我慢
着替えてくれた真由と対峙する。
真由が俺のジャージ着てるとか、それはそれで何だか興奮してしまうものだな。
「とりあえず、昨日は家のことを色々としてくれたみたいだし、ありがとな」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ~」
「俺の部屋とかに何かした?」
「ちょっと、お掃除の方を」
「何か見つかった?」
「エロそうなものは見つかってないよ。翼って性欲あるの?」
「ほっとけ」
女子が性欲という単語を使ってんじゃねぇよ。
「あと、書類が一枚見つかりました」
「書類?」
「翼が『結婚不適合者』という書類」
「あぁ、言ってなかったけ? 俺、認定されちゃいました」
まるで、甘栗をむいたかのような言い方だ。
「まぁ、私にはそんなに関係ないから、あんまり気にしないで。別に翼が『結婚不適合者』だからって嫌いになんてならないから」
「それはとてもありがたいです」
「ねぇねぇ、私頑張ったの・・・だから、何かご褒美が欲しいなぁ」
ご褒美か、真由って何したら喜んでくれるかな?
「昨日は学校あったんじゃなかったっけ?」
「あ~、そんなのがあったような、なかったような」
「サボったの?」
「・・・・・・サボりました」
「ご褒美は無しッ!!」
明日から本格的にゴールデンウィークが始まるのだが、正直なことを言うと、今日は寝たい。
「寂しかったなぁ」
真由が、ベッドから全然どいてくれない。別にいいけれど、俺はかなり睡魔に襲われそうだ。
「真由~、お願いがあります」
「うぅ~ん。何ですか?」
「一ヶ月間、俺と会うことを禁止します」
「・・・・・・どうしてですか?」
「真由は、俺の家に来すぎだと思う。年頃の女子が男子の部屋によく行くのはダメである」
「私は翼の部屋でのんびりしたいし、会うことを禁止することは、絶対に反対」
真由なら反対するのは分かってたし、どうしようかな? 最近、距離が近付き過ぎている気がする。
互いのためにもよくないのではないのかと思う。
真由にも高校生活があるし、そこでの友達がいると思うし、あと、理性というものが大変だ。
「私のことが嫌いになったの?」
「それは断じてない」
「よかった……それならよかった」
「最近、俺たちの距離感が近いから一旦離れてみたいって思ってて」
真由の表情がどんどん怒ってるのが見えてきた。
「それでも離れるのは嫌」
「分かった。部屋に入るのを禁止にしよう」
「う~ん」
「会ったら挨拶ぐらいはするけど、部屋に入るのとかを一ヶ月間禁止にしてほしい」
「それなら分かった」
一ヶ月ぐらいで真由の俺に対する気持ちが離れていくのだとしたら、恋人の関係とかは多分続けていくのは無理だろう。また、逆も然り。
「一ヶ月我慢できたらご褒美ください」
「何がいいの?」
「それは・・・恥ずかしくて言えない」
「何させようとしてんの? 怖いんですけど」
「いや、やっぱり旅行に二人で行きたいな」
「旅行?」
「うん。旅行」
「分かった。考えておきます」
「それじゃあ、明後日からね、我慢のやつ」
「えっ、どうして?」
「明日までが四月で、明後日から五月で区切りがいいからだよ」
そう言い放ち、布団に潜り込んでいった。
「仕方ない」
俺も布団に潜り込んでいくことにした。
さすがに、これ以上疲れを抱えこむのは嫌だ。
布団をめくると、真由がこちらを見ていた。
ちょっとしたホラーかよ。
「真由。もうちょっとだけ向こうに行って」
「えぇ~、私はここで寝てたいなぁ」
真由は全然譲ろうとしてくれない。
その結果、俺はベッドの端っこで落ちるスレスレの所に寝ることになった。
ふふーんと真由がこっちに寄ってくる。
すげぇ幸せな時間だな。女の子が添い寝してくれるんだから。あと、少しだけ胸が当たってるような。
「翼~、こっちに向いて寄ってきてもいいよ」
向かい合わせで寝るのは、色々とハプニングが起こってしまう危険性があるので拒否する。
その言葉を最後に聞き、俺は寝てしまった。
「あ~あ、寝ちゃった・・・・・・こっち向け。こっち向け。私を抱きしめろ」
そんな願いはむなしく、いびきが聞こえる。
「でも、どうして会いたくなくなったんだろ? 静にでも相談してみよっかな」
突然の会わない宣言をされたんだから、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
「私の気持ちを試すみたいなことなのかな?」
だとしたら、私は自信がある。去年のあの日から私は翼のことを考えなかった日は一度もない。
だって、辛かったから。
嫌われたんだとかずっと考えてたから。
ストーカーまがいのことをしたこともあった。
これからは、ゆっくり振り向かせよう。
そして、私は翼の腕に抱きつき寝てしまった。




