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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
57/112

校外活動最終日(前編)

 昨日の失敗で本気でへこんでいたが、風呂上がりに村上(むらかみ)君が、何も聞いてこなかった上に、優しい声で大丈夫だよと言ってくれたので、心が少しだけ救われた気がする。


 そして、現在は午前四時。

 三日連続で五時前に起きてしまった。目覚まし無しで、この時間に起きるのは、かなりきつい。

 俺は、昨日と同じように行動をとる。

 ただ、昨日と違うのは、眠気が尋常なくらいに俺を襲っているという点である。

 目を(こす)りながら、部屋から出ていき、ゆっくりと歩き宿舎の外に向かっていく。


 昨日、あんなに早く起きなければ、部屋を出なければ、外に出なければ、様々な要因(主に自分が原因)が重なって知ってしまったある事実。


 その事実を知った。そして、部活という名目で、積極的に関わろうとした。結果、失敗に終わった。

このまま、尻拭いをしないまま帰ってしまうのは、やってはいけないことだと思う。

 せめて、少しでも何とかしたいと考えてしまう。

 すぐに仲直りが出来る解決策なんか存在しない。

 でも、何か伝えないといけない。人生経験なんかまともに無い自分が偉そうにとも思うが、恐らく、尻拭いをするには、そういうことだけだ。


 昨日の朝と同じ場所にまた来てしまった。

 なるべく静かに待ち続けていた。

 自分のこれからの行動には不安しかない。

 昨日見かけたからといって、今日もいるとは限らない。だから、偶然に期待するしかない。


 それから、三十分ほど経過したほどだった。

 裏口から人が出てくる。おそらく奥さんだ。

 俺は近づいていき、奥さんに話しかけようとしたが、先に向こうに気付かれてしまった。

「あの、昨日は、その~すいませんでした」

「別にもう」

「あの、僕から一つだけ伝えたいことがありまして少し待っていたんです」

「へぇ~、それで何?」

「はい、子供さんも交えて、絶対に話し合ってください・・・それだけです」

「どうして?」

「この宿舎を出ていこうとしてるんですよね? 今のままだと、生活も大変になります。勢いで出ていく前に、家族全員で話し合って欲しいんです」

「確かにそうかもね」

「子供が知らない間に、親が離婚しているなんて分かったら辛いし、後々後悔すると思います」

「考えとくわ」

「考えるのではなく、実行してください。それと大変迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ございませんでした。自分の身勝手な行動でした。許してください」

「いつかはこうなるとは思ってたから」

 その言葉には、少しだけ重みを感じた。そう言い残し、奥さんは裏口に入っていった。


 結局、自分には何も出来た気がしなかった。

 単純な自己満足に終わってしまった。



 部屋に戻る頃には、五時半になっていた。

 今さら寝ることも出来ず、布団の中で目を開いたまま籠り続けていた。

 そして、六時になり音楽が流れてくる。

 朝からラジオ体操。

この三日間の中で、一番朝が辛くてしょうがない。

 朝ごはんも食べ終えて、勉強の時間になる。

二日目とは大違いだ。ただただ時間が過ぎていく。


 そして、この校外活動での最後の食事も終わり、自分たちの部屋を掃除するだけになった。

「校外活動ももうすぐ終わりだね」

「うん。長いようで短かった」

「これが終われば、ゴールデンウィークだよ」

「どうせ課題もあるから大変だな」

 村上君と会話をのんびりとしながら、広くもない部屋のゴミを掃いていた。


 掃除も終わり、そろそろ退所式の時間だ。

・・・・・・そういえば、退所式の挨拶って、俺がやらなきゃいけなかったような気がする。


「退所式を始めます」

 ヤバイな。一ミリも考えてないというか、本当に何一つ考えてないな。本気で怒られる。


 けれど、待つこともましてや、ゆっくり進むこともしてくれない。

「次に、一年を代表して水本(みずもと)(つばさ)君より退所式の挨拶をしてもらいます」

 別にここから最高の挨拶になって、みんなの心を動かすとか、そんなことは絶対に出来ないから。


 そんなわけで、特にこれといった展開もなく、挨拶も済んでしまった。

 家に帰るまでが校外活動ではなく、バスに乗った瞬間には終わったも同然である。


 そして、宿舎でお世話になった人たちが見送りに来てくれる。その中にはあの二人もいた。

 結局、解決など出来なかった。

 見送りが終わってしまえば、すぐに奥さんが出ていくかもしれない。けれど、それを止めることも出来ない。


 そんなことを考えながら、帰りのバスに乗った。


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