予定
今年のゴールデンウィークは僕たち一年生にとっては、素晴らしいものになっていた。
来週の水曜から二泊三日なのだが、その最終日である金曜は祝日になり、振替休日が月曜日に持ち越される。そして、火曜日から祝日三連休になり、実質六連休になる。
二、三年は、普通に月曜日が授業なので、面倒になる。
空本さんにメールを送っています。
「待ち合わせは、土曜日に駅前で昼の一時にしようかと思ってるんだけど、大丈夫ですか?」
部活での約束の待ち合わせについてのメールを送っているのだが、ある程度時間を決めてからでないと、予定を組み立てられない。
返信待機してると、真由から電話が来た。
「もしもし」
「もしもし、翼~、ゴールデンウィーク空いてるよね? 遊びに行こっ♪」
俺が空いてる前提で話されてるのはさておいて、
「ゴールデンウィークは今、友達と約束したから、また空いてる日が分かったらメールするから」
「誰と?」
ひぇー、怖い声が聞こえてきたよ。別にあやしいことなんかしてないのに、この電話は切りたい。
「べ、別に誰とでもいい、じゃないか」
「あやしい~。まさか、私以外の女の子と遊びに行くとか考えてないよね」
ゴールデンウィークには遊ばないけど、言い当てられちゃった。探偵でも目指してるのか。
「べ、別に~」
「むぅ、誰よ、誰なのよ! 教え」
ここで電話を切ってやった。
早く予定を決めておきたい。
また村上君とも遊びたいし・・・。
「姉ちゃん、翼の家にいつ行きたい?」
「え、えーと、まだ決めてないけど……」
「一応、バイトとかの時間の関係があるから、なるべく早く決めておいてね」
「うん。考えとく」
「姉ちゃん・・・あれから翼とメールした?」
「してない……」
「本気で彼女になりたいんじゃないの!」
「だって、どんなことメールしたらいいか分からなかったんだもん」
「姉ちゃん、このままじゃ結婚どころか彼氏すら、一人も作れないよ」
「真が気にすることじゃないじゃん」
「いやいや、姉ちゃん独身で弟が先に結婚とか、笑えないから」
「真だって、結婚できるとは限らないよ」
「人の心配より、自分の心配をしなさい」
「うぅ、その言葉そっくりそのまま返してやる」
「早くメールを送りなさい」
「何、送ったらいいの?」
姉ちゃんは、半分泣き顔だった。
「大丈夫、翼はよほどのことじゃない限り怒ったりしないはずだから。普通のこと送ればいいんだよ」
「普通、普通」
姉ちゃんが、携帯と向き合う。ただ、全然手が進まない。はぁとため息をついて、姉ちゃんに喝を入れる。
「他の女の子に奪われるよ、このままじゃ……」
姉ちゃんが目を見開いていた。そんな驚くことじゃないことだ。
「ど、どういう意味?」
「翼に聞いた話なんだけど、変な部活に入らされたらしいんだけど、多分女子と二人きりらしい」
今の現状を伝えないといけない。
「それに、翼には確か同級生の幼馴染がいたはずだよ。何回かしか会ったことはないけど、確か姉ちゃんほどじゃないが、かなり可愛かったと思う」
姉ちゃんには少し厳しい現実を伝える。
「ただでさえ、姉ちゃんと翼は、会う回数が少ないのに、メールもしなかったら終わりだよ!」
「翼君が他の女の子と……」
このままでは、諦めてしまいそうな勢いだな。でも、姉ちゃんが頑張ればまだまだ可能性がある。
「分かった。お姉ちゃん頑張るからサポートしてね」
意外な答えが返ってきた。
姉ちゃんは、何かあったら諦めがちになる傾向があるが、今回は違ったようだ。
余程、翼のことが好きで諦めたくないらしい。
姉ちゃんをここまでにした、翼ってかなりすごい奴だったんだな。
そして、姉ちゃんの手が動き出す。
「うーん。翼が浮気しそうだ~」
電話を突然切られた私は、翼が心配になった。
他の女の子と遊びに・・・デートの可能性がある。特にゴールデンウィークはカップルにとって、天国なのだから必然的にデートになってしまう。
まだ彼女にすらなれてない私は、嫉妬をする。
ふと、机の上の写真を見る。
翼と写った修学旅行の時の写真がそこにある。
写真販売のときに、同じのを二枚買っておいた。一つは飾るためで、もう一つは保存するため。
そして、翼が単体で写っているのも買った。
写真とキスすることもしばしば。
私ほど翼のことを好きな女の子はいないと自負できるほど、私は翼のことが大好きだ。
彼氏がいたことは、消したい過去になっていた。
もう一度、翼に電話したくなった。
でも、一時間後ぐらいにしよう。絶対に嫌われたくないからね。
「風花、晩ごはんよ。いつものところでね」
メールをしていた私は、お母さんに呼ばれていた。いつものところというのは、普段の晩ごはんで使うリビングである。別のところの場合、お母さんと一緒に、そこまで付いていく。
リビングにいくと、お父さんが既に待っていた。
「お父さん、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま、風花」
威厳のある父の声がリビングに響き渡る。
晩ごはんが出されて、お母さんとお父さんと私の三人で、食卓を囲んでいる。
「あの、お父さん」
「これは、珍しいな。風花から話をするなんて」
「今度の土曜日、男の子の友達と買い物に行くのですが、いいでしょうか?」
普段は休日は家にしかいない私からは、想像できないようなことだったのかもしれない。
「風花が遊びに行くか……許可なんかいらない。友達と買い物に行くことは大切なことだ。行ってきなさい」
「ありがとうございます」
「そんな礼を言う必要はない・・・ただ、少しその男の子の友達とやらに会ってみたいと思っている」
「確かにそうね、風花が男の子と仲良くするなんてね」
「確か今週の土曜日と言ったね、それまでにここに連れてきてはくれないか。これでも、風花のことは心配しているもので、変な男だったら、反対しないといけないからな。大事な娘を守るためだ」
「分かりました。明日予定が無いか聞いてきます」
「では、今週はできるだけ早く帰るとしようか」
水本君に相談しないといけなくなった。
また、このことをメールして、返信を待とう。




