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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
63/112

展覧会だけではなかった

「お久しぶりです。え~と、東山(とうやま)さん」

「お久しぶりです、水本(みずもと)さん」

「今日はよろしくお願いします」

「はい、任せてください」

「水本君、ちょっと固いよ。リラックス」

 初めて行くところはだいたい緊張する。

「展覧会なんて初めて行くから、ちょっと緊張」

「そうなんだ。でも、大丈夫だよ。そんなに何かをするとかはないから、ただ作品を見に行くだけなんだから」

「それもそうかな」

「そうですよ」

「・・・」

「・・・」

 会話がすぐに切れてしまう。

 会って一ヶ月もなるが、本当に互いのことはそこまで知ってないし、だからと言って踏み込むということをするわけでもない。

 会話が切れると、基本的には外の景色をのんびり見ようとする。これは、人見知りあるあるだ。

 初対面の人は年下であっても敬語とかもね。

「展覧会って、年に何回ぐらい行ってるの?」

「うーんとね、月に一回ぐらいだから、年に十回ちょっとになるかな」

「なるほど」

 どうか、質問をした俺を褒めてください。

「もう五月だね」

空本(そらもと)さんと出会って一ヶ月も経つんだな」

「そう・・・だね」

「?」

 何だか変な間があったような気がするんだけど・・・気のせいかな?

「水本君、部活って試験の前は休みになるよね」

「部活は多分、試験一週間前から休みだったと思うけど」

「だよね~」

「そろそろ試験勉強でもしよっかな」

「流石に早くない? まだ一ヶ月ぐらい先だよ」

「空本さんに負けたから、今度は絶対に勝つ」

「じゃあ、私も絶対に負けない」

 良きライバル関係だな。勉強は努力すれば何とでもなるからな・・・帰ったら勉強しよっと。

 最近、邪魔されてなかなか勉強に手を付けられてない。誰かとは言いませんけれど。

 そろそろ会話がきついぞ。集団の中で会話にどう入ったらいいのか分からないから気配消してたけど、二人なら喋れるとか思ってた自分を殺したい。

 全然喋れてないのが本当に恥ずかしい。

 空本さんがふぅと軽く一息ついて、窓の外を見始めた。よし、俺もそれやっちゃうぞ。


 本当にそれをやって、三十分程車の中で揺れて、気が付くと展覧会が催されている美術館に着いた。

「お二人とも、お着きになりました」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、一時間半ぐらいしたらこの辺りに車を停めて待っててもらえますか?」

「分かりました」

 二人で車から降りる。運転手の東山さんは、そのまま車を走らせてどこかへ行ってしまった。

 つまり、俺と空本さんの二人きりで回るのか。

 一時間半も持つかな? トイレに(こも)りそう。

 入口で空本さんの分の入場料も払い、さっさと入ろうとした。空本さんは、自分の分は払うと言ってたが、俺は男として細かいお金は払うことにした。

 空本さんは観念したのか、ありがとうと一言だけ呟いて、俺の隣に寄ってきた。

 展覧会に初めて来たのだが、暇潰しには結構行きやすそうな場所だった。

 とりあえず、色々と作品を鑑賞していくが、正直なことを言うと、作品の良さなんかは分からない。

 でも、引き込まれそうな感覚になる。

「水本君はこの作品が好きなの?」

「うん? 好きなのかどうなのかよく分かんないかな。でも、何か・・・」

「楽しめてるみたいでよかった」

「連れてきてくれてありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 空本さんは俺の腕を軽く掴んで、次の作品のもとに連れていかれた。同じところに何分もいるわけにはいかないし、空本さんからすれば妥当な判断だ。

 一時間半もあるし、全部回りきったらもう一度ここに来ればいいだけ。

 ここに飾られてる作品は綺麗とか色使いがとか、そんな軽い言葉で表すことはできない。

 何だろ? 分からないけど色に襲われてる感じ。

 絵に関しての知識も何もかも知らない人間がこんなことを口走るのは多分悪いと思う。

 心にでも秘めておくのが正しい。


 ほとんどの作品を見終わり、空本さんの携帯が鳴った。多分、車が入口に到着したのかもしれない。

「そろそろここ出ないといけないけどいい?」

「うん」

「あと、少しお願いしたいことがあるんだけど」

「何?」

「妹の誕生日プレゼント買いに行くんだけど付き合ってもらっていいかな?」

「妹? 空本さんも妹いたの?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 実は、中一の妹がいるの。名前は千花(ちか)っていうの」

「そうなんだ。誕生日近いの?」

明明後日(しあさって)だよ。五月四日生まれ」

「何買うのか決まってるの?」

「決まってないから、付き合ってもらおうと」

「俺、今時の女の子の欲しいものなんか分からないぞ」

 今時に限った話ではないけどな。

「これから恋愛相談でこういうのも受けるかもしれないから、経験しといた方がいいかと思うよ」

「確かに」

「というわけで、このあともよろしくね」


 待ってもらっていた車に乗り、また走り出した。


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