訪問
本日も部活であります。
朝から色々と大変だったが、何とかここまでやって来れた。
放課後になり、真由に「怪我とか大丈夫か?」とメールを送っておき、教室をあとにする。
空本さんから何やらお願い事があるらしい。
昼休みにでも言ってくれたら良かったのに……。
厄介事ならすぐに断ろう。
「水本君、ごめんね。昨日のメールのことだけど」
「別に大丈夫だけど、それでお願いしたいことって何ですか?」
「え~と、単刀直入に言うと、私のお父さんに会ってもらいたいの」
俺たちは、結婚の予定とかないよね?
「俺がろくでもない男だったら、今回の買い物の話は無しになるってことかな?」
「え、え~と、そういうことになるかな?」
そんな悩まなくても、そういうことになるでしょ。
面倒だな。過保護な親というか親バカというか……
「はぁ・・・誘って悪いんだけど、俺一人で行った方がいいんじゃないのかな?」
「でも、もうお父さんに言っちゃったし……」
そんなに深刻な話か? これ?
「もしかして、水本君って自分のことをろくでもない男だと思ってるの?」
「男子高校生で『結婚不適合者』になった時点で、ろくでもない男なんじゃないかな?」
「そんなに私のお父さんに会いたくないの?」
だって、初対面で共通の話題がほとんど無くて、しかも年上なんだぞ。嫌に決まってる。
「会いたくないというより、会ってもどうしようもないからなぁ」
「私が何とかフォローとかするから・・・ね?」
そんなお願いされたら、断れないじゃないか!
「分かりました。行きます」
「本当? 良かった~」
「それで、いつ行くの?」
「出来れば、今日この後このまま行こうかなって」
こ・こ・ろ・の・じ・ゅ・ん・び。
盛大にため息が出そうです。
嫌なことはなるべく先に済ませた方がいいんだけど、そのあとに良いことが無さそうなんだよな。
ほら、イチゴのショートケーキのイチゴを最後に残す感じ? ちょっと違うか?
じゃあ、あれだ。嫌いなものを先に食べて、好きなものを最後に食べるタイプのやつだ。これは合ってるはずだ。
「分かった。どうやって行くの?」
「お迎えの車で一緒に行くんだよ」
冷静に考えれば、それしか方法がないじゃん。
空本さんの家なんか俺一ミリも知らないからな。
「本当に今から?」
「というわけで、今日は部活休みだね。鍵閉めて早く行こっか」
何でそんなにウキウキしてらっしゃるんですか? お昼休みですか?
「職員室には、俺が持っていくから、下駄箱で待っててくれていいよ」
「私も一緒に行く。逃げられたら嫌だもん」
俺って、そんなに信用無いんですか……。
「空本さんのお父さんってどんな人なの?」
「う~ん、一言じゃ言えないかな」
別に一言でお願いしてはないんですけど。
「会えば、分かるの?」
「とりあえず、会ってみたら分かるかも」
他人の父親って、そんなに会うことないよな。
俺が知ってる父さん以外の父さんって真由の所と、まこっちゃんの父さんには、一回しか会ってない。
「私のお父さんは、会社の社長さんなの」
「そうですか」
一般の会社社員である、水本家の父親は、今日も頑張ってます。感謝してますよ。
「うん」
「・・・」
毎回毎回会話がどっかで、途切れてしまうのがやっぱり問題だな。何か、毎日これ言っておかないと、禁断症状とか出てきそうだな。
職員室に鍵を戻して、下駄箱に向かう。
「一応、校門の前に迎えの車を待たせてるの」
入学説明会のときに見た高級車に乗るのか……俺。
「あの車?」
運転手が車から降りてきて、待っていた。
乗る気が滅入ってしまう。
本当に俺みたいなのが乗ってもいいのだろうか?
こういうとき、どっち側に乗ればいいのだろうか?
運転手の人が舌打ちとかしないだろうか?
まだ、会ってない人に被害妄想してる辺り、俺、結構ダメなのかもしれない。
「風花さん、それと水本さん、どうぞ後ろの席に」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
「はじめまして、水本翼と言います」
「ご丁寧に、私は運転手の東山連次郎と申します」
「よろしくお願いします」
「風花さんからいつもお話を聞かせてもらってますよ。水本さん」
グッとくるシチュエーションですね。
知らないところで、俺の話題になってるとかね。
「そうなんですか?」
「えぇ、家に着くまでの間、ずっとそういう話で」
空本さんが全然否定してくれない。
そういうときは、
「ちょっと、東山さん。そんなこと言わないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
って言えば、俺、多分顔真っ赤にして死ぬ。
「空本さん、俺の話題なんかあるの?」
「うん。あるよ」
「例えば?」
「う~ん。それは秘密」
俺の話題なんだから、秘密にする必要ないだろ。
「え~、ちょっと教えてよ~」
俺が思う今どきの女子高生演じてみたけど、どう?
「教えてあ~げない」
マジで頑固だな。
「二人とも仲がいいんですね」
そんなことはないんですけど。
まぁ、空本さんがどう思ってるか分からないし、気軽に答えてはいけないな。
「う~ん。そんなことはないけどね」
気軽に答えちゃった!
まぁ、当たり前だからな。会ってまだ一ヶ月も経ってないから。仲良しまでにはなれないだろ。
「空本さんの家って、高校からどれくらいの時間がかかるの?」
「う~ん。三十分ぐらいかな?」
「そんなぐらいですね」
つまり、あと何分ぐらいこの時間が続くのだろうか大体分かってくる。もう飽きてきたんだもん。
っていうか眠りにつきたい。
それから、二十分ぐらい何の会話ないまま、車は走っていった。外の景色は最高だな。暇つぶし的に。
「もうすぐ到着ですよ」
東山さんのこの一言で、やっと解放される。
あぁ、でも帰りは、駅まで送ってくれるかな?
そして、車が止まった。
「到着です」
「ありがとうございました」
車から降りると、そこには、かなり大きく、お屋敷のような家が建っていた。
他に言葉が思い浮かばない。
「ここが空本さんの家?」
「うん」
当たり前のように言ってのけるのが、スゴい。
「それじゃあ、入ろっか」
俺たちは、門をくぐり、玄関まで向かった。




