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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
39/112

初めてのご挨拶

 玄関は・・・広かった。

 俺が知っている玄関のなかで、確実にトップの座に君臨している玄関。俺は思い知った。

 まだ知らない玄関の未知の可能性。

 玄関を、玄関をもっと知りたい。


 こんな感じで始まる小説があったら、気持ち悪いと思う。ただ、読んでみたいとは思うけどね。


 というわけで、玄関を通り抜け空本(そらもと)さんと歩く。

 ただでさえ、女の子の家に上がるのに、父親にご挨拶とか、緊張を通り越して、死にたくなる。


 何だか和室と洋室が色々あって、何ともいえない雰囲気が漂いつつ、綺麗な廊下ですね。


「この家っていつぐらいに建てられたの?」

「多分、私が産まれたときから住んでるから……十五年くらいかな?」

「世の中って、スゴいよね」

 改めて実感するお金持ちと庶民の差。

 いつしか、庶民サンプルとしてお嬢様学校に連れていかれたいものである。

人生に軽く絶望している最中だが、リビングどこ?

さっきから歩いているけど、着く気配がない。

めちゃくちゃ広いなこの家。


「もうすぐリビングに着くから」

 家の中で、着くという言葉を発したことないわ。

 リビングに着くって何を言ってるの?

 俺も言ってみたいわ~。

「ごめんね、俺の家リビング遠くて、でも、もうすぐで着くから、あとちょっと頑張って」

超ダサい。想像だけでダサいって分かるんだから、現実でこれ言ったら、黒い歴史になるでしょう。


「ここだよ」

「・・・豪華ですね」

 リビングなのかな? 俺が知っているリビングではない。俺は思い知った。

 まだ知らないリビングの・・・。

 同じネタ使い回すのあんまりよくないな。


「お父さんはまだ帰ってきてないから、少しくつろいでいて」

 ここで、遠慮なく、くつろいだら、バカだろう。

「ソファーに座ってもいいの?」

「別に確認しなくてもいいよ」

 いやいや、確認しなきゃまずいだろ。

死んだおじいさんの形見のソファーで、いつも座ってた定位置の場所とかに間違って座ったら、空本さんのお父さんに殺される可能性があるじゃないか。

 これは、心配性ではない。危機管理能力の高さによるものである。


「それじゃあ、お茶でも持ってくるね」

「おかまいなく」

 おかまいなくって誤変換でオカマいなくってなるのかな? オカマというよりオネェかな……最近。

 究極にどうでもいいこと考えるのが俺の特技。


「はい、お茶です」

お茶の正しい飲み方ってあったっけ?

・・・俺って招かれてる立場なんだよな?

こんな招かれ方、なんか嫌だ。イッキ飲みしたい。


 結局、お茶を二分程度置いてから飲むという斬新なマナーを披露して空本さんのお父さんを待った。

 間違えても、お父さんって呼ばないように。

 俺はてめぇの父親じゃねぇとか言われそう。


風花(ふうか)、今日は早く帰ってきてたんだな」

「お父さん、おかえりなさい」


 突然、帰ってくるのは、卑怯者のすることだよ。


「もしかして、そちらの人が?」

 俺は、即座に立ち上がり、

「あ、あの、はじめまして、水本(みずもと)(つばさ)と申します。えーと、その、空本さんと部活を頑張ってます」

 以上。自己紹介終了。


「ハハハ、まぁ、座りなさい。私も着替えてから、リビングで話したい、なので少し待ってもらえるかな?」

「はい。待ちます」

 忠犬にでもなって、待ちます。


「どうだった? 私のお父さんは?」

「何かスゴいよね」

 抽象的でごめんね。でも、なんだろう。言葉にするのは、出来るはずなんだけどな。


「すみません。お待たせしました」

「こちらこそ、突然お邪魔してすいません」

「それじゃあ、お掛けになって」

「はい」

 こういうときに大事なのは、怖じ気づかないということである。面接とかの対策本に書いてそう。

 相手の目を見る。

 威圧感半端ないなぁ。


「水本君に聴いてみたかったのだが、学校での風花はどういうものだろうか?」

「空本さんは、副委員長として頑張ってますし、すごく親しみやすい相手だと思ってます」

 俺は、決して家庭訪問をしているわけではない。

質問に答えているだけです。

「なるほど、なかなか興味深いものだな」

「興味深いというのは?」

「親しみやすいという部分なのだが、風花は人見知りすることが結構あって、驚いているんだよ」

「そうなんですか」

 マジで家庭訪問になってるぞ。

「それで、今度の土曜日の件なのだが」

 会社の重要な会議でもしてるんでしょうか?

「はい」

「何のために風花と出かけるのか聞かせてほしい」

「はい。来週から校外活動というものがあって、もしも、クラスの中で、必需品などを忘れた人がいたときのために、余分に買っておこうと思いまして、そのために、クラス委員の僕と空本さんで一緒に行こうと思った所存であります」

 自分が知っている敬語を使って、説明する。

「なるほど、そういうためなのか……分かった。ただし、君には風花をしっかりとエスコートしてもらいたい。風花が家族以外でどこかに出かけることはあまりないから。しっかり守りなさい」

「はい」

「ありがとうございます。お父さん」

 結婚を認められたのかよと思うような言い方はできるだけやめてくださいね。

「風花、少し二人で話したいから席を外しなさい」

「は、はい」

 さっきから、ずっと二人でしか話してないんですけれども……

 空本さんが退出して、二人きりになる。


 先に仕掛けてきたのは、向こうだった。

「君は風花のことが好きなのか?」

 単刀直入で直球な質問が来てしまった。

「現時点では、いい友達になれると思ってます」

 濁すしかないな。好きとか嫌いとか無いからな。

「今後、好きになる可能性があると?」

「一応、あることにはあると思います」

「それなら、それでいい」

「・・・」

 何を考えているのだろうか?

 普通なら娘を好きにならないでくれとか言いそうなのだけれども、言ってこなかった。

「私は、自分で設立した会社の社長をやってるのだが、ゆくゆくは、私は親父の会社を継ぐ・・・かもしれない。私には弟がいるんだが、少し跡継ぎ争いになってるんだ。だから、まだ継ぐか分からない」

「・・・」

 何だろうな、突然そんなことを言われても、どう話を返していったらいいのか分からない。

「すまないな。家庭の事情を話してしまって……つまらないだろう」

「そんなことはないですけど」

「風花は、将来、結婚相手とお見合いをさせないといけないかもしれない」

「そうなるかもしれないですね」

「私としては、会社のことも考えないといけないのだが、問題は風花自身の幸せなのだ」

「そうですね……」

「別に君が風花の相手になれということは言ってないのだが、なるべく接してあげてほしい」

「はい」

 家庭の事情なんか聞くべきではない。

 余計なことを知れば、変に意識するからな。

「君にはこのことを知っておいて欲しかった」

「どうしてですか?」

「風花とこれから一番接していく男だからだな」

「一番ですか?」

「一番だ」

 はっきり言われると、自信を無くしそうになる。

「頑張ります」

「頑張りなさい。今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ、家庭の話をしてくださってありがとうございました」


 俺は、席を立ち、リビングを出る。


「水本君。帰るの?」

「うん。またお礼言っておいて」

「ありがとね」

「どういたしまして」


 来た道を戻っていき、玄関まで進んでいく。

 帰りは、駅まで送ってくれるらしいので、お言葉に甘えることにした。

 空本さんも乗ろうとしたが、断っておいた。

 そして、行きとは違って、何も会話がないまま駅までの道を走っていく。


東山(とうやま)さん。ありがとうございました」

「また、家に来てくださいね」


 駅前で降りて、電車に乗って帰る。



「風花」

「お父さん、何ですか?」

「・・・いや、なんでもない」

「分かりました」



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