年上彼女
「俺はリビングで寝るから、海お姉ちゃんは俺の部屋のベッド使って寝ていいよ」
「それはだめだよ」
俺の提案は否決され、新たな提案を示す。
「妹と寝ますか?」
「~~!!」
そうじゃないということが言葉が無くても伝わった。それはつまり一緒に寝てもいいのでしょうか。
「じゃ、じゃあ、一緒に寝ますか?」
「うん・・・それがいい」
海お姉ちゃんは本当にそれでいいのかな? やっぱり、部屋に布団でも敷いておいて、俺がそこに寝た方が互いのためにいいんのではないのか。
海お姉ちゃんがお風呂にいってる間でも用意をしておこう。
「部屋、行こっか」
女の子を誘ってるチャラ男みたいな言い方が、自分の中では大嫌いだと分かってるのに、言っている自分が悲しくなる。
部屋に入っても物静かだった。まこっちゃんがいないことがここまで変化をもたらすとは思わなかった。でも、俺と海お姉ちゃんの関係は、まこっちゃんあっての関係だったから、普通に考えればこうなることは必然だ。
「海お姉ちゃん。勉強教えて」
沈黙に耐えられなくなったため、俺は自分から勉強を教えてもらうことを言ってみた。自分からというのが、俺の成長ポイントだ。
「私に教えられることがあるなら・・・」
俺は勉強机の椅子に座って、教科書を本棚から取り出して、机の上で開いた。
海お姉ちゃんは、家庭教師のように俺のすぐ傍に寄り添いながら教科書を眺めている。隣を見れば、見惚れてしまいそうな横顔がそこに存在する。その顔がとても色っぽい。
そういえば、どっかの県の方言で「い」と「え」が逆になるのがあったような。色っぽいはエロっぽえになるのかな? お前はエロっぽえなぁは色っぽいって褒められてるということになるんだな。
俺だけが座って、海お姉ちゃんは立っている。ちょっとしたミニテーブルでも部屋で置きたいなぁ。
でも、それを買っちゃうと勉強机の存在意義が揺らいでしまいそうだ。
「懐かしいなぁ、高校の勉強って」
「海お姉ちゃんは成績とかよかったの?」
「良くも悪くもないかな? 翼君は頭がいいんだよね。うらやましいなぁ。頭がいいって」
「そんなことないよ」
勉強をし続けた理由なんか、友達もいないから外で遊ぶということもしなくなって、仕方なくやってたというくだらない理由だからな。結果的に一人で出かけたりして遊んでたけどな。
あと、変に成績がよかったら先生に目を付けられることもある。ちょっとだけ期待をされちゃう。
「大学って楽しい?」
「まあまあかな」
まあまあってどうなんだろ? 良いところもあれば、悪いところもあるっていう意味なのかな?
「サークル(?)とかに入ってるの?」
「入ってないよ。バイトとかで忙しいから」
大学生って、遊んでるかバイトしてるかのその二つしかイメージがない。あと、酒飲んでるか。
課題の半分を終わらせたところで、お茶を取りに行く。コップを二つ持ち、一・五リットルのペットボトルに入ってあるお茶を注ぐ。
「海お姉ちゃん、お茶持ってきたよ」
「ごめんね、私がやらないといけないのに」
海お姉ちゃんは優しい。こういう優しさが男の心を弄ぶんだよ。
「お客様ですから、のんびりしといてください」
「まだ勉強するの?」
「今日はこれぐらいにしとこうかな」
「お疲れさま」
「お風呂お湯入れてきます」
部屋から浴室に行き、栓をしているか確認してお湯張りボタンを押す。栓を確認しましたかと音声が流れる。ボタン一つで、ここまで出来るんだから、その内部屋から出なくても良くなるぐらい進歩することを願う。
「三十分ぐらいしたら入れるから」
「ど、どっちが先に入る?」
どっちでもいいんじゃないと答えようとしたが、海お姉ちゃんは気を使って先に入るようにしてくれてるのかな?
「俺が先に入ってもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
俺が先に入るということに決まった。
そこから、しばらく会話が無くなり、俺は泣く泣く空に助けを求めた。男として情けない。
「私がいてもやることないと思うけどなー」
「頼む。会話の橋渡し的なことをしてください」
「別にいいけど」
「あと、出来れば女子で盛り上がってもらいたい」
「はぁ、しっかりしてよ」
「ごめんなさい」
これはあれだな。デートに友達とか母親連れてくるみたいなことかな? 相手に嫌われるやつ。俺、海お姉ちゃんに嫌われたくないよ。
「海お姉ちゃん、こちらが妹の空です」
「あぁー、どうもはじめましてかな?」
「はじめましてでは無いと思いますけど、あんまり面識は無いですかね。お兄ちゃんの妹の空です」
「えーと、私は・・・どういう関係って言ったら、分かりやすいのかな? 翼君の友達の姉の宮本海です」
「どうもです。昔から仲良かったんですか?」
「それなりに・・・三人で遊ぶこともあったから」
まだそれなりに会話があるけれど、何か話題が無いと止まりそうな気がする。
「何でお兄ちゃんの友達はいないんですか?」
「えぇーと、バイト先に呼ばれたとかなんとかで」
「今日はゆっくりしていってくださいね」
「お世話になります。明日には帰りますから」
「お兄ちゃん、先にお風呂に入っていい?」
「いいけど」
「それじゃあ、お先にお風呂いただきます」
空は颯爽と部屋から出ていってしまった。
また二人きりになってしまった。
「漫画でも読む?」
「オススメとかある?」
本棚で自分が好きな漫画を引き抜き、海お姉ちゃんに渡してみた。好みかどうか全然分からないけれど、漫画で会話が始まればいいなと期待を少しだけしている。軽いギャグ漫画だ。
「フフッ」
笑った顔が可愛い。すげー嬉しいんだけど。
「これって、何巻まで出てるの?」
「今で、八巻まであるけど」
「面白いから、もっと読んでもいい?」
「も、もちろん!!」
漫画は時間を忘れさせる。海お姉ちゃんは読み続けて、ある意味楽だった。たまに海お姉ちゃんが声を出して笑ってたのが幸せな時間のように思えた。




