校外活動一日目 (後編)
「「出張恋愛相談~」」
イェーイという歓声もなく、いつもはスタジオで収録しているのに、突然、外でロケをすることになった感じだな。
ある意味、部室から出てきたって言えば、そうなるのかもしれない。
ただ、やる気は微々たるものしかない。
いや、微々たるですら、誇張していると思う。
「ここで、恋愛相談するんですか?」
森野絢夏は、俺たち二人に言い放った。
毎回毎回、森野絢夏って、フルネームで言うのも、面倒くさい。あやかから、あやか~・・・・・・
アラサーと呼ぶことにしよう。
「嫌なら、私の合コン体験談とか、婚活体験談の話を今から晩ごはんまで聞くことになるけど?」
嫌だ嫌だ嫌だ。
アラサーのそんな話なんか聞きたくない!!
涙なしには見れない、長編恋愛スペクタクル映画の予感がする。
というわけで、現在、部室の中と同じように、机と椅子を並べて、疑似恋愛相談所として、オープン初日を迎えました。
「まさか、ここでもするなんてね……」
「まぁ、顧問の地獄の話を聞くよりか、百倍ほどマシな気がするけど・・・誰も来なければ幸せだな」
「夕食って、何かな?」
「哲学的な話? それとも、普通に食べ物の話?」
「食べ物の話」
だよね~。哲学的な話だったら、語り合い始めたら三時間ぐらい経過しちゃいそう。
「飯とか、肉だけで充分なんだけどな」
あと、米とかライスとかrizとか
全部、同じものじゃねぇか。あと、rizはフランス語だからね、読み方は「リ」だから覚えやすいね♪
「野菜もでしょ?」
「野菜も食べれるけど、それ中心はスゲー嫌」
中学校の修学旅行で、晩ごはんが八割野菜が来たときは、なかなかショックな出来事だった。
ちなみに、残り二割はrizでしたけどね。
「ちょっと、寝てていい?」
「いいよ~」
自由時間だから、寝てもいいんだよね?
中学時代にしまくった、王道の寝かたをする。
両腕で、輪を作り、手前の腕に頭を置けば、あっという間に眠りにつける。
「おやすみなさい」
そう聞こえたときには、半分意識が遠ざかっていたのである。だって、四時起きなんだぜ。
「起きてください~、晩ごはんの時間ですよ~」
体が揺さぶられて、ゆっくり目が覚める。
「あっ、うん、おはようござ~す」
頭が回らないと、自分でも何言ってんのか、ちょっと、分からなくなりそうになる。
「結局、誰も来なかったの?」
「うん。誰一人来なかったけど」
空本さんに悪いことしちゃったなぁ。
ただでさえ、暇なのに、俺は寝ちゃったし、あとでごめんなさいしておかないと。
「明日もするのかな?」
「明日あったら、体験談聞いた方がいいかもな」
「そうかもね」
このとき、俺は知らなかった。
我が家にピンチになっているということに……
「おじゃましま~す」
私は、翼の家に文字通りおじゃましていた。
「翼~、お話ししよ……って、いないじゃん!!」
「あれ? 真由さん、どうしたんですか?」
「翼は、まだ帰ってきてないの?」
「お兄ちゃんなら、今日から三日間校外活動で、帰ってこないですよ。聞いてなかったんですか?」
「えっ?」
私にとって、残念なことこの上ないんだけれど。
でも、待てよ。もしかしたら……
「今日、翼の部屋に泊まってもいいかな?」
「お兄ちゃんいないのに?」
「うん」
「別にいいですよ」
「ありがと~、晩ごはんは作るから」
私は、着替えと荷物を持ち込むために、一旦、家に戻ることにした。一応、お母さんにも言っとかないと。明日も学校はあるからね。
お母さんに言ったら、普通にOKを貰えた。
本当なら翼と一緒がいいんだけど、いないなら、部屋を独り占めするしかない。ヘヘッ。
いつも入っているのに、少しだけ緊張する。
「失礼しま~す」
挨拶をして、翼の部屋に入室する。
翼の部屋は、きちんと片付いていて、物足りない。
ただ、パジャマと思われる衣服がベッドの上に、脱ぎ捨てられていた。ヘヘッ。
「まぁ、まずは、晩ごはんを作って、お風呂に入ってからよね♪」
楽しみは最後にとっておく理論。
荷物を置いて、一旦リビングまで向かった。
「なるほど」
俺たちの晩ごはんは、米・肉・野菜の三拍子が揃った、なんとも体に良さそうな晩ごはんでした。
「それでは、いただきます」
食事係の代表が、そう言うと同時に、全員が箸を持ち、食事に貪りついた。
昼ごはんは、弁当で、しかも早めに食べさせられたため、多分、運動部に入っているような人からしたら、待ちわびた食事の時間と言えるだろう。
「おいしいね」
村上君が笑顔で、こっちを見てくれる。
癒しとは、こういうことを言うのだろう。
広辞苑に載せても、批判とか一切来ないレベルだ。
今頃、空もご飯を食べてるんだろなぁ。
・・・大丈夫かな? 心配になってしまう。
最悪、宅配でもしてくれれば、安心だけど、母さんには出来るだけ早く帰宅してほしい。
物足りなさも感じつつあるが、晩ごはんの時間が終わる。この場合の物足りなさというのは、満腹感を満たしていないという意味と考えてもらいたい。
さて、このあとは、いよいよお待ちかねのお風呂の時間、通称バスタイム。
もちろん、男女別ですけどね。
もし、混浴とかなら俺、絶対に入りたくない。
入るとしたら、夜中に一人で入るつもりだ。
「A~D組の男子は、このあとすぐに浴場に向かって入浴してください」
さて、着替えを持って、大浴場に向かおう。
何故、学校行事における入浴時間は、こんなにも短いのだろうか? 入った気がしない。
大浴場に多数の男子高校生が入るということが、窮屈で疲れがたまるというのを分かってほしい。
男の裸なんか見ても、何の興奮もない。
ただ、思うのは、運動部の奴は筋肉付いてるなってことぐらいだな。
明後日帰ったら、最初に風呂に入ろう。
「はぁぁ~、きっもちいぃ~」
私は今、翼の家のお風呂に入浴中です。
前の土曜日以来かな~? 翼の家のお風呂に入ったのは。
これから、楽しみが待っている。ヘヘッ。
そのためには、体を清潔にしないといけない。
いつもより念入りに洗い、準備を整える。
お風呂に入って、一時間ほど経ってしまった。
「そろそろ、上がろうかな……」
湯船から、一糸纏わぬ状態で、出ていく。
華奢とは言わないが、男子が好みそうな、少しムッチリした感じで、理想的な体つきであると自分自身では、自負している。
浴室から出て、持ってきた下着を着けていく。
いつも淡い色を好んでいる。変にエロい下着はあんまり着けたいとは思わない。
最も、翼とそういう雰囲気になったときには、エロい下着で、そういうことを済ませるつもり。
上も下も着けたあと、私は失敗に気付いた。
翼のパジャマを着るつもりだったのに、ここに持ってくるのを忘れてしまった。
まぁ、そんなに問題もないんだけどね。
今、翼の家には女性しかいないから、安心~。
私は下着姿のまま、翼の部屋まで戻っていった。
翼がこんな姿見たら、興奮してくれるかなぁ~。
「はぁ、パジャマだぁ、まずは、においを少し拝借しちゃおうっと、グヘヘ」
私は翼が着ていたものに、顔ごと突っ込む。
私はとんでもない変態になりつつある。でも、私は幸せな気分で生きている。
十分に堪能したところで、今度はそれを着る。
サイズは、もちろん大きくて合わないけれど、そんなことなんかどうでもいいと思う。
そして、いよいよ今晩の楽しみが目の前に。
翼のベッドに入らさせていただきます。
布団をゆっくりめくり、体をそっと忍ばせて、思いっきり全身を覆い被さる。
パジャマと同様に、まずは、においをクンクンすることから始める。
「ヘヘヘヘッ、ウヒョヒョヒョ」
完全に危ない人と化しているけど、私にとっては、最高に楽しいことなんだからいいじゃん。
ここに、翼がいれば、どれだけ興奮するか?
見られてるってだけで、ヤバイかもしれない。
そのあと、何をしたかはご想像にお任せします。
風呂から上がり、やっと自分たちの部屋に戻ってくることが出来た。
村上君に、どうして担任に呼ばれたのか聞かれたりしたが、特に詳しくは話さなかった。
「さて、そろそろ寝ますか」
「そうだね」
「うん」
村上君も水谷君も了承があったので、明日も早いので、さっさと布団に入って、寝ることになった。
修学旅行とかだと、好きな人誰だよトークが始まったりするのが、定番だが、この部屋では、誰一人として、そんなことに興味を示すタイプは一人もいないのである。
多分、夜中の一時とかそれぐらいの時間。
三つ並んだ布団の真ん中になったのだが、隣を見ると、村上君の寝顔がそこにあった。
部屋の電気は真っ暗というわけではなく、豆電球が少し照らしている。
そんな状態の中で、村上君の寝顔は光り輝いていた。何だろう、すごい良かった。
拝見できて、思い出になることだろう。
明日はイベントごとのオンパレードだ。
気を引き締めて頑張ろう。




