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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
55/112

校外活動二日目 (後編)

「どうして、あなたがそれを持ってるの?」

「拾ったんですよ、朝早く」

「返してもらっていいかしら?」

「いいですよー・・・でも、ある程度お話をしてもらえるならね? こっちも恋愛相談部として、出来る限り解決してみたいですから」

「別に、私は悩んでないわよ」

「指輪を捨てたというのにですか?」

「別に捨てたわけじゃないわ」

「指輪が手から落ちるなんて、普通じゃ考えられないし、ましてや、あなたがここをピンポイントに探しているのかということも踏まえても、捨てたと考えるのが当たり前です」

「さて、相談の部屋に戻らないとね」

「まぁ、夕食の後にでも、話を聞かせてもらいますよ。今からだと、中途半端になりそうだから」


 俺が今、懸念していることは、単純に拾った指輪を盗られたとか言われることである。

 下手に突っ込まず、なおかつ上手に話を聞き出すのはかなり難しい課題である。


 相談所に戻り、特に実のない話を少し続け、夕食後にもう一度、しっかり話をする。



「二回も呼び出してすみません」

 俺は、まず呼び出した二人に謝罪をする。

「いや、そんなに謝らなくていいから」

「・・・そうそう、あ、謝らなくていいから」

 下げた頭を上げ、恋愛相談の続きを始める。

 どうせ、俺と空本(そらもと)さんと顧問と相談者しかいないから、単刀直入に聞くことにする。

「あの、今日の朝、何があったんですか?」

 まどろっこしいのは、やめにしよう。

「朝って?」

 (とぼ)けるのが得意なのが、大人なんだよな。

「この指輪、朝早くに宿舎の裏で見つけました。まぁ、厳密に言えば、投げ捨てていたのを見たというのが、正確ですけど……」

「はぁ、水本(みずもと)は、これが終わったら指導な」

 あ~ぁ、余計なこと言わなきゃ良かった。

「とりあえず、喧嘩をしてたのは見たんで、どうして喧嘩をしていたのか理由を教えてください」

「子供が知るべきことではないよ」

「指輪を捨てるくらいのことなのは、分かってはいますけど、なんていうか、その・・・」

 はぁ、これは引き出すのに、相当厄介なことになるんだろうなぁ。

「あのぉ、私もなるべく、仲違(なかたが)いの解決をしたいので、お話していただけないでしょうか?」

 空本さんも、お願いしてくれているのだが、このままでは、話してくれる可能性がない。

 どうしたらいいんだろう? 相手から聞き出すには自分のことでも話すべきなのか?

どっちにしろ、こちらも何かをしないといけない。

「そういえば、お二人には、子供さんはいらっしゃるんですか?」

 まずは、身辺のことを聞いてみることにする。

「子供は、息子が一人、娘が一人いますけど」

「おいくつなんですか?」

「二十四と、十九です」

「二人とも、一人暮らししてるんですか?」

「そうですけど」

 多分、一人暮らししてるのは、大学生になってからとかではないと思う。ここからだと、大学も高校とかの学校の建物も近くにはない。

 つまり、寮暮らしか一人暮らしをしてるはず。

「最近、子供さんと会ってるんですか?」

「今、この話は関係あるんですか?」

「間接的にはあるかもしれないです」

「最近は、会ってないわ。最後に会ったのはお正月ぐらいかしら」

「一緒に暮らしたいとか思ったりするんですか?」

 今、家族に対して、何を思ってるか知りたい。

「そこは、子供に任せてます。子供が一緒に住みたいと言えば、住むつもりだし、一人暮らしがしたいと言えば、一人暮らしをさせるつもりです」

「奥さんは?」

「私ですか?」

「一応、二人ともの意見を聞いてみたくて」

 喧嘩の原因は、浮気じゃないと自分の中で、何となく判断はしている。

「私は……その、もう一度……」

「おい」

「あっ、まぁまぁ」

 空本さんが少しだけなだめてくれる。

「僕は、お父さんと会うことが少ないんです。父親は、仕事で帰ってくる時間が夜中になったり、夕方になったりするし、家を出る時間が早朝だったり、昼過ぎだったりするんです。だから、会ったときは何となく挨拶とか話をしたりします。僕は、一緒に暮らしてて、良かったなと思ってます」

「・・・」

「・・・」

 俺の独り言になってるな。

「要するに、子供は親と一緒に暮らしたいと思ってますよ」

「私は、子供ともう一度暮らしたい……」

 本音が少しだけ漏れてきているみたいだ。

「もう、ここでの生活はうんざりなの。毎日毎日、朝からごはんを作って、何か買い物に行くにしてもここだと暮らしにくいし、もう嫌なの!!」

「お前、そんなこと思ってたのか……」

「まぁ、ここだと交通の便が悪いし、子供さんが、ここでの生活が嫌で、一人暮らしを始めたってなるのも頷けますね」

「私は、別にここで暮らしたいとか思ったことなんて、一度もないの!! でも、あなたがここで宿舎を建ててみたいとか言うし、半ば強引に決めちゃうし、誰もここでの暮らしを望んでなかった。それなのに、あなたは宿舎の経営だけしかしない。ここでの食事とか色んなことは、ほとんど私に任せて、全然楽しくなんてなかった!!」

「・・・」

「私、やっぱり出ていくわ」

そう言い残し、彼女は去っていく。

 旦那さんは、何も言えないまま座ったままだ。

 結局、何も解決はしていない。

 俺が、ひびが少し入ったものに、決定的に割っただけだ。ただ迷惑な人間だ。余計なお世話だった。


 少ししてから、旦那さんも立ち上がり、何も言わず部屋から出ていった。


「み、水本君?」

「ごめん。もう少し空本さんにも意見とか聞くべきだった。本当にごめんなさい」

「あっ、謝らなくていいから・・・ねっ?」

「さて、二人とも入浴時間は過ぎてるんだが、どうする? 一緒に入る?」

「俺は、先生から指導があるんで、空本さんから、先に入ってもらえれば」

「うん。それじゃあ、お先に入ります」

「それじゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


「まぁ、指導といっても、大したことじゃない。少しだけ反省文を書いてもらう程度だ」

「充分過ぎると思うんですけど」

「今日の相談は、百点満点で何点だ?」

「限りなく0点に近いものだと思います」

「そうか……でも、勘違いはするな。解決イコール幸せな未来とは限らないからな」

「それは、そうかもしれないですけど 」

「あの場合だと、喧嘩を終わらせて、二人仲良く、もう一度ここで暮らすというのが、正しい解決であるが、幸せな未来にはなるとは限らない。まぁ、失敗は誰でもする。そう、落ち込むな。そういうときに空本風花という部活の仲間がいるんだから」

「はい」

「たまには、あの娘にも頼りなさい」

「はい」

「よし、指導は終わり。早く風呂に入りなさい」

「はい。先生、おやすみなさい」

「はいはい。とっとと寝ろ」


 部屋に戻り、携帯を見ると、九時を回っていた。

静かに、着替えを持っていき、大浴場に向かった。


 そして、男子の大浴場に入った。

 風呂に入り、身体中の疲れを取ろうとした。

 なかなか、今日はしんどかった。特に、バレーボールは、サーブを打ちすぎて肩が結構痛い。

 身体も洗い、頭も洗い、風呂から上がる。


 大浴場から出ると、女子の大浴場から空本さんも出てきた。

「空本さん」

「さん付け」

「空本さんの方が呼びやすいから諦めてよ」

「ダメ。ちゃんとさん付けは直してね」

「明日で、校外活動も終わりだね」

「うん」

「それじゃあ、おやすみなさい」

「うん。おやすみ」


 波乱に満ちた二日目は、終わっていった。


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