お泊まり
四人での焼肉も終わり、家まで送ってもらった。
帰りは満腹になっているのか、疲れていて誰も話をしようとしない。俺にとってはありがたいけど。
「「ありがとうございました」」
家の前に送ってもらい、車に乗ってる二人にお礼を申し上げた。
「こちらこそありがとね。また学校でね」
「うん」
「おやすみ~」
「「おやすみ~」」
窓から手を振りながら、車は走り出した。
「おじゃましまーすっ」
「まこっちゃん、いらっしゃ~い」
「おじゃまします」
「海お姉ちゃんも入って入って」
今は昼の二時。
遡ること昨日の夜。あるメールが突然来た。
「明日泊まりになるからよろしく」
てっきり俺は、夜には帰ってしまうとばかり思っていたが、実際はお泊まりになっていた。
それを家族に説明すると、快くOKしてもらった。
それから、部屋の掃除に取りかかった。と言っても、そこまで散らかってもない。部屋のゴミ箱に入ってあるのを、ゴミ袋に入れておく。
「泊まるってことは、布団とかいるのか」
海お姉ちゃんにはベッドで寝てもらって、俺とまこっちゃんは、下に布団を敷いて寝るとするか。
それは来てから考えても問題は無いか。
現在に戻る。
「玄関とか全然変わってないねぇ」
引っ越しては無いからそうなんだろうなぁ。
荷物を持っている二人をリビングに案内する。
「わぁぁ、翼の家って久しぶりだわ」
「四年ぶりぐらいだったっけ?」
「私は真ほど頻繁には来てなかったから、そこまで覚えてないなぁ」
海お姉ちゃんが俺の家に来るのって、実質十回も無かったような気がする。
「とりあえず座って座って。飲み物は何がいい?」
「じゃあ、お茶をお願いします」
「俺は、コーラで」
二人をソファーに座らせて、飲み物を出す。
懐かしさを感じる。
「部屋見せろよ」
「別にいいけど、特に何もないぞ」
「姉ちゃんも部屋みたいもんね~」
「ちょっ、ちょっと」
「海お姉ちゃんも見たいの?」
「えっ、えっと、まぁ、見たくないって言ったら嘘になっちゃうかも……」
俺の部屋なんて見るものも無いけど、そんなに言われてしまったら見せないといけないな。
「さて、見に行きましょか?」
「半笑いでそんなこと言うな」
「翼君の部屋かぁ」
階段を上り、部屋の前に到着する。
「向こうの部屋って妹さんの?」
「そうそう」
「それじゃあ、失礼しまーす」
「おじゃまします」
部屋に三人で入っていったけれど、特にこれといった驚きはない。当たり前だけれど。
片付けも結構していたし、真新しさなんていうものも一つもない。
「適当に座って」
「姉ちゃんはベッドの上にでも座ったら?」
「だ、大丈夫だから、そんなことしなくて」
「別に座っても大丈夫だけど」
俺のベッドはそんなに汚くはないはずだよ。ちゃんとコロコロだったり、消臭スプレーをばらまいたりして、綺麗にしたつもりだよ。
「ほらほら、姉ちゃんチャンスだよ」
「ま、真!! い、いい加減にしなさい」
まこっちゃんが何を企んでいるのか全然読めないけれど、海お姉ちゃんが怒ってるのが、何だか可愛く見えてしまう。女の子の可愛く怒った顔って、本当に興奮しちゃうっていう人は、多分変態だな。
ただ、ガチでキレてる女の顔は般若の面と同じだと思うけどね。あんなの恐すぎるだろ。
「それにしても特に何にもない部屋だな」
「面白味が無くて、どうもすみませんね」
「でも、綺麗にしてるのは良いことだと思うよ」
綺麗にしてたのは昨日なんだとは言えない。
「ベッドの下とか見てみる?」
海お姉ちゃんが突然、そんなことを口にする。
「いや、翼はベッドの下なんかには隠すような簡単な人間ではないな。もっと、誰も考え付かないような場所に隠してしまうのが、水本翼だと思う」
「お前には俺がどう見えてんだよ」
「真面目で腹がちょっと黒い人間」
「そこそこ嫌な奴じゃねぇか」
「私は、翼君は良い子だと思うよ」
「うぅ・・・海お姉ちゃん、ありがとう」
涙が少し溜まりそうになったのを抑えた。
それからしばらくの間、二人に俺の部屋を荒らされた。特に出てきたものが何も無かったことが、二人にとってはとても残念そうな結果だった。まぁ、ほぼ確実に見つかるわけがないからな。
「どうする? これ以上は部屋にいてもすること無いし、リビングに戻ってゲームでもしない?」
「まこっちゃんって、ちょくちょく図々しくなるよね」
「ごめんね」
「海お姉ちゃんが謝る必要なんか無いからね」
「リビングに早く行こうぜ」
「はいはい」
リビングに戻り、ゲームをすることになった。
最後にやったのは真由と空と三人だったな。
また三人か、チーム分けが面倒になるから二人か四人でやるのが一番良いんだけどな。
「じゃあ、姉ちゃんと翼がチームな。俺は一人で充分だから」
「分かった。海お姉ちゃん! 一緒に頑張ろう」
「お、おー、頑張るぞー」
真由と空と三人でやったゲームをまたやる。
試合が始まり、海お姉ちゃんと協力してまこっちゃんをぶっ飛ばす。
案外まこっちゃんも上手かったが、本当のことを言うと俺の方がまだ上手かった。一対一なら多分勝てると思う。
「くそ、姉ちゃんから潰す」
「海お姉ちゃんは俺が守ります」
「・・・・・・!」
そこから、まこっちゃんの猛攻があったが、俺は何とか海お姉ちゃんを守りきり、試合に勝った。
「やったー、いぇーい。勝ったね海お姉ちゃん!」
「う、うん・・・」
「海お姉ちゃん?」
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
「トイレはドア出て左だからね」
「ありがと」
海お姉ちゃんはそそくさと逃げるようにリビングから出ていった。
「どうしたんだろう?」
「なぁなぁ、姉ちゃんのことを『海』って呼び捨てにしてみてよ」
「いや、急に何だよ」
「姉ちゃん喜ぶと思うからさ。一回だけ・・・ね」
「タイミングがあったら、言ってみるよ」
年上の女性を呼び捨てするには、ちょっと抵抗がある。真由は何となく呼び捨てに出来るけど、海お姉ちゃんは海お姉ちゃんって感じだから難しい。
海お姉ちゃんが戻ってきて、同じチームでもう一戦したところで、あることに気がついた。
「晩ごはんはどうする?」
泊まるってことは晩ごはんも一緒に食べることになるわけだから、一応聞いておかないとと思って聞いた。
「姉ちゃんが作ったらいいんじゃない?」
「えっ、私?」
「そうだ、翼と姉ちゃんが一緒に作れば?」
「それなら、真だって一緒に」
「俺、調理実習でも包丁握ったこと無いし、俺がいたら迷惑になるから、俺は何もしないでいるよ」
「海お姉ちゃんが良ければ、一緒に作って欲しい」
「・・・翼君が言うなら、私も頑張ります」
「それじゃあ、買い物にいってらっしゃーい」
結局、二人で買い物に行くことになった。




