二件目
金曜日とは、非常に罪な曜日である。
他の曜日とは違って、俺たちに対して、明日が休みであることをちらつかせて、休みを誘惑する。
擬人化すると、確実にビッチが出来そう。
そんなわけで、とっとと行って帰ろう。
しかし、金曜日の授業でしんどいのは、最後の体育の授業である。
今日は、集団行動の練習のみで、行進とか列の変形などに時間を使いまくっていた。
人間的な集団行動がそんなに出来ない俺には、苦手科目であります。
そして、ラジオ体操第一をやりきって授業終了。
またしても、放課後。
部活をやる人にとっては、休日も部活があるので、別に金曜日だからどうということもないが、俺たちの部活は土日祝日は、一切しないから嬉しい。
唯一救いがあるとするならその点だ。
みんなは、ちゃんと青春するんだぞ。
ちなみに、俺、明日女の子と買い物行くんだぜ。
俺超リア充。そして、青春しまくってる~。
嫌われそうだから、これぐらいにしておこう。
一応、職員室には寄っていく。
万が一、空本さんが忘れてて、部室が開いてなかったら、取りに行かないといけないし、面倒だし。
そのため、空本さんが先に行ってても寄ることにしている。
結果は、鍵はありませんでした。部室へゴー。
「やっと、来てくれた」
「うん。ちょっと用事で」
適当な嘘でごまかす。というか、悪いことはしてないから嘘まで吐かなくていいんだけどね。
「やっとってどういうこと?」
「えっ? 別に深い意味はないけど……」
「ゴメンね。ちょっと気になっちゃって」
「ううん。大丈夫だよ」
この部室って静かだな。
吹奏楽部の練習とかも少しだけ聞こえてきて、風も吹き抜けていて気持ちがいい。
気持ちがいいというのはエロい意味ではない。
このまま、二時間ぐらい読書が出来そうだ。
コンコン。
今、この場で場違いな音が聞こえてきた。
「どうぞ。入ってください」
久しぶりに人が来るようだ。
恋愛相談か? 先生か? どっちでしょう?
「し、失礼します!!」
すごい、威勢のいい男子の声が飛び出してくる。
そして、扉が開いて男子生徒が入ってくる。
「一目惚れしました」
俺にですか? 多分違うんだろうな。
そんなことより、入ってきていきなり一目惚れしましたってどういうことでしょう?
スリッパを見ると俺たちと同じ青のスリッパだ。
つまり、一年生であるということだ。
一目惚れしたって空本さんのことかな? じゃあ、席でも外そうかな?
「すいません。とりあえず席に座ってくれる?」
状況を整理するには、まず相手を落ち着かせる。
これは、生きていく上で多分必要だ。
「はい!! すいません。突然」
突然すぎて、恐ろしかったよ。夢に出てくるわ。
「さて・・・空本さん?」
「えっ?」
「多分、恋愛相談だから、メモよろしくね」
「は、はい……」
「とりあえず、学年、クラス、名前を言ってくれますか?」
「はい!! 一年G組の滝野晋也です」
元気がよくてよろしい! でも、少しうるさい!
絶対体育会系の人間だな。部活も野球かサッカー。
あぁ、俺と相対する種族の人間でした。
「恋愛相談でいいんだよね?」
「もちろんです。そのために部活少し遅れてます」
早く部活に行け。そして、青春してくれ。
「それで、一目惚れしたって言うのは?」
「はい!! 入学式にスゴい可愛い女の子を見かけたんだけど、まさしく恋に落ちたというか一目惚れしたというか、とにかく好きになりました」
「・・・その相手は?」
空本さんかもしれないし、空本さんじゃないかもしれないし、一応聞いておきたい。
すると、空本さんが俺の制服の裾を握ってきた。
「どうしたの?」
空本さんは、何も答えてくれなかった。
そして、相談者の滝野君が口を開いた。
「まだ、分かってません!!」
「「はい?」」
「実は、見かけただけで、名前も知らないし、何組かも分からなくて、でも会いたいし、どうしたらいいか分からなくてここに来ました」
「こちらの空本さんではないんだね?」
「あっ、違います」
「はぁ、よかったぁ~」
空本さんが安堵の息を立てていた。
まぁ、もしかしたら、告白されるかもしれなかったわけだし、安心するのも無理はない。
「それで、俺たちに何をしてほしいの?」
「その相手を一緒に、探してほしいのもあるんだけど、付き合いたいって思うんだよ。だから、告白のやり方とか教えてもらえたらなぁと」
「探すのは、自分でやった方が効率がいい」
「そうですか?」
「だって、集団で誰なのか知らない人探すのは、目立つからな。それは自分でやるべきだし、上手くいけば、名前を知ることもできるかもな」
「分かりました……すいません。部活に行かないといけないので、告白のやり方は考えてください」
「えっ、ちょ、ちょっと」
「よろしくお願いします!!」
そして、嵐のように去っていった。
また、厄介な問題が持ち込まれたようだ。
というか、この学校告白流行ってんの?
「空本さんは、どう思う?」
「えっ?」
「告白のやり方考えてくれって、どう思う?」
俺としては、反対だな。自分の言葉で気持ちを伝えないといけないし、ましてやそれを人に頼むなんて俺にはやっぱり分からない。
「私は、少し嫌かな」
とりあえず保留かな? まだ、どうしようない。
告白を考えるのは別に出来ないことではない。
ただ、相手を知らない上で、それをするとなると、よっぽどのセンスが問われてくる。
あいにく、俺にはそれを備えてはいない。
さて、この相談・・・どうしようかな?




