帰宅後
昼の一時過ぎにやっと駅前に着いたのだが、荷物が重いので、一度休憩をはさむことにした。
俺はとりあえずファミレスに立ち寄った。
春休みというのもあり、親子で来ているのが多いのか少し混んでいた。そこで昼ご飯を食べてから本屋に向かい、小説を二冊購入し、ケーキ屋でイチゴのショートケーキを買った。
電車に揺られること三十分。
電車の中はかなり空いていて、買った小説を読むのにはかなり心地よかった。
電車から降りて自転車を乗り、家まで帰る。
カゴに教科書をいれているので重かったが、ペダルをしっかり踏み込み、家に帰っていった。
家に着き、玄関の鍵を開けようとしたが、鍵がかかっていなかった。
(鍵閉めていってなかったかな......多分閉めたはずだったけど......)
玄関を開けると、女子の運動靴がそこにあった。
はぁとため息をつき、リビングに向かった。
そこには、中学校の体操服を着ている女の子がいた。
「空、玄関の鍵、閉め忘れてたぞ」
その女の子こそ、俺の妹の水本空である。
「ごめん、ごめん、次から気を付けるから」
「鍵の閉め忘れは、危ないんだから、ちゃんとしろよ」
多分、妹は忘れてしまうのだろう。これに関してはかなりの自信がある。
「ケーキ買ってきたから、食べれば」
俺は、買ってきたケーキをリビングのテーブルに置いた。
「ありがとー お兄ちゃん大好きー」
「そんな棒読みで感謝の言葉を言われても腹立つ」
「イチゴのショートケーキだぁ」
妹は既にケーキの方に気を取られていた。
俺の妹は、アニメのようなお兄ちゃん大好き妹ではない。基本的には仲が良いのだが、腹立つことも多い。
俺の漫画や小説を勝手に持っていったり、俺をパシらせたりなどと少し面倒くさいのだが、別に嫌いではない。後、シスコンではない。
「お兄ちゃん、今日どこ行ってたの?」
「高校の入学説明会と学校で要るものの購入」
「教科書とか?」
「教科書と体育館シューズと、あと、カバン」
「制服とかは?」
「また今度、高校まで取りに行く」
「ねぇ、高校の教科書見せて」
「別にいいけど」
「どこにあるの?」
「カバンの中」
「わかった」
俺ら兄妹の会話はこんな感じだ。常に淡々としている。妹は、現在俺のカバンを漁っている。
「このラノベ、新刊出たんだ。先読んでいい?」
「いいけど、教科書はいいのか?」
「あとで見るから。あと、ケーキ、テーブルに出しといて」
「はいはい」
そう言って俺は、ケーキを乗せる皿を取りだし、箱の中からイチゴのショートケーキを出し、皿に乗せた。そして、コップに牛乳を入れてあげた。
そして、妹がテーブルに近づいてくる。
「ケーキって、全部で四つあるんだ」
「一応、家族の分は、買っておいた」
「二個食べていい?」
「さらっと俺の存在を消すな」
「そこは『俺も家族だよ』って、つっこんでよ」
「お前の求めるツッコミできなくてごめんなさい」
妹はバラエティ番組が好きだから、こういうとこが少しだけ厳しい。ちょっと違うツッコミしただけで、すぐに怒る。よく分かんない。
妹をリビングに残して、自分の荷物を部屋に持っていく。
自分の部屋は、ベッドと本棚と勉強机しかない。荷物を部屋に入れて、ベッドに寝転ぼうとした時、中学校の卒業アルバムがベッドに置かれていた。
アルバムを開くと、何もない空白のページがそこにあった。中学校の思い出は嫌なものしかない。
アルバムを閉じ、本棚にしまった。
そして、買ってきたもう一つの小説を読むことにした。
百ページほど進んだところで本を閉じ、リビングに向かった。空は、ソファーで寝ていた。
タオルケットを掛けて、手元にあった小説を取り、コップと皿を台所の流し台に入れた。
ケーキを冷やしておこうと思い、箱を見ると、二個しかなかった。
「二個食ったのかよ(笑)」
妹をチラッと見た。少し笑ってしまった。
(こんな妹でも、いるだけで、嬉しいかな)
そして、冷蔵庫にケーキを入れて、再び部屋に戻った。