お姉ちゃん
昼過ぎ。正確に言うと、二時の少し前。
親友のまこっちゃんを待っていた。
今日は、まこっちゃんの家にいくことになった。
しかし、まこっちゃんの家を知らないため、待ち合わせて行くことになった。
時計を見ると二時になった。全然来る気配がない。
それから、十分ぐらいしてから、まこっちゃんがやって来た。
「ごめん、ごめん」
大事なことなので二回言いましたとはこれか。
「これからは、少し早く来てくれ」
「了解、了解」
大事なことなの・・・以下略。
「こっからだと近いのか?」
「まぁまぁ近いはずだよ」
「ふぅーん」
俺とまこっちゃんは、歩き始める。
「今日は、海お姉ちゃんいるの?」
「姉ちゃんなら家にいるよ。会いたかったの?」
「会いたいとは思ってたけど……」
「姉ちゃん絶対に喜ぶなぁ」
「そんなにかな?」
海お姉ちゃんは、まこっちゃんのお姉さんだ。
「お姉ちゃんって言うんだね」
「何が?」
「今は、俺は『姉ちゃん』って言うけど、翼は『海お姉ちゃん』って呼んだから」
「さすがに、友達のお姉さんを『姉ちゃん』とは呼ばないだろ」
「それだったら、お姉さんって呼べば?」
「うーん、でも、海お姉ちゃんって呼びたいな」
海お姉ちゃんは、海お姉ちゃんだからな。
それから、十分程度歩くと、マンションに着いた。
どうやらここのマンションが、まこっちゃんの住んでる所らしい。
エレベーターに乗って、三階に上がる。
そして、まこっちゃんの家の前に、到着する。
「なかで、姉ちゃん待ってるから」
「分かった」
まこっちゃんが、鍵を出して開ける。
そこにいたのは、
「つ、つ、翼君。ひ、ひ、久し、久しぶりだね」
ものすごく緊張していたのかカミカミだった海お姉ちゃんがそこにいた。
「海お姉ちゃん、久しぶりだね」
「う、海お姉ちゃんって呼ばれた。ヘヘッ♪」
海お姉ちゃんは、とてつもなく美人だった。
多分、真由よりも可愛い。特に笑顔が。
「海お姉ちゃんって、大学生だっけ?」
「えっ? そ、そうだよ。どうかな?」
服の感想求められている感じがする。
「何か大人っぽくなった感じかな」
「あ、ありがとうね」
「ど、どういたしまして」
玄関を上がって、まこっちゃんの部屋に通される。
「後で、お茶持ってくるね」
「分かった」
海お姉ちゃんが、飲み物を用意しに行った。テーブルのところのクッションに座り、待った。
座るとすぐに、まこっちゃんが、
「姉ちゃんどうだった?」
「どうって?」
「どんな感じだった?」
「凄い美人さんになってたかな」
「じゃあ、彼女にしたいの?」
「いやー、俺なんかじゃ釣り合わないから」
「でも、付き合いたいとは思うの?」
「そりゃあ、付き合えるなら・・・ね?」
「なるほど」
何を納得したのかあまりわからない。
「お茶入れてきたよ」
海お姉ちゃんが、お茶を持ってきてくれた。
さっきの会話聞かれてないだろうなぁ……何か不安だ。
「姉ちゃんも一緒に話しようよ」
「えっ?」
「久しぶりに翼と会ったんだから、話とかあるでしょ?」
「うん……」
「はいはい、座って」
無理矢理俺の隣に座らされる海お姉ちゃんだった。
「翼君は、彼女とかいるの?」
久しぶりに会って、最初の質問が彼女の有無とか、海お姉ちゃんちょっと変わったのかな?
「いや、いないけどどうして?」
「いや、なんとなく……」
まこっちゃんを見ると、ニヤニヤしていた。
「じゃあ、俺、ちょっとトイレに行ってくるから、二人仲良く」
「「えっ?」」
そう言い放ち、まこっちゃんが部屋を出ていった。
部屋で二人きりになってしまう。しかも、隣に美人のお姉ちゃんが座っている。
「あ、あの……良かったらメールアドレスの交換してもいい?」
「え、えーと……そうだね。交換しよう」
こうしてメールアドレスを交換した。
「ねぇねぇ、女の子に告白とかしたことあるの?」
「えーと、一回あるよ」
「そっか……そうなんだ」
ちょっと空気が悪くなったようだ。
「海お姉ちゃんは、その、彼氏とかいるの?」
「えっ、そんなのいないよ」
「何で?」
「何でってそんなの言えないもん」
「海お姉ちゃん、美人だから告白とかされたり、彼氏がいてもおかしくなかったから」
「私、彼氏とかそれ以前に、告白とかされたことないよ」
「嘘だ~」
「本当だもん!」
海お姉ちゃんの可愛さは桁違いだもん。告白されたことないとか、ありえないよ。
「ねぇ、あの事覚えてる?」
「あの事って?」
海お姉ちゃんが、思い出話をし始めた。何かしみじみとしてきたので、少しお茶を飲む。
「一緒の布団で寝たことだよ」
ブッ! 思わずお茶を吹き出した。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど」
海お姉ちゃんに、ティッシュで口もとを拭かれる。妹がいるが、お姉ちゃんがいないので、こういう経験が気持ちいい。お姉ちゃんが目の前にいる。
「私は、あの日よりドキドキしたことはないよ」
「そうだったの?」
一緒の布団で寝たというのは、小学校五年生のときに、まこっちゃんの家に泊まったら、突然、海お姉ちゃんに「一緒に寝てほしい」と言われ、部屋の布団で二人きりで寝たことだ。
そのときに、海お姉ちゃんが後ろからギュッと俺を抱きしめながら一晩を過ごした。
「海お姉ちゃんは、何でギュッとしてきたの?」
「そ、そそそ、それは別に理由なんかないよ」
「また、泊まりに来てもいいかな?」
「もちろん♪」
「もう一回、海お姉ちゃんと一緒に寝たいけどね♪」
ちょっとからかう感じに言ってみたのだが、
「いいい、一緒に、ね、寝たいって、ええぇ?」
顔を真っ赤にして、慌てていた。超絶可愛い。
「それにしても、まこっちゃん遅いね」
「えっ? そ、そうだね、遅いね」
そんなことを喋ると必ず戻ってくるフラグ。
「ふぅー」
「トイレ遅かったな」
「ちょっとね。それよりちゃんと二人で話した?」
「うん。メールアドレスも交換したから」
「姉ちゃん良かったね~」
「真!!」
海お姉ちゃんは、ちょっと怒っちゃった。
「姉ちゃん、そろそろバイトの時間じゃないの?」
「今日は、夜からだからまだ大丈夫だよ」
「何のバイトしてるの?」
「家の近くのレンタルビデオ店だよ」
「翼は、学校の帰りに会えるかもね」
「まこっちゃんは、何のバイトなの?」
「本屋でバイトだけど」
「本屋のバイトって女性が多くなかったっけ?」
「一応、克服しようと頑張っている最中だよ」
まこっちゃんも自力で何とか頑張ろうとしてるんだな。見習わないと。
「翼も俺と同じ『結婚不適合者』なんだよ」
「えっ? 翼君も『結婚不適合者』なの?」
「あー、そうなんですよ」
「何が原因なの?」
「色々あって、女性が苦手というか信用できないとかそんな感じになっちゃって……認定されたんです」
「じゃあ、姉ちゃんと頑張って直さないとな♪」
「どういう意味?」
「姉ちゃんは、男が苦手だから翼と一緒にいれば、なんとなく克服するんじゃないかな?」
よく分からない提案が出てきた。
「ちょっ、ちょっと真!!」
「二人が付き合えば、互いが異性を克服するはずだよ」
「真、こっちに来なさい」
まこっちゃんと海お姉ちゃんが出ていった。
部屋の外で、
「余計なことをしないで!!」
「姉ちゃんのことを思っての提案だよ」
姉弟喧嘩になってしまった。
俺は、しばらく携帯を見て、帰ってくるのを待った。
それから、二人が入ってきたのだが、海お姉ちゃんがごめんねと言ってきたので、全然大丈夫ですよと返した。
しばらく身内話をして、夕方の五時を回った頃、俺は家に帰ることにした。
「それじゃあ、失礼します」
「また今度は姉ちゃんと翼の家に行くから」
「翼君、また来てね♪」
「はい、ありがとうございました」
「真、ちょっと話があるからリビングにね」
「はぁ……」
今日は、調子に乗って、色々言い過ぎた。後で怒られるとは思っていたが、ここまで怒っているとは考えなかった。
「私は翼君のことが好きだけど、異性の克服のためとかそういう目的で付き合うとか絶対に嫌だから」
「はい」
「翼君が私のことを好きになってくれて、告白とかしてから初めてそこで付き合いたいの。分かる?」
「はい」
「もう二度とこういうことはしないこと、いい?」
「もう二度としません」
「はぁ、それにしても翼君、結構カッコいいね」
姉ちゃんのこの一言で、台無しになったな。
「それで、これからはどうするの?」
「どうするのって?」
「デートとかしないといけないよ」
「デート?」
「翼だって男子高校生なんだから、いつ誰を好きになってもおかしくないんだから」
「それは、そうだけど……」
「姉ちゃん、翼のこと好きなんでしょ! だったらどんどん攻めていかないと」
「うん。頑張る♪」
「じゃあ、毎日メールとかしとかないといけないよ」
姉ちゃんを応援するのは大変になりそうだな。




