プレゼント
車はデパートの地下駐車場に入っていった。
ゴールデンウィークというのもあり、満車に近いぐらい駐車場は混んでいる。
結局、二人だけ車から降りることになった。
展覧会の時と同様に、一時間半ぐらいしたら待ち合わせをすることにした。
デパートに入り、何となく歩き始める。
「どこに寄るの?」
「どこに寄ればいいのかな?」
それは、無計画過ぎるだろ。
「適当に寄っていくってことなら、ある程度は目星をつけておかないと、時間かかるから大変だよ」
「水本君は、最近の女子って何が好きだと思う?」
多分、最近の女子は「お金」が好きだと思うよ。
正確には、「お金」を恵んでくれる優しい人だな。偏見とかではないと思うけどな。事実だよ。
「最近の女子がその質問するの?」
「私は流行りとかよく分かってないから」
俺も分かってないよ。そこまで面白くないリズムのネタとか、マジで説明してほしい。
「妹さんは何が好きなの?」
「最近、あんまり話せてないから」
「年頃の女子ですかね~」
「アクセサリーなんかいいかな?」
「そういう小物って、彼氏とかから貰いたいんじゃないかな? 何かしらのお揃いのやつとか」
「そっか~、プレゼントって悩むな~」
俺もプレゼントでは本当に悩む。特に空の誕生日プレゼントは、何が欲しいのか分からないからお金だけ渡して買ってこいって一瞬考えたからな。
「ゲームセンターでぬいぐるみでも取る?」
「ぬいぐるみ・・・いいかもね。それに決定で」
「そんな決め方でいいの?」
「色々と考えてたら埒があかないから」
突然即決するからビックリしたよ。
俺達はまずデパートでゲームセンターを探した。
ゲームセンターというか、UFOキャッチャーとかがある遊び場だ。デパート内のマップを見て、そこまで歩いていく。
目的のゲームセンターに着くと、空本さんは軽く驚いていた。初めて来たのかな?
「何か色々あって面白そうだね」
「中学校の時は、ここじゃないけどゲーセンには通ってたかからな。面白いと思うよ」
「それで、目的のぬいぐるみはどこ?」
「あの辺りのUFOキャッチャーとか」
UFOキャッチャーの台のところに向かう。
「頑張って取らないといけないね」
「お金は多少かかるかもしれないけど」
「ねぇねぇ、これはどう? 喜んでくれるかな?」
空本さんが、指差していたのは可愛らしいキャラクターのぬいぐるみだった。
「それでいいと思うよ」
「よし、頑張るぞ~」
両手をグーにして張り切っているポーズをしている空本さんは、国籍男女問わず可愛いと思う。
「両替しなきゃ」
「そうですね」
財布に小銭が無い辺り、身分の差をまじまじと見せつけられるのが俺にとって辛いことだ。
「両替機はここにあるから」
「ありがとね」
そう言いながら、一万円札をぶっこもうとした。
「千円札の方がいいけど大丈夫?」
「今、千円札切らしてて」
千円札を切らすって初めて聞いたわ。お金を在庫のような表現にするのは、俺でもイラっとする。
「俺が出すから」
「それはさすがに・・・」
一万円札を全部百円玉にしたら百枚になるし、五百円玉でも二十枚になる。それは面倒だな。
UFOキャッチャーだと、下手すりゃ二、三千円ほどかかるから、それぐらいなら払ってあげても何とかなる。親に色々言われたら、謝るかバイトするかすれば何とかなる。
「俺もちょっと遊ぶつもりだし、そのためのお金だから、別に気にしなくていいから」
適当でまかせ言っておく。気にしなくていいからと言われて気にしない人っていないだろうな。
少しだけ気にしてもらえたらそれでいい。
「また、あとでちゃんと払うから」
俺はその言葉を無視して、さっさと両替機に千円札を二枚入れる。二千円あれば取れるだろう。
百円玉が二十枚じゃらじゃらと音を立てて出てくる。それを空本さんに渡しておく。
「それじゃ、頑張ってね。陰ながら応援しとく」
「えっ! 私一人でやるの?」
「やっぱり、その方がいいんじゃないかな?」
「でも、私・・・初めてだから」
その発言は変な誤解を招くから、時と場所に気を付けて。それを言うときは男と二人っきりのときにベッドの上でしか言っちゃだめなんですよ。
おっと、変態的な思想になっちゃった。
「妹さんの誕生日なんだから、自分で頑張れ」
「お手本だけ・・・ね!」
「まぁ、手本だけなら」
俺自身はそこまでUFOキャッチャーが上手いわけではない。だから、手本にもならない。
空本さんから百円玉を一枚もらい、片側アームしかないUFOキャッチャーをトライする。
ボタンを押す。横移動し、次は奥移動。
クレーンが降りていく。リングを引っかける。
「あっ」
「あっ」
奇跡というかなんというか、可愛いキャラクターのぬいぐるみが取り出し口に落ちていった。
「すごいね」
「うん、ありがとう」
俺はやらかしてしまった。どうしよう。
空本さんに渡しちゃおうか、でもお手本だしな。
俺はぬいぐるみを取り出し、そこからしばし沈黙が流れてしまった。
「お手本ありがとね、じゃあ、頑張ります」
「が、頑張ってください」
気まずい。可愛いぬいぐるみを持ってるのに、多分俺の顔すげー暗いと思う。
それから空本さんは千円ほど使ったが、取ることは出来なかった。店員さんに取りやすい位置に置いてもらえるよう頼んだ方がいいかもな。
俺は店員さんに探して、頼んでみた。
親切に手前の方に置いてもらい、俺達はありがとうございますとお礼を言い、また挑戦し始めた。
結局、最初の二千円だけでは、俺が取ったの以外は取れなかった。
「どうしようかな?」
これはUFOキャッチャースパイラルに嵌まるそうな予感がした。あと少しで取れそうというのが引き金となりお金を注ぎ込んでしまう。
「あと千円だけやろっかな?」
「空本さん、これプレゼントに使って」
俺は自分の持っているぬいぐるみを渡そうとした。
「それはできないよ。だって、お金も取ったのも水本君なんだし、私もせめて取るだけは自分で」
「そっか」
そこは何かしらのプライドがあるみたいだ。
「じゃあ、両替しておくから」
俺は千円だけ両替をしに行った。
「はい、これで無理ならこのぬいぐるみ貰って」
「・・・分かりました」
結果、取ることは出来なかった。
「はい」
俺はぬいぐるみを空本さんに渡した。
軽く押し付けた感じになってしまったけれど。
「何か悔しい」
「俺のは偶然だし、簡単には取れないのが普通」
「それでも悔しい」
「今日、展覧会に連れてってくれたお礼としてこれを受け取ってほしい」
「うん」
「それじゃあ、帰ろっか」
「うん」
明らかにテンション落ちてるじゃん。ごめん。
入ってきた入口から出ていき、車に乗る。
「水本君の家まで送ってほしい」
車に乗るなり早々、空本さんはそんなことを口にした。
「分かりました。水本さん、家まで案内の方をしてもらえますか?」
「えっ、あっ、はい」
三つ返事で俺はそう言ってしまった。
「じゃあ、松野駅までお願いします」
松野駅は、俺の家から一番近い駅だ。
というか、そこからじゃないと自分の家がどこにあるのかの説明が難しい。
「分かりました」
後部座席の俺と空本さんの間には取ってきたぬいぐるみが座っていた。




