妹は優しかった
土下座をした俺は、妹とまた寝る。
一応、許してはもらえたのだが、ちょっと距離ができた。俺すごく落ちそうなんだけど。
いっそのこと、床で寝た方がいいんじゃないのか?
でも、抱きしめるのから手を握るのに変わっているので、床には寝れない。
翌朝。目が覚める。八時。
結局、向かい合って寝ていました。
いつもなら、学校に行ってる空であるが、今日は休みなので、ぐっすり寝ている。
「空~、起きなさい」
あくまで、夜中のことは無かったことにしたい。
「むぅ、お兄ちゃん、おはよ~」
妹も起きて、一緒に朝ごはんを食べる。
「お兄ちゃん、夜中」
「いやー、朝ごはんはおいしいですねー」
妹の言葉を遮った。さすがに、母さんの前ではあの事は秘密にしておきたい。
「何時ぐらいに行くの?」
「本屋は、大体十時から開くから十時に出ればいいんじゃないかな」
「分かった。それまでに準備しとく」
空は食べ終わると、自分の部屋に戻った。
「今日どっか出掛けるの?」
「空と本屋巡りに出掛ける」
最小限の言葉で伝えていく。
「じゃあ、昼ごはんはどっかで食べるのね。それじゃ、お金」
母さんは財布から、一万円を渡してくれた。
「ありがとう」
俺も準備しなきゃ。部屋戻ろ。
さて、何の服着ていこうかな?
家族とはいえ、ダサい服で出掛けるというのはあってはならない。空の知り合いに出会ったときに、ダサいとか思われたら、空が可哀想だ。
なるべくオシャレな服にしてみよう。
服のバリエーションがそんなにないんだよな。
ここで、俺のセンスが問われる。
いかに、よく見せられるか頑張ろう。
吟味に吟味を重ね、着ていく服を選んだ。
財布に母さんから貰った一万円とお年玉から一万円を出し、そこに入れる。空を呼ぼう。
「空、準備できたか?」
「あと、ちょっとだけ待って」
これを待てるかどうかで、男としての良し悪しがわかる。最近では、空の私服姿はあまり見ていないので、楽しみだ。
十分後。
空が出てきた。
膝丈より少し長いスカートを着ていて、女の子という感じの服だった。
「似合ってるね」
もちろん、お世辞ではない。可愛いもん。
「ありがと」
「それじゃ、いってきまーす」
家から出て、歩き始める。
本屋巡りなんて、文字通り本屋をただ巡るだけだ。
まずは、一番近くの本屋まで歩く。
「お兄ちゃん、手でも繋ぐ?」
「空がいいんだったら」
「それじゃあ」
手を繋ぐ。夜中も繋いで、朝も繋ぐ。
どんだけ俺は妹と仲がいいんだろうか?
一番近くの本屋まで約十分。
休日ではあるが、朝の本屋は空いている。
本屋に入ってみると、予想通り空いていた。
まずは、漫画の新刊チェック。
それをしてから、本屋の中を回っていく。
空は、少女漫画の方にいった。
週刊の少年誌や月刊の少年誌を立ち読みしていく。
基本的にそれらを買わずに、単行本を買っているのだが、なるべく先を読みたいのである。
自分が買っている単行本の漫画を大体読んで、そこのコーナーを後にする。
次に向かうのは、ラノベのコーナーに行く。
ここで、することは新刊チェック。
そして、気になるものを一巻から読んでいく。
買うかどうかは次の本屋で決めることにしている。
「お兄ちゃん、これほしい」
「うん?」
空が持ってきたのは、少女漫画だった。
そういえば、少女漫画って読んだことないな。また貸してもらおう。
「他に買うものとかない?」
「まだ、一軒目だから全部は買わないよ」
「そっか。じゃあ、お会計してくる」
レジに向かい、会計を済ませて本屋を出る。
二軒目の本屋に向かってまた歩く。
「こっから、少し歩くけど頑張ってね」
「うん。分かった」
多くの人間は、これの何が楽しいのか理解不能だろう。ちなみに、俺もよく分かってない。
だが、俺はこれをやり続けていた。
本屋は色々ある。
全国に展開している店。県内のみに展開している店。隠れ家みたいにあるような店。
このように、本屋とはなかなか面白いと思う。
もっと注目しているのは、中のコーナーの配置。
入る店入る店で、配置は似ているようで少し違う。
自分だったら、こんな配置にしてみたいなとか考えていたりして楽しんでいる。
本屋を探すとき、絶対にネットで検索しないようにしている。理由は、自力で見つけたいという単純な理由だが、見つけたときの喜びはなかなか味わえないものである。
だから、休みの日に自転車で走り回っていた。
「お兄ちゃんは何か欲しいものあったの?」
「まだ、少し考えてから買うつもり」
多分、空にとってこの本屋巡りはそんなに楽しくはないと思う。ゲームセンターとか遊園地とかならもっと楽しませてあげられたかもしれない。
「空って他に行きたいところとかあった?」
「どうして?」
「いや、自分で提案して言うのも何だけど、これ結構つまらないと思うよ」
「別にそんなことはないけどね。まぁ、強いていうなら映画とか行ってみたかったかな」
「今回はごめんな。次は、映画見に行こうな」
「うん♪」
やっぱり、人の心とかあんまり読めないな。
一応、今回はがっかりはしているとは思う。
歩き続けて二十分。
次の本屋に到着。
二軒目は少し大きめの本屋で、多分全国展開している。
新刊チェック。
少年誌でさっき見ていない部分を今度は読む。
そして、ラノベのコーナーに行き、立ち読む。
さっきチェックしていたものをもう一回読み、買うかどうか判断する。
買うことにした。とりあえず二巻まで。
さっきの店より本の数が多いので、もう少し見る。
「あっ、これアニメ化した作品だ」
本屋では、独り言を喋るのも癖になってる。
「アニメ見てから、買うかどうか決めよっと」
とりあえず、二冊を手に持ち、空を探す。
大きめの本屋だと、少しだけはぐれることがある。
小さい頃、母さんと本屋にいったとき、あっちこっちに進んでいき、気が付けばはぐれてしまった。
探しても探しても見つからなくて、泣きそうになった。
結局、母さんは女性誌のコーナーにいた。
ちょっとは探してくれやとか今になって思う。
でも、さっき少女漫画のコーナーにいたからそこを探そう。
しかし、空はそこのコーナーにはいなかった。
「どこだろう?」
辺りを回ってみる。女性誌とかのコーナーに行ってみよう。
空は、女性のファッション誌のところにいた。
やっぱり、女子ってそういうの気にするんだね。
前に真由と本屋にいったときも、真由は、ファッション誌を見ていた。
「空~」
「あっ、お兄ちゃん、買うもの見つかった?」
「あったけど、空は?」
「このファッション誌買おうかな」
「それじゃあ、会計してくる」
会計を済ませ、本屋を出る。
昼ごはんどうしようかな?
次の三軒目はデパートの中にあるので、その時に食べに行こうかな。
「空、ちょっと昼ごはん早くなるけどいい?」
「大丈夫だよ」
確認を終えて、デパートの中に入っていく。
エレベーターで、本屋の階まで上がる。
ここの本屋も、全国展開の店である。
ラノベは今回はやめて、普通の小説を探そう。
こういうのは、人気の作品から読むべきだな。
ポップで人気と書かれてある作品を手に取る。
最初のページを読んで、これなら読めそうとか考えて買うと、読まずに放置してしまうことがある。
俺がその典型的なタイプだ。
だから、買うときは慎重に買うつもりだ。
「うーん。どうしようかな?」
「お兄ちゃん、この小説買うの?」
「悩んでる」
「私、この小説読みたいなぁ」
「んじゃ、買うか」
会計に進む。
会計を済ませて、昼ごはんの店を探す。
「昼ごはん何食べたい?」
「うーん。何でもいいよ」
「そば屋でいいか?」
近くで目にはいったそば屋を指差した。
「うん。そこでいいよ」
そば屋に入り、昼ごはんを済ませる。
「さて、どうする?」
俺はいいのだが、空がもしかしたら楽しんでないかもしれない。それなら、このへんで終わらせた方がいいと思う。
「帰るの?」
「空、楽しかったか?」
「楽しかったけど、ずっと同じだったから、新鮮味とかがなかったかな」
意外と毒舌。そりゃそうか。
これ以上本屋を巡っても、新鮮味がないみたいだし、帰ることにしよう。
「帰るか」
「うん……」
「次は、絶対に楽しませるから」
「うん。期待してる♪」
妹は優しいものでした。
「翼~」
「えっ?」
突然俺の名前が呼ばれた。
呼んだ方向を見ていると、真由ともう一人、多分荒井さんの姿があった。
「翼、こんなところで何してるの?」
「空と本屋巡りしてたけど、今から帰る」
「空ちゃん、久しぶり~」
真由が空に話しかけた。
「真由さん。お久しぶりです」
「真由たちは、何してるの?」
「静と買い物だよ」
荒井さんと空は多分、初対面だな。
「そっか、それじゃあまたな」
「うん。またね」
真由たちと別れを告げて、デパートを出た。
「お兄ちゃんは、優しいね」
「どうして?」
「お兄ちゃん、真由さんに振られたんでしょ」
傷口を開かないで。
「でも、ちゃんと今でも仲良くしてる」
「色々あったからな」
「私だったら、会いたくもないけどな」
空は、少し怒っているような感じであった。
「お兄ちゃんにはいい人が見つかるよ」
「あ、ありがとう」
妹に言われてちょっと嬉しい。
そして、俺たちはまた手を繋いで帰っていった。
同日同時刻。
「姉ちゃん、明日翼がうちに来るから、ちゃんと可愛い服で待っといてよ」
「えっ? えっ? 翼君、明日家に来るの?」
「姉ちゃんの大好きな、つ・ば・さ・く・ん」
「も、もう、か、からかわないでよ」
「でも事実じゃん。頑張ってねー」
宮本真は親指をたてて、姉に言っていた。




