おやすみなさい
空本さんと最後にメールをして、約一時間が経った。そろそろお風呂も沸いた頃なので、一旦湯船に浸かろうかと部屋を出る。
リビングを見ると、空がソファーで寝落ちしていた。
タオルケットを掛けてから、風呂場に向かった。
みんなのお待ちかね水本翼の入浴シーンだよ~。
服を脱ぎ、すぐに湯船にチャポーン。
シャワーを浴びて、シャンプーして、体洗って、
入浴シーン終了。
男の入浴シーンって、不必要なのでしょうか?
リビングでは、空がまだ寝ていた。
母さんが帰ってくるまでこのまま寝かしておいてもいいのだが、昨日のこともあるし、起こして風呂に入らせて、寝てもらおう。部活も朝早いみたいだし。
「空~、起きなさいよ~。空~、空~」
空の名前を呼んでいるが、起きてくれない。
一番楽なのは、パワープレイで叩き起こす方法。
しかし、空に何かあったらいけないので、それは除外する。空は、スースーと寝息をたてている。
何て可愛らしいのでしょうか! そんなことを思う兄として、写真を撮っておきたいと思うのは、間違いでしょうか?・・・多分間違いだな。
何か踏み外すしそうな思想を持って生きています。
結局、タオルケットをぶん取って、起こす。
「おにぃ~ちゃ~ん。優しく~起こしてよ~」
寝てる姿も起きた姿も可愛いんだよね。
「起きたところ悪いが、お風呂に入って寝なさい」
「お風呂?」
「そう、お風呂だ」
「お兄ちゃん入ったの?」
「さっき、十分前ぐらいに入った」
「ちぇっ」
それどういう意味ですか? お兄ちゃんのあとは、嫌すぎて入りたくないということですか!
お兄ちゃん泣いちゃいますよ。
「はい、さっさと入る」
無理にでも入れてあげるのがお兄ちゃんの役目だ。
「眠い~」
駄々をこねる妹は、まさしく天使である。
「お兄ちゃん、お風呂場にまで連れてって」
そう言って、俺に抱っこを要求する。前もこんな経験したのだが、妹なら何とも思わない。
「はいはい、立てますか~?」
「立てませ~ん」
「よいしょっと」
空を抱きかかえたまま風呂場に向かう。
「風呂場で寝ないようにな。俺はリビングでくつろいでおくから」
「一緒には入ってくれないの?」
「逆に聞く、どうして一緒に入るの?」
「たまには兄妹水入らず・・・ね?」
「湯船という『水』があるのに?」
「つまんない」
「悪かった。とりあえず早く入って寝ろ」
「はーい」
俺は自分の部屋から携帯を持ち出し、リビングでくつろぐことにした。
リビングで携帯を開けると、電話一件に、メール二件が来ていた。電話は、真由からで、メールは、空本さんと海お姉ちゃんからだった。
まず、空本さんからのメールを開けると、
「明日、放課後、時間ありますか? もしもあったら、お願いしたいことがあります。詳しいことは、また学校で話させてください」
すごい敬語のメール来た。
空本さん、いつも俺の「さん」付けのこと言ってくるくせに、まぁ許すけど。
「分かった。また昼ごはんか部室で」
簡素的にメールを返信して、次に、海お姉ちゃんからのメールを開ける。
「ゴールデンウィークのことなんだけど、翼君の家に、真と二人で月曜日に行こうかなと思ってるんだけど、予定大丈夫? もしもだめだったら、連絡お願いね」
月曜日は、俺もまこっちゃんも学校は休みだ。
「それでお願いします。まこっちゃんにも後で連絡してもらったら助かります」
返信して、携帯を置く。
「分かりました。真にも伝えておくね。月曜日が楽しみになってきた♪」
「それまでに、部屋は片付けておきます」
「頑張ってね♪」
ここの音符がハートに変わったとき、俺は昇天するんだろうな。
とりあえず、予定がだんだん決まりつつある。
村上君とも遊ぶつもりなので、明日会ったときにでも予定を聞いて約束しておこう。
問題は真由からの電話だな。
さっきは切ってしまったし、今回は結果的に無視している感じになったから、今から電話をして謝りたいんだけど、拗ねてたら電話にも出てくれないかもしれないし、でも、一応電話をしてみよう。
出てくれなかったら、今日は諦めよう。
真由に電話をする。
「もしもし」
ちょっと不機嫌な声だったが、ワンコールで出た。
ワンコールで出るとか、どこの会社だよ。
「真由~、さっきはごめん。風呂入ってたから電話に出られなかったんだ」
「ううん。電話してくれてありがと。それで聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
「ゴールデンウィークに誰とどこで遊ぶのか正確に教えてほしいんだけど」
途端に恐怖が襲いかかる電話だな。
「何で?」
「理由が必要?」
「必要だろうな」
「私もゴールデンウィークには翼とどこか行きたいから、予定とか聞いておきたくて」
「真由はいつが空いてるの?」
「ゴールデンウィークなら翼のために空けてるよ」
重っ。気持ちがなんか重たいよ。嬉しいけど……。
まこっちゃんと海お姉ちゃんが来るのが月曜日。
村上君と遊ぶのがいつになるかで決まりそうだな。
「うーんと、それじゃあ、明日まで待ってて」
「うん。分かった・・・待ってる……」
待ってるの言い方どうにかならねぇかな?
「そ、それじゃあな。また明日」
「ちょっと待ってよ。翼が誰と遊ぶか聞いて」
同じ相手に二度、電話を途中で切ってしまった。
「ただいま~」
玄関から母さんの声が聞こえてきた。
母さんは、そのままリビングに来た。
「おかえり~。父さんはまだ帰ってきてないよ」
「あっ、そう。翼起きてたの?」
今は、十時をちょっと過ぎたところ。
いつもは部屋でのんびりしていて、リビングにはいないので、母さんは寝ていると勘違いしてるのだ。
「あぁ、空と二人でリビングでくつろいでた」
「空は?」
「今、風呂に入ってる」
「分かったわ。晩ごはんある?」
「食べてきてないの?」
「一応、コンビニで弁当とか食べたんだけど、ちょっと小腹が空いてね」
「ご飯なら少し余ってるけど……おにぎりでも作ろうか?」
「それじゃお願い」
俺は台所で余ったごはんをある程度温めてから、おにぎりを作り始めた。
といっても、そんなに工夫することもないし、具材がないから、少し味気ないかもしれない。
一応、最後に塩でも多めにかけておくか。
「はい。出来たよ」
「ありがとね」
一応、働いてくれてるから、これぐらいのことはしておかないと……。
母さんがおにぎりを食べていると、空が来た。
「お兄ちゃん、風呂から上がったよ~。お母さんおかえり~」
「ただいま、空」
「空、明日も早いんだろ、早く寝よっか」
「うん」
「それじゃあ、母さん、おやすみ」
「お母さん、おやすみ~」
「二人とも、おやすみ」
俺たちは自分の部屋に戻っていった。




