校外活動最終日(後編)
初日と同じ座席順に座っていく。
ただ、今日は俺が通路側の席で、空本さんが窓側の席に座っていた。
座った瞬間に目が閉じてしまった。寝不足ではないけれど、朝が早過ぎたのが悪かった。
それは仕方ないことにしておこう。
「水本君? お~い、水本君?」
肩をチョンチョンされて、かろうじて目を覚ます。
「うん? どうしたの?」
「え、えっとね、出欠確認しないと・・・」
「あっ、あーそっか、ごめん」
すぐに席を立ち、人数を数えていく。
多分揃ってるんじゃないかなぁ。もう、適当にやりたいけど、敢えてじっくり数えそう。
全員揃っているのを伝えて、やっとバスが出発していく。高校最初の行事は終わりを迎える。
バスが走っていくのだが、山道でガタガタと揺れているその揺れさえも心地よく感じる。
睡魔の末期って、これぐらいのことだろうな。
背もたれに頭がガクンと落ちていく。
本当にバスって寝心地が悪いんだよな。ただ、それでも頑張れば寝れてしまうというのが面白い。
行きのときは騒がしかったというか、うるさかったというべきなのか色々と言い方があるような状態の後部座席のみんなは、完全に沈黙していた。
ほとんどが疲れからか、携帯か景色を見ていた。
委員長としてすることは無くなったので、めでたく自分も寝ることにする。おやすみなさい。
「ねぇ、大丈夫? 眠いならゆっくり寝ててね」
空本さんが話しかけてくる。全然疲れてなさそうな感じなのが、ちょっと腹立つかな?
あと、今から寝ようとしてたの!!
これは、あれだ。勉強しようとしていたのに、母親から勉強しなさいと言われて、やる気が無くなる現象と全く同じなのではないか。
「うん・・・大丈夫だから、寝かして」
「肩いる?」
肩はもともとありますけど?
「ごめんなさい、説明不足だった。肩にもたれかかってもいいよっていう意味」
「いいの?」
「うん。疲れてるみたいだし、部活も頑張ってくれてるから。たまには、ゆっくり・・・ね」
「・・・それじゃあ、お言葉に甘えます」
女子の肩に頭を乗せるなんて、簡単に言ってるけど、かなり緊張するもんだからな。
というか、逆だし。普通は女子の方が男子の肩に乗せるんだよ。ちょっと違和感あるな。
まぁ、せっかくの機会なのでよろしくお願いいたしますと心の中で念じる。
「・・・」
あぁ、なかなか心地が素晴らしいですよ。
これは、神様からのプレゼントとしてありがたく受け取っておきましょう。神様は気まぐれだ。
寝る準備は整った。さぁ、勢いよく寝よう。
その一分後、俺は完全に意識がすっ飛んだ。
「・・・水本君、そろそろだよ」
頭をポンポンと叩かれて、ゆっくり目を覚ます。
家族の中で、寝起きが悪いと有名な自分が結構気持ちよく起きることが出来た。
「あっ、空本さん。おはよー」
「はい、おはようございます」
優しさ満天のおはようございますを頂きました。
「あと、ありがとね。肩貸してもらって」
「お礼言われる程のことじゃないよ」
「もう着くの?」
「あと、十分ぐらいで着くって、先生が」
「そうなんだ」
もうすぐ、学校に着いてしまう。
こうやって、一つ一つ終わっていく高校生活。
今は純粋に記憶に残っている。これが十年、二十年後にはそこそこ消えている。
そして、学校に到着する。
俺が、今思ったことは・・・まだこれから駅まで歩いて電車に乗らないと帰れないという現実。
疲れきってるのに、まだ歩かないといけない。
席が一番前なので最初にバスから降りれる。だからといって、早く帰れるというわけでもない。
これから昇降口の前で軽く先生から挨拶があり、それが終わって、やっと帰るという権利が貰える。
そんな訳で、学年主任の話は割愛ということで。
「それじゃあ、解散」
先生のこの一言を待ってました。
みんなが一斉に帰るので、結構混んでしまう。
俺は一旦、この人混みを避けるため待つ。
「お~い!」
叫びながら、滝野君がやって来た。
滝野君とは、二日前に始発で学校待機した仲間というか、恋愛相談所の相談者である。
「あっ、どうしたんですか?」
物凄く他人行儀になってしまうのが、俺の癖。
「実は・・・あの後、メールが来たんですよ、あの娘から。それを報告しようと思って」
「良かったな。じゃあ、頑張れよ」
「ウィッス。また何かあったら相談します!!」
そう言って駆け出していった。
その姿はまるで・・・・・・例えが何も出てこないから諦めよう。頑張ってくれ。
滝野君の相談は成功したと考えて大丈夫かな?
「さてと、帰りましょう」
一人寂しく帰っていくのが、学校行事の定番だ。
「ただいま~」
「お兄ちゃん、おかえり~」
今日は世間では祝日だったかな? おかえりと言われるのがこんなにも嬉しいんだな。
これ、前にも言ったような気がする。
「どうだった? 楽しかった?」
「楽しくはないけど、いい経験になった」
「とりあえず、お疲れ様」
「それじゃあ、部屋に荷物置いてくる」
大きいけれどそんなに重くはない荷物を持ち、自分の部屋にいく。
「あれ?」
ベッドに不審な人物が寝ていた。
ただ、俺はその人物を知っている。
「真由~、勝手に寝るな~」
今度はゴールデンウィークが待っている。




