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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
32/112

一件目

「失礼します」

 遂に人が来てしまった。このまま三年間過ぎればよかったとか思ってます。

 入ってきたのは、多分上級生だと思われる。

 スリッパの色が一年とは違ったからだ。

「えーと、とりあえずそこの席に座ってください」

 その女子の先輩は、そそくさと座っていった。

 見た目は、黒髪で、顔は普通という感じだった。

 座ってもらったのはいいけど、ここからどうしよう? 名前とか学年とかちゃんと聞かないといけないのかな? 何事も踏み出すことが大事だ。

「では、学年クラス名前を言ってもらっていいですか?」

 超面接になってるよ、推薦入試かよ。


「はい、二年F組 館川(たてかわ)美樹(みき)です」


やっぱり上級生でした。三年じゃなくてよかった。

三年だったらお茶とか出さないといけないだろ。

とりあえず、名前をメモしておき、

「え、えーと、それじゃあ、恋愛相談したいことを言ってもらえますか?」

「は、はい……」

 館川さんは、少し言葉が詰まる。

 それが普通だと俺は思う。自分の心の内を喋ろうとしているもんだからな。しかも、ほとんど知らない相手にだから尚更(なおさら)だな。

 ここで、俺たちが出来ることはただ待つことだ。

 空本(そらもと)さんはここまで何一つしてないのは見過ごそう。

 それから、しばらく時間がたった。

 そして、やっと相談内容が始まる。

「えーと、その・・・一年生のとき同じクラスだった人のことを好きになったの……それで、二年生になってその人と違うクラスになって」

「まぁ、よくあることかもな」

「うん」

「クラスが変わって、時間が経ったら忘れられるかもしれないじゃない。それだったら変わった直後の今なら、告白とかしてもいいのかなって思うんだけど、どうしたらいい?」

 要約すると、一年のとき、同じクラスだった人を好きになって、そいつが他のクラスになって、どうすればいいのか分からないということかな?

「告白すればいいんじゃないのか?」

 一番単純かつ手っ取り早い解決法を提案する。

「うーん」

彼女が悩むのも無理はない。フラれたくないから。

断られたくないから。悩んでしまう。

「空本はどう思う?」

「えっ!」

 ムチャぶりになってるのだが、恋愛相談ごとで、女子に聞くのは至極当たり前のことだ。

「えーと、その、何で好きになったんですか?」

 知らない間に好きになってたんだよ。

 こんなこと言えるような大人になりたいな。

「それは・・・」

「別に言いたくないなら言わなくてもいいぞ」

 相手を好きになる基準は顔かもしれないからな。

あまり、踏み込みすぎないようにするのが難しい。今の質問は、多分踏み込みすぎたはずだ。

 結局理由を言うことは無かった。

 つまり、顔で選んだのだろう。顔がいいということは、それなりにモテるということであり、彼女がいる可能性も高いかもしれない。

「メールアドレスとかは交換したんですか?」

「それは、まだできてないけど……」

 よくそれで、告白までいこうとしたな。

 耳を疑いたくなるような恋愛相談だな。

「それで、告白しようとしたのなら、まだ早いとしかいいようがないですね」

「でも、今、告白しとかないと後悔しそうなの」

 やらない後悔よりもやって後悔か。こういう言葉の乱用はあまりよくないと思うんだよな。

「じゃあ、とっとと告白した方がいいですよ」

「それを悩んでるの!」

 理不尽だな。空本さんも黙ったままだ。

「じゃあ、仮に告白するとして、どうやってするつもりなんですか?」

「普通に・・・好きです、付き合ってくださいって告白するつもりだけど」

「とりあえず、メールアドレスの交換をしといた方がいいと思います」

 メールアドレスの交換が最初だな。

「あ、あの」

 空本さんが、なにか言いたそうにしていた。

「何か意見があるの?」

「そのー、会話とかはしたことあるんですか?」

 なるほど、会話の有無を聞くのか。予想だとそんなにないと考えている。

「えーと、掃除のとき同じ班だったから、そのときに何度か話したことはあるよ」

数えられる程度の会話しかしてないのなら、多分、今告白したところで、フラれるのがオチだろう。

 でも、当人がそれでいいのなら、それでいいのかもしれないけれど、相談されたこっちのことも考えてほしい。

 俺は、ここで強気に質問する。

「どうして、告白に躊躇(ためら)っているのか言いましょうか?」

「えっ?」

「フラれたくないから。それだけなんでしょ」

「・・・」

 図星なんだよな。当たり前なんだけど。

 これは初めて告白しようとするにとって誰もが通る道だ。

「俺も中学校のとき告白したことあるけど、やっぱり告白するときは、フラれるのがどんだけ嫌だったかはよく分かるから。でも、一回告白したらもうどうでもよくなるから大丈夫ですよ」

 俺は、真由(まゆ)に告白してフラれてしまった。

 でも、心のどこかでフラれることは無いだろうとか思っていたのだ。あのときの俺は本当に子供だ。

 だからこそ、この経験は結構貴重だとも思っている。告白なんて普通は出来ないから。

「好きなら告白、それが嫌ならメールアドレスの交換から友達になることが妥当なものだと俺は考えてます」

「そう……」

「あくまでも、これは俺の考えだから、空本にも一応聞いておいた方がいいですよ」

 俺の役目は、終わったかな? 後は、空本さんに任せて帰りたいな。

「私は……」

空本さんは、答えが導き出せていなかった。あくまで、何らかの解決策を考えているのかもしれない。

 でも、よくよく考えたら俺たちは、相談に乗るというだけで、手助けをする必要はない。

 ただ、相手に提案をして、これはどうかな? あれはどうかな? そうして、相手に委ねる。

「すみません。喉渇いてませんか? 飲み物買ってきますね」

 俺は席を立ち、部室を出ていった。

 財布を持って、食堂まで飲み物を買いにいく。

 初めての恋愛相談に乗ったが、正直よく分からない。これが将来的に役に立つとすら思わない。

 人の恋愛事に軽く口を挟んで、もしかしたら、その人の青春とやらの邪魔をしているかもしれない。

 だから、彼女が決めてしまえばいい。

 自動販売機の前で、何を買うか迷ってしまう。

「女子って何飲むんだろ?」

 お茶でいっか。温かいお茶のペットボトルのボタンを押した。これから段々暖かくなるのだが、今はまだ少しだけ寒く、お茶が見に染みる。

ペットボトル三本を持って、部室まで帰っていく。

三階までの階段はしんどいものだ。


「戻りました」

 二人は特に変わった様子もなく、静かだった。

「お茶ですが、どうぞ」

「ありがとうございます」

水本(みずもと)君、ありがとう」

 俺は自分の席に座って、

「結論は決まりましたか?」

「とりあえず、あなたの言った通りメールアドレスの交換から始めることにする」

「頑張ってください」

「ありがとう」

 彼女は立ち上がり、部室に出ていこうとした。

 最後に一礼だけして、帰っていった。


「これでいいのかな?」

「こんなもんだろ」

 再び二人きりになって、会話が始まる。

「やっぱり、恋愛相談なんか聞くべきじゃないな」

「私は少し面白かったよ」

「滑稽だなとかそういう意味?」

「違うよ。何か青春してる感じだったなぁって」

「ああいうのに憧れているの?」

「そういう訳じゃないんだけど」

 やっぱり人の気持ちは分かる気がしない。

「そういえば、俺がいない間に何か話とかした?」

「うーん。特にこれといったことはしてないよ」

「これから、恋愛相談が始まるんだな」

「そうだね。私は今日水本君に頼りっぱなしで一つも役に立たなかったから今度こそ頑張るね」

「別に頑張る必要はないけどな」

「どうして?」

「思ったことをオブラートに包んで言えば、相手にも分かってもらえるはずだから」

 どうしようもないときは、本音をペラペラ喋るつもりなんだけどな。

「これからよろしくね」

「こちらこそ」

 記念すべき一件目は、告白すべきかしないべきかという問題ではあったが、次からはもっと楽な相談が来てほしい。

 例えば、好きな人の隣の席に座る方法とか。

 好きな人に出来るさりげない優しさとか。

 こんな相談なら楽しく元気に考えられる。

「今日は部活終了だな」

「そうだね」

俺たちは、窓を閉めてカバンを持ち、部室を出る。

「ねぇ、あの相談の正解ってあるかな?」

「・・・無いだろうな」

 正解とかそういうものはないはずだ。

「全部、その人次第だからな」

 その人が正解だったと思うことができるものを正解にするべきだ。


「お茶、ありがとね」

「気にしなくていいから」


 部室の鍵を閉め、職員室に歩いていった。

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