お嬢様は寄り道をしません
昼休みが終わり、学校の後半は数学から始まり、眠いときにこの理系の教科をするとか、ここの高校教育方針はもうちょっと考えるべきだ。
そんなことを毎日考えていると、暇な時間も何だか楽しくなるかもしれない。
そういえば、今日はまこっちゃん来なかったな。
また、どっかで会えるだろう。
「じゃあ、この問題は・・・水本! 解いてみろ」
「は・・・はい」
あー、やばい。ほとんど話なんか聞いていない。
どうしよう? まぁ、全く分からないというわけではないから、多分大丈夫だろう。
「えーと」
数学の式の展開の問題だった。
頭のなかで、すぐに計算を始める。
「Xの二乗プラス・・・」
言いながら、答えを導き出す。
「5Xマイナス6です」
「正解だ。ここは、こうして・・・」
先生の解説が始まる。ふぅと一つため息が漏れる。
ノートを見ると、軽い落書きがあった。
どんだけ集中力無いんだよ俺。
それからの、俺の集中力は多分すごいものだった。
言葉では伝わらないが、多分すごい。
六時限は家庭科だった。
中学校の家庭科の授業は、班で、料理をたまに作ったり、裁縫でミシンを使って・・・うん、それぐらいしか記憶がないな。
今日は教科書を使って、家事のことを学んでいたのだが、料理は空のために作るのが多かった。
洗濯は基本的に、平日は母さんが朝にしていたりするが、土日とかは、俺が何回もしたことはあるので、大体の家事は、出来る自信はある。
教科書を見るより実践の方がよほど役に立つ。
というわけで、自宅学習つまり自習をすればいい。
そんな願いが通じることなく授業が終わる。
そして、放課後になる。
部室にいくことで何か変化が起きてほしい。
毎回俺が部室の鍵を取りに行き、部室を開ける。
もちろん誰もいない。あと、少しすれば、もう一人来る。
「水本君、早いね」
そう言い、部室に入ってくるのが、空本さんだ。
「俺の班は、今週掃除当番じゃないからな」
掃除当番は、二週間で交代していく。俺の班は来週から放課後に掃除させられる。だから、今度から空本さんが、部室の鍵を取りに行き、開けることになる。
「今日も相談しに誰か来るかな?」
「さすがに来ないだろ」
二日連続恋愛相談なんか、やりたくない。
まぁ、事後報告なら来るかもしれないけど。昨日の今日だから来ることはないはずだ。
「早く帰りたいなぁ」
「そんなに二人でいることが嫌なのー?」
軽く呟いた程度のことだが、空本さんには聞き捨てならないようなことだったらしい。
「そういう意味じゃないよ。ただ、今日は妹のために早く家に帰って、晩ごはん作りたいから言っただけ」
「晩ごはん、自分で作るの?」
「親が共働きで、俺が中学生のときから、少しずつだけど、作ってるんだよ。でも、最近部活で、遅く帰ることが多くなって、自然と冷凍食品とかコンビニの弁当とかになってるから、なるべくなら作ってあげたいと思ってる」
「水本君って、やっぱりいい人なんだね」
「やっぱりって・・・」
「入学説明会のときから優しかったから」
「人助けの精神が生まれつきすごいんだろうな」
フフッと空本さんが笑ってくれる。
多分空なら、なにその返し全然面白くないとか言われて、泣かされてるかもしれない。
「ねぇねぇ、数学のとき寝てた?」
「寝てはないけど、前半は集中力が無かったかな」
「やっぱり、当てられたとき慌ててたもん」
俺そんなに慌ててたっけ? 人が見ればそう写っていたのかもしれないな。注意しておこう。
「これからは真面目にするよ」
「委員長なんだから、しっかりね」
「でも、中間試験は多分負けないと思う」
「私も負けるつもりはないよ」
空本さんは、何でこんな闘志が溢れてるのでしょうか? 何も賭けては無いんだよ。
「その前に、校外活動だからしんどいな」
そして、空本さんが、そういえばと一言おいて、
「ゴールデンウィークに予定とか空いてる?」
「ゴールデンウィーク? 一応友達が家に来る予定があるけど・・・どうして?」
「もし、よかったら遊びにでも行けたらなぁと思って」
男が男なら、多分この女子俺のこと好きなんじゃね? とか勘違いさせちゃうから、これからは気を付けようね~空本さん。
「いいけど、それって二人きり?」
「そうだけど……」
もしかして、空本さんって天然の人なのかな?
普通に男女が二人きりで遊びに行くって、周りから見れば、デートしてるって思われるって知らないのかな?
「さすがに二人きりって、ダメなんじゃない?」
ゴールデンウィークに遊びに行くと、危険性が少なからずある。
同じクラスの人と遭遇することがその最たるものだ。後で、軽く事情聴取とかいって、連れ出されるに決まってる。漫画とかでよくありそうなこと。
「でも、幼馴染の女の子とは行くんじゃないの?」
「それは・・・」
言葉が出てこない。実際行ってるからな。
「私なんかじゃ、ダメなんだ……」
「ダメじゃない、ダメじゃない」
「私なんか友達とすら思われてないんだ……」
とんでもない地雷を踏んだ気がします。これは、早急に対応を求められていますね。
「会ってまだ数週間だから、今は互いをゆっくり知ることが大事というかなんというか・・・そうだ、今日帰りにどっか行かない?」
「ごめんなさい。校門に車を待たせてるから、今日は無理かも」
「・・・」
「・・・」
あー、取り返しがつかない事態を招いたなぁ。
こういうときに、人が来ればいいなぁ。
モヤモヤしてるこの空気を打破しないと。
「あー、土曜日空いてる?」
「どうしたの? 急に」
「え、えーと、校外活動で必要になりそうなものでも買いにいこうかなと思ってて、ほら、俺たちクラス委員だから、もし忘れた人がいたときのための分も買っておこうかと・・・どう?」
「そうだね、あくまで『クラス委員』としてね……」
もう、根に持たないで~。
「待ち合わせはどうする?」
「その前にどこで買いにいくの?」
「ホームセンターにでも行こうかなって」
「それじゃあ、駅前でいいのかな?」
「また時間は、あとで連絡するから」
何とか約束はこじつけた。今日は帰ろう。
こんな状態では、なかなか居心地が悪くてしょうがない。
「それじゃあ、今日は帰るから。じゃっ」
「あっ、待って」
「部室の鍵は頼んだ」
俺は、急いで部室から逃げてきた。
空本さんには悪いが、なるべく今日は晩ごはんを作りたいという欲求に駆られてるから。
夕方の五時半に家の近くのスーパーに着いた。
何を晩ごはんにしようか悩んでいた。
最近は、野菜が足りてないようだったから、簡単に野菜炒めでいいと思うが、それだけでは物足りない。ご飯は帰ってから炊けばいいし・・・唐揚げでも買って帰ろう。
家に帰ったが、空はまだ部活でいなかった。
とりあえず米を洗って、炊飯器でしかけておく。
七時前には、炊き上がるので、空を待っておく。
そのとき、携帯を見ると、母さんが今日は帰りが遅いという連絡があった。まぁ、いつものことだ。
買ってきたものを冷蔵庫に入れておき、リビングのソファーに座る。テレビを点いていないので、静かである。テレビを点け、ニュース番組を見る。
それから、三十分ぐらい経った頃だろうか。
「ただいま~」
やっと空が帰ってきたようだ。準備しないと。
「おかえり~」
空が制服姿で、リビングに入ってくる。
「母さんは、今日は遅いから晩飯は二人だからな」
「うん。分かった。部屋で着替えてくる」
カバンはリビングに置きっぱなしで、部屋に行く。
ご飯は炊けるまで後十分程度。
今からおかずを作れば、いい頃合いだろ。
冷蔵庫から野菜を取り、食べやすい大きさに切っていく。そして、フライパンで炒めていく。
料理系男子もとい専業主夫になれる素質はある。
それと同時ぐらいで炊飯器が音を出す。
すると、空が降りてきて、
「今日は、お兄ちゃんが作ってくれてるんだぁ♪」
「空~、箸とかお茶碗は自分で出してね」
「はーい」
空は、炊飯器から炊きたてのご飯をお茶碗によそう。
野菜炒めを中くらいの皿にのせて、唐揚げを別の皿に移しかえ、電子レンジで温める。
「はい、野菜炒め。唐揚げは後少しだけ待って」
俺もご飯をお茶碗によそい、自分の位置に置く。
電子レンジがチンと音をたて、唐揚げを取り出す。それをテーブルに持っていき、空と一緒に、
「「いただきます」」
二人きりで晩ごはんを食べる。
家族でごはんを食べることは、ここ最近は少ない。理由は、言うまでもなく両親の仕事の関係だ。
それでも、仕事の休みの日には、遊んでもらっていたり、夏休みとかには旅行にも行っていたから、別に不満などあるはずもない。
家族のために頑張ってくれてる両親のためにも、空の世話は俺がしておくのが家族としての務めだろう。
「お兄ちゃんが作ったごはんおいしい♪」
「そりゃ、ありがとう」
「私も頑張って料理できるようにならないと」
「まぁ、のびのび頑張りなさい」
晩ごはんが終わると、洗い物をして、風呂を洗ってから、沸かしておく。
空は、また、ソファーでテレビを眺めている。




