四月が終わりそう
真由が腕をぎゅっと抱きしめている。
何この可愛い女の子。さすがは、結婚不適合者の俺が恋した女の子だ。可愛さが桁外れだ。
今、この状況を中学校の同級生(友達ではない)たちに見られたら何かしらの武器で狙われているに違いない。ただ、俺の腕はどうすることもできない。
下手に動かすとセクハラになりそうだし、無理に力を入れて動かすと真由が怪我とかするかもしれないし、真由を起こすのが一番の安全策かな。
「むぅ~ん」
こんな音出されたら反則でしょう。
逆に、このまま真由に告白して高校三年間を幸せに過ごしたというハッピーエンドにしてもいいのではないだろうかと思ってしまう。
もう一回寝よう。幸せな時間を過ごそう。
次に目が開いたのは晩ごはんの時間だった。
真由は今日も泊まるらしい。
明後日からは俺の家には入れないという約束をしているので、今日だけ一緒に寝ることになってしまった。
風呂から上がると、真由が俺のベッドを当たり前のように占領していたが、そんなことは気にせず俺も布団に入った。
「お昼寝したから眠くない」
「俺は寝るから。おやすみ」
「おやすみ♪」
あれ? いつもだとちょっかいを出して寝かしてくれないのかと思ったけれど、何もしてこない。
怪しいかな? 特に何もされないのなら今日はゆっくり寝れそうだな。
「明後日から会えないのかぁ」
「会えないっていうわけじゃない、単純に俺の家には来るなって言ってるだけだから。挨拶とかはちゃんとするつもりだし」
「でも、家に行けないなら辛いよぉ」
「どんだけ俺の家が好きなんだよ」
「好きなのは・・・・・・おやすみ~」
何それ、すげぇドキドキする言い方やめろよ~。
次の日の朝。
四月は今日で終わり。つまり三十日である。
隣には真由がいなかった。
俺は部屋からリビングに行くと、真由が朝ごはんを作っていた。料理できる女子とか理想的だな。
よくアニメとかで料理が絶望的に下手な人とかがいるけれど、この真由さんはまぁまぁ上手い。
「起きたんだ。起こそうと思ったんだけどなぁ」
「おはようございます」
「他人行儀みたい挨拶は嫌いなの」
「オッス、翼だよ♪」
「・・・」
伝わらないかな? 挨拶っていったらこれだろ?
中三のときに彼女(二次元&ゲーム)が言ってた挨拶だったんだけどなぁ。
「翼のママとパパは?」
「今何時だっけ・・・あ~、もう九時か。なら、家にはいない」
「いないんだ。つまり二人っきりというわけだね」
「空がいたような気がする」
「空ちゃんは、今日も部活でしょ?」
「いや、土曜日はたまにいる」
「リビングでは見なかったけど」
「まだ寝てるのかな?」
俺は空の部屋へ足を向けた。
部屋の前でドアを軽く二、三回ノックする。
「空~、いるなら返事。朝ごはん出来てるから」
するとドアが開き、パジャマの空がのそっと部屋から出てきた。
「朝ごはん出来たから・・・」
「ふゅん。分かったぁ、今から行くぅ」
「大丈夫か? もうちょっと寝とくか?」
「う~ん。大丈夫」
別に風邪とかは引いてそうな感じはしないし、多分疲れが溜まっているような気がする。
「朝ごはんでも食べて元気出せ」
「分かったぁ」
先にリビングに向かい、いただきますをして真由の手作りの朝ごはんをごちそうになった。
しばらくすると、空がやって来て座る。
その頃には俺は食べ終わり、ソファーでテレビを見ながらくつろぎ始めていた。
久しぶりにテレビを見ている気がする。
特に何もやってなかったので、テレビを消した。
「ねぇねぇ、三人でゲームしない?」
「真由、急にどうしたの?」
「ゲームしたい~、ゲームしたい~」
「空もやる?」
「うん」
「んじゃ、準備するから待っといて」
真由の提案でゲームをすることになった。
「よっしゃあ~!!」
「翼ひどい!!」
「お兄ちゃん大人気ない・・・」
大乱闘してスマッシュするゲームの初代のやつをしていたのだが、真由と空を叩き潰してしまった。
自分でもやり過ぎたとは思っているけど、あくまでもゲームの勝負でわざと負けるのは嫌だから、自分のやりこんだものを披露した。
やってるとコンピューターよりも人間の方が絶対に強いって思っちゃうんだよな。
でも、友達がほとんどいないから、結局コンピューター相手になってしまうという負の連鎖。
村上君だったら、多分強いはずだ。
今度、家に来てもらったときには一緒に遊んでもらおう。新しく予定が出来てしまった。
「翼、これってチーム対戦出来るよね? 空ちゃんと私でチーム組んで、もう一回勝負だ」
「うん。いいよ~」
二回戦が始まった。
「よっしゃあぁ~!!」
「・・・」
「はぁ」
俺って、こんなに空気を読めない人間だったのか。
「もうやめる」
「そうですね」
「あの、その・・・ごめんなさい」
謝罪の一言を述べてゲームを片付けた。
それからは特に三人で何もすることもなく、時間が過ぎていった。
「それじゃあ、私帰るね~」
真由が帰ろうとしていたので、玄関まで見送る。
「今から一ヶ月間我慢しないとね」
「家に来ることだけだからね。我慢するのは」
「うん。たまに電話とかメールもするね」
「それじゃあ」
「うん。ばーいばい」
そういえば明日は、空本さんと出掛けるんだった。危うく忘れるところだった。
そういえば、待ち合わせ場所も決めてなかったと思うし、今からメールでもしておかないと。
「明日は、昼ぐらいでいいでしょうか?」
このメールで大丈夫かな? っていうか、約束しましたよね、俺と空本さん。遊ぶ約束を。
遊ぶっていうか、展覧会を見に行くという約束。
あっ、場所を書いてなかった。
うん? どこの展覧会に行くんだろ? こういうのは、空本さんの方がよく知ってるから任せてる方が良いのかな? ネットで調べとくか?
「明日の展覧会に一緒に行く約束なんだけど、空本さんに場所とか任せてもいいでしょうか? 待ち合わせ場所を指定するのなら合わせますので、よろしくお願いします」
何なんだろうねこのメール。
分かんなかったら、電話して話せばいいか?
すると、メールがすぐに返ってきた。
「駅前に昼の一時にお願いします。そこから私の車で行くので、下調べはしなくても大丈夫だよ。明日が楽しみです」
つまり、これは待ち合わせ時間にちゃんと行ってたらある程度は問題なしということだな。
少しだけ安心した。
「俺も楽しみです。明日はよろしくお願いします」
メールを返信したので、明日の服を探そう。




