせてくれ。卒業式のときの男と、今現在付き合っているのか?」
彼女は何も言わない。図星である。
「つまり、お前が言ってたことは、全て嘘であるということだ。俺と一緒にいたいということも、幼馴染の関係が消えることが嫌だということも、そもそも告白自体、本当は迷惑だったんじゃないのか?」
「それは違う」
彼女の声は、低く、そして震えていた。
それでも俺は止めない。
「何が違うの? 本当に一緒にいたいと思ってたら、付き合うと思うよ。もし別れたらってあの時、言ってたけど、付き合う前に別れること考えている時点で、おかしいじゃん」
俺はヒートアップしていた。
「俺は嘘はつかない。お前が好きだったということを否定したりはしない。ただ、今、お前のことを好きになることはない」
「結局、ずっと俺の片想いだけだったんだろうな」
ふぅと息を吐き、少し休んだ。
「女なんか嘘つきだ。女なんかもう信じない」
全てを出しきったぐらい俺は喋った。今日が今までで、一番言葉を出したと思う。
彼女を見ると、泣いていた。
「言い過ぎたかもしれないが、俺が思っていることだ」
それから、しばらく時間だけが流れた
彼女は、手で涙を拭い、一言だけ言った。
「ねぇ、友達からならやり直せる?」
「俺は別に平気だけど、だって友達が一人増えるから」
「じゃあ、全部やり直す。この言葉は嘘じゃない」
「俺は信じてないけど」
「本当だからね」
俺たちは多分、最悪のバッドエンディングだけは回避した。結末は、バッドだったけど。
「じゃあ、私、帰るね」
「玄関まで見送るよ」
そういって、俺は玄関まで彼女を見届けた。
「そういえば、メールアドレス教えて」
「メールアドレス交換しただろ」
「昨日メール送ったら、そのまま帰ってきたけど」
多分、卒業式の次の日に、登録してたアドレスをほぼ消して、メールアドレス変えたから、こうなったのかなとは、絶対言えない。
「赤外線でいいか?」
「私、受信するね」
「じゃあ、送信するわ」
「登録できたから、今度は、送信するね」
「空メール送ればいいんじゃないの?」
「何か嫌な予感がしたから」
そう言い、俺は、受信し登録した。
「じゃあ、またね」
「じゃあ、また」
俺たちは仲直り(?)をして、再出発することになった。
本当なら、もう二度と元には戻れないと思ったし、再出発もできなかったと思う。
「俺は、本当に駄目な男だ」
二回も、女の子を泣かせている俺はそう思う。
「俺は、『結婚不適合者』なんじゃないのか?」
そう言い、少しだけ笑った。
「そんなわけないか」
そして、俺は自分の部屋に戻った。