校外活動二日目(中編)
山登りをするって、趣味でしか、しちゃダメだ 。
そこに山があるからって、簡単に決めちゃダメ。
しかも、朝からだからな。山の天気は変わりやすいとか言われてるし、雨降ったりとか嫌だなぁ。
みんな、こんなこと言ってると就職出来ないぞ!
朝ごはんの時間が終わり、一旦、部屋に戻る。
携帯を見ると、なんと、海お姉ちゃんからメールが来ていた。
「急にメールしてゴメンね。校外活動は楽しいですか? 真とは会った? 帰ってきたら話そうね♪」
天使なのかと思うぐらい幸せなメールでした。
「真とは会ってないけど、楽しいよ~。また、帰ったら話します♪」
返信をして、カバンの中に戻した。
荷物はいらないので、なるべく暖かい格好にしておこうかな。手袋を探すのに手間を取り、村上君も水谷君も先に行ってしまったようだ。
さすがに、また遅刻なんてしたくない。
「山登りって、何時間かかるんだろ」
無意識に独り言を発するのは直さないと。
手袋をして、宿舎を出ていく。
幸い、まだ七割程度しか集まっておらず、遅刻とは認定されないようだ。
クラスの人数を数えていくのだが、まだそんなにクラス全員の名前も顔も覚えてないので、誰がいないのか、全然分からない。半年もあれば、覚えられそうだけど……。
残りの三割の人達が、ゆっくり歩いてくる。
遅れてくるやつあるあるというのがある。
遅れてくるやつは、大抵コミュ力高くて、絶対に急ごうとしない。
周りも一緒に遅れて来てるから、危機感ゼロ。
そして、数え直して、全員揃ったことを担任に報告。校長先生から朝の挨拶が始まる。
ていうか、何で付いてきてんだよ、校長。
学校を守りなさいよ。子供の頃には、よく分からないことランキングだったら、間違いなくトップテンには入りそうな事例だよな。
とりあえず、校長先生のお話は割愛っと。
「それじゃあ、A組から行くぞ~」
学年主任がA組を引き連れて、宿舎から歩き出す。
ただただ山の頂上を目指していくというだけで、特にこれといった楽しみがほとんどない。
最初は列もちゃんとできていたのに、二分ぐらいすると、ちょくちょく崩れ始め、五分も経てば、あら不思議、バッラバラになっちゃうんですよ~。
俺は、空本さんと登っていた。
「寒いね」
「うん」
「疲れるね」
「うん」
「・・・」
「・・・」
まるで、熟年夫婦並の会話バトル。
コミュ力って、本当に大切なんだよ。
だが、喋らなくても言いたいことが分かるとか、伝わるなどの究極のコミュニケーションを持っている俺のおじいちゃんとおばあちゃんは尊敬する。
「寒っ」
風が吹いてるから、これぐらいしか喋れないとか理由として採用してもらえないかな?
「空本さんは、別荘とか持ってるの?」
率直な疑問が浮かんだので、聞いてみました。
これでも、頑張って会話しようしてるんだぜ。褒めてもらってもいいぐらいなんだぞ。土日は基本人と話したりしないから、独り言ばっか言ってんだぞ。
「別荘? 私は、まだ行ったことはないけど、持ってるらしいよ」
やっぱり、お金を持ってる家は、別荘とか持ってるんだな。そういう法律でもあんのかな?
「へぇ~、行ってみたいなぁ」
「それじゃあ、お父さんに頼んで、一緒に連れていってもらう?」
相槌程度に言ってしまったことが、現実になりそうだった。あくまでも、この言葉は優しさだから、ここは丁重に断るのが、礼儀というものだろう。
「それは、さすがに悪いから断っときます」
「そっか……」
空本さんが少し落ち込んでしまったようだ。
さすがに、調子に乗って行くのはダメだと思う。
「今日が終われば、ゴールデンウィークだぁ」
何かしら話題を変えるのが、苦手な自分なので、びっくりするぐらい棒読みになる。空本さんとは、日曜日に出掛ける予定になっている。
「ゴールデンウィークの予定とか決まってる?」
「俺は、友達とのんびりと過ごすかな」
中学時代なら考えられない「友達と過ごす」発言をしました。友達という単語を中学のときに、使う機会が無かったから、ある意味新鮮だ。
「ふぅ~ん」
「空本さんは?」
「私は水本君と出掛ける日以外は、そんなに、予定とか無いかな」
ゴールデンウィークに予定がきっちり埋まってる人なんか、あんまり多くないんじゃないかな?
「ふわぁ~あ」
「寝れなかったの?」
「う~ん。まぁ、そんなとこ」
何だかホームシックになったようだ。帰りたい。
そして、山の頂上の辺りに着く。
だからといって、何をするわけでもなく、十分もしないうちに下山。
朝の山登りは、これで幕を閉じることになった。
そして、宿舎まで戻ってきて、今度は昼ごはんを作ることになる。飯盒炊爨だ。
ちなみに、メニューは定番のカレーである。
それぞれの班に分かれて、
俺と村上君と水谷君の男子三人と、藤本さんと松井さんと松村さんの女子三人の六人組で、調理場に向かった。
まずは、役割分担から始める。
野菜を切るのは、女子に任せて、男子は、米を研いだり、火をつけたりするのをやることになった。
「それじゃあ、俺が米研いどくから、二人は火をお願いねー」
「「分かった」」
火はチャッカマンがあるし、大丈夫だろう。
女子は、大丈夫でしょう。今や世の中では、料理は女性としての必須のスキルになっちゃったから、多分、出来るはずでしょう。
そして、料理の中で、一番楽なことを俺はする。
米を間違って洗剤で洗っちゃったとかいうやつは、多分、料理するしない以前の問題だと思う。
あり得ないもん。作る前に片付け始めようとしてんじゃん。まぁ、多分ネタとして存在してるんだろ。
冷たい水を入れて、米を洗っていく。
それらを繰り返して、火のあるところまで持っていく。これ、冬だと泣きそうになるくらい冷たい。
それから、様々な困難が訪れることもなく、ただただおいしいカレーライスが出来ました(報告)。
こういうときに、何かを起こせる人が「持ってる」人間なのだなと改めて実感した。
ちなみに、俺は「持ってない」人間でした。
昼ごはんも終わり、片付けも終えると、一旦休憩の時間が支給された。
ここまで、ノンストップでやってきたんだから、少しはのんびりしてもいいよね?
とりあえず、自分の部屋に戻って、手袋を片付けて、そのついでに初日から入れていて温くなった、ペットボトルの飲み物を半分まで飲んだ。
そして、この後の予定を分かってはいるものの、一応もう一度確認をしておく。
このあとは、オリエンテーションがあって、そのあとに勉強をする流れになっている。
これは、家に帰って最初にすることが、ベッドでひたすら眠りにつくことだな。
部屋を出て、オリエンテーションに使うことになる体育館に、歩いていく。まぁ、何かしらの運動をさせられることになるんだろうなぁ。
三百人の人間が一同に体育館に集まった。
そして、整列して座って待つ。
すると、学年主任が前で説明を始めようとしていたのだが、ざわざわしていて喋り出せなかった。
「静かになるまでに、○分かかりました」とかいう先生が、この学校には存在してほしくない。
「静かになるまでに、七分五十二秒かかりました」
秒単位で言いやがった。数えてたのかよ!
「それでは、オリエンテーションを始めます。今日のオリエンテーションの内容は、クラス対抗バレーボール大会だ。トーナメント制で行う」
バレーボールかぁ……。
球技のスポーツの中では、まだギリギリ出来るようなものである。レシーブとかトスとかアタックは出来ないけど、サーブはかなり自信がある。
中学校のときに、体育の授業でバレーボールを選択して、一年生のときは、自分がチームで役に立たなかったから、何か頑張ろうと思って、サーブの練習をし始めた。それがだんだん楽しくなって、休日に個人で、誰も使ってなさそうな地域の体育館を借りることもした。それが二年ぐらい続いた。でも、三年になって、軽く騒動を起こしたため、授業で、周りが試合をしている中で、俺は孤独にサーブを練習し続けることになった。
その結果、サーブだけが桁違いに上手くなった。
あくまで、サーブだけだから、その他のことは、素人以下と言ってもいいぐらい下手くそだ。
でも、ジャンプサーブとか無回転サーブとか普通に出来るようになるぐらいには仕上がった。
「それじゃあ、組み合わせ決めるから、委員長は、前に来い」
箱の中に、八本の札があった。
適当に選んで、結果を見た。
第三試合に振り当てられた。相手は、G組だった。
体育館では、二試合ずつ出来るため、俺のクラスは後半に試合をすることになる。
「ルールを説明します」
学年主任の声が体育館に響き渡った。
「ルールは、先に十五点取った方が勝利。なるべくクラスみんなが試合に出れるような配慮をする。以上のことをきちんと、守るように」
まずは、コートを作り、それからチームの作戦を考えることになった。
「とりあえず、最初に出るやつ決めよーぜ」
クラスの明るい人が、そう言い会議が始まる。
「名前の順番とかでいいんじゃね?」
「バレーの経験者とかいる?」
シーン。
どうやら、このクラスには経験者はいないようだ。
多分、体育の授業でやったことあるっていう人は、結構いるとは思う。
「じゃあ、スポーツ上手い人から入ればいいんじゃないの?」
「それじゃあ、運動部手挙げて~」
こんな感じで、作戦会議が続いていった。
第一試合の結果は、A組とC組が試合をして、A組が勝利し、第二試合の結果は、B組とH組が試合をして、B組が勝利した。
俺は、ベンチスタートというわけで、コートの外から相手チームを観察しておく。
「よっ、翼」
「おぉ~、まこっちゃん」
俺たちとは別のコートで試合をしている、F組のまこっちゃんが話しかけてきた。
「お互い勝てば、次で当たるな」
「そういえば、海お姉ちゃんからメール来たけど」
「なんか書いてあった?」
「楽しんでねとか書いてあったけど」
「ふぅ~ん」
話していると、まこっちゃんが呼ばれて、試合に出されていた。
こっちの試合は、十対十一で、G組に一点リードされていた。
「委員長~、交代」
まだ、名前も知らない男子が俺と交代することになり、俺がコートに入ることになった。
サーブは多分、次が俺の番になりそうだ。
相手のサーブがこっち側に来る。
こういうときは、オーバーで取ることにした。
アンダーで取ると、変な方向に飛んでいくので、オーバーである程度、前衛の方にボールを渡す。
そこから、アタックが決まり、サーブ権がこっちのチームに移った。
俺がボールを受け取り、集中力を高める。
久々に触れるボール。約二ヶ月ぶりになる。
前は、卒業式の二週間ぐらい前に、ストレス解消のために練習に行ったきり、サーブをしていない。
さすがに、ジャンプサーブはしないでおこう。
トスを上げる。
ボールを強く打つ。
狙うのは、後ろの端にいる、いかにも運動神経が悪そうな君だ。
綺麗に狙いを定め、ボールはスピードを出して、彼に向かっていく。
彼はボールを拾おうとして、弾いてしまう。
まずは、一点。
もう一度、自分にサーブを打つチャンスが来る。
この瞬間がワクワクして、楽しくて仕方ない。
もう一度、トスを上げる。
そして、ボールを打つ。
もう一度君のもとに。
再び弾いてしまう。また一点。
コートの中から「ナイス」と声が聞こえる。
そして、彼が交代をさせられた。
あと二点を取れば、D組の勝利だ。
俺は三度目のトスを上げる。
今度は間を狙う。
ボールを少し調整して打つ。
後衛の人と人と間を狙い打ち。
互いが譲り合ってしまう内に、ボールが落ちる。
マッチポイントだ。
これを決めれば、準決勝に進出だ。
俺は、個人プレーしか上手になれない。
チームプレーが苦手だ。
そして、自分の渾身のサーブを打つ。
ネットにかすって、相手コートに落ちる。
ネットインサーブでゲームセット。
D組勝利。
コートの中で、喜び合うクラスメイト。
別のコートでは、F組が勝った。
まこっちゃんと対決になる。
別にまこっちゃんは、宿命のライバルとかではないからね。
そんなわけで、俺のサーブが冴え渡り、G組との試合は見事に勝利した。
すぐに、F組との準決勝が始まる。
サーブで一気に点取ってとか言われたが、ある程度相手のチームの中で、苦手そうな人を狙って打ち込んでるだけだから、まず相手を観察しないと、自分の得意なサーブが出来ない。
弱いものは更に弱いものを叩く理論ですよ。
まぁ、真剣勝負なら誰でもすることだよ。うん。
そして、準決勝が始まる。
「さっき、すごかったね」
空本さんが話しかけてくれた。
「まぁ、サーブだけだから」
「またまた~」
「いやいや、結構マジで」
「水本君の特技だね」
「人に誇れるレベルではないけど」
「空本さ~ん」
「あっ、はーい、それじゃあ」
空本さんがコートの中に入っていった。
「翼」
「まこっちゃん、どうしたの?」
「サーブ打つ機会があったら、俺を狙えよ」
「あぁ、分かった。本気で打ってやる」
「はいはい」
一進一退の攻防で、十三対十三の同点だった。
「委員長~、サーブお願い」
あー、このタイミングかぁー。
結構緊張するなぁ。まこっちゃんは、後ろの端か。
集中力を高め、深呼吸を一度して、トスを上げる。
まこっちゃんを狙うかどうか迷った。
正直、同点だから、もう少し相手を崩すようなサーブを打ち込むつもりだった。
そして、俺が見る限り、苦手そうなのはまこっちゃんとは、逆にいる男子だった。
俺は、まこっちゃんを狙わずにそっちを狙った。
俺の中で、何かしらの予感は的中した。
後衛の真ん中にいた人はかなり、まこっちゃんの近くに移動していて、確実に拾うつもりだった。
しかし、ボールはまこっちゃんとは、逆のところに落ちていく。苦手そうな男子は拾えなかった。
多分、まこっちゃんは、俺がサーブのときには、自分のところに来るから構えといてとか吹き込んだんだろ。厄介だなぁ。
でも、これでマッチポイントになる。
少しだけ腹が立ったのがあった。俺は一度だけジャンプサーブをすることにした。
俺は高くトスを上げる。
助走をしっかり付けて、ボールを本気で打つ。
まず、素人ならほとんど取れない。
一気にボールが相手コートに落ちる。
ゲームセット。D組の勝利だ。
勝ったのに、軽く引かれている。
周りが少しポカーンとして、静寂が包む。
決勝の相手は、B組になった。
「翼は、本当にセコいよな!」
「よくも抜け抜けと、そんなこと言えるな」
「まぁ、真剣勝負だし、これぐらいの駆け引きは・・・ね?」
「素直に打ち込まなくて良かった~」
「実は、後ろの真ん中の人は、中学校のときに、バレー部だったらしいけど、あのサーブは凄いって言ってたよ。まぁ、決勝頑張ってね」
「お前はどの立場なんだよ?」
そして、B組との決勝は、ある意味酷かった。
クラスのみんなからあのサーブ打てるんなら、最初のサーブで一気に点差広げてよと言われたので、最初からサーブを打つことになり、八点連続決めてしまい、半ば強制的に交代をさせられた。
結果は十五対六で優勝した。
そして、優勝商品もなく、宿舎に戻った。
それから、勉強の時間が始まった。
疲れからか集中力が切れてしまい、眠りかけた。
そして、また恋愛相談所が開かれた。
「オリエンテーションのMVPは、水本君だね」
「そうですねー、というか眠い」
「否定しないんだ」
「否定しても、否定しなくてもどっちも同じ」
顧問のアラサー先生が入ってくる。
「あんたたちの恋愛相談はないの?」
「特に」
「ないですね」
二人で、一つの文を作ってみました。
さて、ここで俺が少しだけ仕掛けてみる。
「それじゃあ、大人の恋愛相談とか聞いてみたいですね、例えば、このペンションの人とか」
「なるほど、ペンションの人に聞くのはいいかも」
「先生、ペンションの人、連れてきてくださいよ」
「何か引っ掛かるけど、いいわ、呼んでみる」
「奥さんとかいるなら、出来れば奥さんもね」
アラサー先生が、部屋から出て探しにいく。
約十分後。
「連れてきたわよ」
二人の四十代の男女が、恋愛相談所に入ってくる。
「はぁ……」
「何これ」
「あのー、二人とも、どうぞこちらの椅子にお掛けになってください。あと、ついでに名前も書いてもらえないでしょうか?」
「じゃあ、一応」
二人が書き始める。そして、確認をする。
「月宮健吾さんと、聡子さんですね」
二人は、まだそわそわしている。
「何か、恋愛相談したいことはありますか?」
「はぁ……」
「これといって、無いんだけど」
「あれ? そういえば、奥さんは指輪をしてないんですか?」
「えっ? ゆ、指輪?」
「いや、指輪が無いですから、どこかに置き忘れたんですか?」
左手に指輪が無いことを指摘する。
「えっ? そ、そうなの、てっきり忘れちゃって」
「じゃあ、取ってきてくださいよ。後で、写真を撮るときに指輪が無いのは、少し不自然かなと」
「そ、それじゃあ、取ってきます」
奥さんが部屋を出ていく。
なかなか帰ってこなかった。
「ごめん、ちょっとトイレいってくる」
「えっ? うん。分かった」
「あの、少しだけ失礼します」
そう言って、部屋を出ていき、トイレに向かう。
「どこにあるのよ? あの時、どこに投げたのよ? 全然、見つからない。どうしよう?」
「何で、外を探してるんですか?」
「えっ!!」
「まぁ、見つからないのも無理は無いですけど、だって、俺がその指輪拾ったんだから」
俺は、指輪をポケットから出して、それを奥さんに見せる。
さて、恋愛相談が始まりますよ。




