校外活動最終日(前編)
昨日の失敗で本気でへこんでいたが、風呂上がりに村上君が、何も聞いてこなかった上に、優しい声で大丈夫だよと言ってくれたので、心が少しだけ救われた気がする。
そして、現在は午前四時。
三日連続で五時前に起きてしまった。目覚まし無しで、この時間に起きるのは、かなりきつい。
俺は、昨日と同じように行動をとる。
ただ、昨日と違うのは、眠気が尋常なくらいに俺を襲っているという点である。
目を擦りながら、部屋から出ていき、ゆっくりと歩き宿舎の外に向かっていく。
昨日、あんなに早く起きなければ、部屋を出なければ、外に出なければ、様々な要因(主に自分が原因)が重なって知ってしまったある事実。
その事実を知った。そして、部活という名目で、積極的に関わろうとした。結果、失敗に終わった。
このまま、尻拭いをしないまま帰ってしまうのは、やってはいけないことだと思う。
せめて、少しでも何とかしたいと考えてしまう。
すぐに仲直りが出来る解決策なんか存在しない。
でも、何か伝えないといけない。人生経験なんかまともに無い自分が偉そうにとも思うが、恐らく、尻拭いをするには、そういうことだけだ。
昨日の朝と同じ場所にまた来てしまった。
なるべく静かに待ち続けていた。
自分のこれからの行動には不安しかない。
昨日見かけたからといって、今日もいるとは限らない。だから、偶然に期待するしかない。
それから、三十分ほど経過したほどだった。
裏口から人が出てくる。おそらく奥さんだ。
俺は近づいていき、奥さんに話しかけようとしたが、先に向こうに気付かれてしまった。
「あの、昨日は、その~すいませんでした」
「別にもう」
「あの、僕から一つだけ伝えたいことがありまして少し待っていたんです」
「へぇ~、それで何?」
「はい、子供さんも交えて、絶対に話し合ってください・・・それだけです」
「どうして?」
「この宿舎を出ていこうとしてるんですよね? 今のままだと、生活も大変になります。勢いで出ていく前に、家族全員で話し合って欲しいんです」
「確かにそうかもね」
「子供が知らない間に、親が離婚しているなんて分かったら辛いし、後々後悔すると思います」
「考えとくわ」
「考えるのではなく、実行してください。それと大変迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ございませんでした。自分の身勝手な行動でした。許してください」
「いつかはこうなるとは思ってたから」
その言葉には、少しだけ重みを感じた。そう言い残し、奥さんは裏口に入っていった。
結局、自分には何も出来た気がしなかった。
単純な自己満足に終わってしまった。
部屋に戻る頃には、五時半になっていた。
今さら寝ることも出来ず、布団の中で目を開いたまま籠り続けていた。
そして、六時になり音楽が流れてくる。
朝からラジオ体操。
この三日間の中で、一番朝が辛くてしょうがない。
朝ごはんも食べ終えて、勉強の時間になる。
二日目とは大違いだ。ただただ時間が過ぎていく。
そして、この校外活動での最後の食事も終わり、自分たちの部屋を掃除するだけになった。
「校外活動ももうすぐ終わりだね」
「うん。長いようで短かった」
「これが終われば、ゴールデンウィークだよ」
「どうせ課題もあるから大変だな」
村上君と会話をのんびりとしながら、広くもない部屋のゴミを掃いていた。
掃除も終わり、そろそろ退所式の時間だ。
・・・・・・そういえば、退所式の挨拶って、俺がやらなきゃいけなかったような気がする。
「退所式を始めます」
ヤバイな。一ミリも考えてないというか、本当に何一つ考えてないな。本気で怒られる。
けれど、待つこともましてや、ゆっくり進むこともしてくれない。
「次に、一年を代表して水本翼君より退所式の挨拶をしてもらいます」
別にここから最高の挨拶になって、みんなの心を動かすとか、そんなことは絶対に出来ないから。
そんなわけで、特にこれといった展開もなく、挨拶も済んでしまった。
家に帰るまでが校外活動ではなく、バスに乗った瞬間には終わったも同然である。
そして、宿舎でお世話になった人たちが見送りに来てくれる。その中にはあの二人もいた。
結局、解決など出来なかった。
見送りが終わってしまえば、すぐに奥さんが出ていくかもしれない。けれど、それを止めることも出来ない。
そんなことを考えながら、帰りのバスに乗った。




