寝起きドッキリ?
「お兄ちゃん」
「ん? どうしたの、空?」
「私とキスして」
「はい?」
「キスして・・・それより抱いてほしい」
「えっ?」
「抱いてほしいっていうのは、そういう意味だよ」
空がだんだん俺に近づいてくる。
俺は、思いっきりほっぺをつねる。
痛くない。
つまりこれは夢だ。
夢の中ならいいのかな? いや、ダメだろ。
夢の中であっても、妹を抱くなどというハレンチな行為は・・・
「お兄ちゃん、私は初めてだから」
「やめましょう。こんなこと」
夢の中の俺、負けちゃダメだ。負けちゃダメだ。
「じゃあ、抱いてもらうのは我慢する。その代わりキスしてほしい」
「それもダメだ」
「じゃあ、何だったらしてくれるの? 私、お兄ちゃんのこと愛してるのに……我慢できないよ」
何これ、夢の中なんだけど、現実になったら怖い。
「お兄ちゃんと空は兄妹なんだよ。だからそういう感情を持っちゃダメ」
ラノベとかなら結構いるブラコンとシスコンを軽く否定している。
「抱きしめるだけ。それだけならいいでしょ……」
「分かった。それだけしたら部屋に戻ってね」
「うん……」
そして、俺は空を力いっぱい抱きしめた。
すると、空が俺の胸を思いっきり叩き始めた。
痛い、痛い・・・
すると、夢の中の世界が消えて現実に戻って、目が覚めた。
「翼、そんな急に抱きつかないでよ……恥ずかしい」
俺が今、布団の中で、抱きしめていたのは真由だった。
「うわっ」
「うわっじゃないよ。せっかく起こしに来たのに」
あまり、朝から大きな声を出したくなかった。
その結果、真由を布団の中に入れて抱きしめた状態のまま、小声で話すことにした。
「そんなことより、どうやって入ってきた?」
「どうやって、入ってきたと思う?」
警察に言えば、不法侵入で捕まえてくれるかな?
「実は、結構前に翼のお母さんから合鍵をもらってたの。でも、忘れちゃってて、昨日部屋の掃除してたら、偶然出てきたの! スゴくない?」
スゴいというより、母さんが何をやってるんだと、
「そして、それを使って入ってきたと?」
「うん♪」
布団の中でイチャイチャしている感じになる。
しかし、ここである問題に気がついた。
俺の下半身問題である。
男性(男子高校生も含む)の朝のお悩みとは、下半身がトランス状態に陥ることである。
自分では意識してなくても、勝手にトランス状態になるときもあるほどの問題である。
現に多分俺は少しトランス状態になっている。
ここで状況を整理しよう。
真由と俺は、現在布団の中で抱きしめ合っている。
真由とは身体が密接しており、俺はトランス状態。
なるべく離れないといけない。
「じゃあ、そろそろ起きようかな~」
あくまで自然にこの台詞を言い、真由と離れようと試みた。
むぎゅ。
「あの~、起きたいんですけど」
「本当に起きたいの? 布団の中の方が気持ちいいよ。今日休みたくなっちゃうくらい」
真由は離れてくれませんでした。
むしろ、さっきより密着していると思う。
「だって、翼、嫌がってないじゃん」
「俺が本気で嫌がったら、真由が泣いちゃうから」
「それに……少し興奮してるんでしょ?」
何かバレちゃった。
「隠したって、身体が反応しちゃうんだから」
官能小説で聞くような台詞になってるよ。
「とりあえず、布団からでる」
「私は離さないよ」
「真由、いい加減にしなさい」
「翼がいけないんだもん。他の女の子と休みの日に過ごそうとしてるもん。不公平じゃん」
「わがまま」
「わがままじゃないもん」
「早く布団から出て、朝ごはん食べたいな」
「私にキスしてくれたら離してあげる♪」
取引だったら、こっちにしか利益がないようだが、俺は、
「それは断る」
「何で?」
「もし、俺に彼女ができたとき、真由がこの事実を使って、俺の邪魔とかをしてきそうだから」
「私ってそんなにひどい女なの?」
「目的のためなら手段選ばなさそうな女かな」
「ひど~い」
真由の機嫌を損ねた所で、
「起きるから、離れて!」
「嫌!」
真由は、意地でも離れてくれないらしい。
「本当に離れろ!」
「キャッ」
思わず真由を軽く突き飛ばしてしまった。
ドスン。
真由がベッドから落ちてしまった。
ヤバイ。真由が、怪我してたらどうしよう?
「うぅ、イタタ」
俺は、とっさに真由のもとに駆け寄った。
真由の顔を覗き込んで、問いかける。
「真由大丈夫か? どっか痛いとことかないか? 頭とか打ってないか?」
「え、え、だ、大丈夫だよ。ち、近いよ……」
真由が少し笑って言うのだが、きっと我慢してるからに違いない。
「やっぱり、どっか痛いとこあるんじゃないなか? 湿布とか持ってこようか?」
「心配しすぎだよ~……嬉しいけど♪」
「真由が怪我とかしたら、心配になるのは当然なんだから」
「うぅ~、惚れちゃうよ。そんなこと言ったら」
「えっ?」
結局、大変慌てた朝になりました。
「フフ~ン」
「今日は大変ご機嫌よろしいことで」
「分かるの?」
「鼻歌を歌って機嫌悪い人とか見たことないから」
昼休み、私は静と昼ごはんを食べている。
「実は、今日の朝、翼の家に起こしにいったの。そしたら、抱きしめられたりしちゃってさ。幸せ~」
「水本君、朝から寝ぼけてたんでしょうね」
「でも、翼は起きてからも、私のこと抱きしめてくれたんだもん」
「水本君にしては、意外だね」
「それでね、突き飛ばされてベッドから落ちたんだけど、めちゃくちゃ心配されたんだよ~。それが、嬉しくて嬉しくて、幸せだったなぁ」
「本当にそれ、幸せなの?」
「だって、好きな人から大切にされてるんだよ。そりゃ、幸せに決まってるよ」
「突き飛ばされたのに?」
「そ、それは、私がしつこかったからであって……」
「まぁ、水本君は、真由のこと好きだった訳だし、今までの女の子の中では、一番大切なんだろうね。だから、真由は今のうちに、もっと距離を縮めておくのもいいかもね」
「どういう意味?」
「今は、真由にライバルになる女の子はいないわけでしょ? だから、彼氏彼女の関係になるには、もっともっと一緒の時間過ごさないと」
「ライバル……」
私は、ある人を思い出した。
それは、翼と一緒の部活に入っているという女の子の存在だった。
「どうしたの?」
「まだ、ライバルかどうか分かんないんだけど、一人そういう人がいるかもしれない。翼と同じ部活の女の子なんだけど……」
「ハハハ、ヤバイね」
「笑い事じゃない!」
「ゴメン、ゴメン。でも、真由にとっては厄介な相手になるかもしれないね」
大丈夫、大丈夫。私が一番翼のこと好きだし、翼にふさわしい女の子は、私しかいない。
心のなかでそう念じ続けていた。
「でも、水本君がその部活の女の子のこと好きになったら、真由は、あっさり捨てられるかもね」
「ひどいこと言わないで!」
「でも、実際そんなことが起きるかもしれないよ」
「その時は・・・」
その時が来たら、どうしよう? 浮気相手にでもなって、わざと浮気をその彼女にバラして、別れてもらって、それから付き合うとかしようかな?
「危ないこと考えてない?」
「人の心は読んじゃダメ」
「真由は、嫉妬深いからストーカーとかになりそうで、私スゴい怖いよ」
「ストーカーにはならないよ」
「私嫌だからね。親友が警察のお世話になるとか」
「むぅ、ひどい。バレないようにするもん」
「するつもりじゃん」
「い、今のは誘導尋問だよ~」
こうして、昼休みは終わっていった。




