妹は大切に
今日の授業の復習を終えて、風呂に入る。
一日の疲れをほとんど回収する魔法の場所。
早くても三十分。遅ければ一時間半も浸かる。なので、俺は毎回一番最後に入ることになってしまった。入る前にかけ湯をして、一気に全身を入れる。
「ふぅー。やっぱり最高だな」
まずは、一回潜る。風呂に入るときの決まり事。
頭の中が空っぽの状態になる。眠たくなる。
「はぁ、しんどかった。明日から二連休だー」
叫びたくなる。
「空本さんって可愛いな」
普通に言ってしまう。恥ずかしくもない。
この一週間は、忙しく進んでいったな。委員長には初めからなるつもりだったが、部活には入るつもりはなかった。
そういえば、村上君は卓球部に入ったのかな?
また、メールで聞いてみよう。
真由と最近話してないな。電話しようかな。
風呂に入ると、頭は空っぽなのに、ずっと考えてしまう。
「あっつー」
湯船から上がり、頭と体を気が済むまで洗う。
洗い終われば、もう一度湯船に浸かり、至福の時を味わう。何分経っているのかも分からない。
頭がボーっとしてきたので上がろう。
バスタオルで体中を拭き、パジャマに着替える。
体がぽかぽかしていて、早く寝たいと思う。
部屋に入り、少しだけ小説を読み始める。
ガチャ。
「お兄ちゃん、一緒に寝てもいい?」
「いいけど」
妹の空が、パジャマ姿で部屋に入ってくる。
「お兄ちゃんと寝るの久しぶりだね」
「そうだな」
俺が、自分の部屋をもらうまで、空と一緒に寝ていたのだが、部屋をもらってから、最初は一緒に寝ていたが、母さんに注意されてから、月に一回程度になってしまった。
「お兄ちゃん、受験だったから今年は始めてだね」
「あのときはありがとな」
空と最後に一緒に寝たのは、去年の大晦日の前の日だった。
「ううん。お兄ちゃんが大事だから」
空が立派に成長したのが嬉しすぎる。
「お兄ちゃん、布団入るね」
「はいはい、どうぞ。電気消すよー」
「はーい」
今でも一緒の布団で寝ているのは、あるときに、空がベッドで、俺が床に布団を敷いて寝ていた。
朝起きると、空と向かい合って寝ていた。
そのときに、空に言われたのは、
「お兄ちゃんのそばで寝たかったから」
それから、一緒の布団に戻った。
空がベッドから落ちないように、向かい合わせに寝る。
「お兄ちゃん、少し甘えるね」
そう言い、空の顔が俺の胸にうずまっていく。
「久しぶりなんだもん。甘えてもいいよね?」
「いいけど、苦しくないか?」
「ぜーんぜん」
頭をなでなでしてやる。
「お兄ちゃん、もっとー」
こんな楽しいことはない。可愛いな。
「お兄ちゃん、好きな人とかいるの?」
恋愛トークが始まった。
「今は、いないかな」
「真由さんのこと、今、好きじゃないってこと?」
「振られたからな。でもまた、好きになるかも」
「ふぅーん」
「何か疑ってる?」
「別にー」
今どき妹と一緒に寝るって珍しいのかな?
「さて、寝よっか」
「もう寝るの? もっと話したいー」
「明日部活あるんじゃないのか?」
「明日は休みだよ」
本当に、空は何の部活やったるんだろうか?
「明日、出掛けない?」
「別にいいよ。どこに行く?」
「うーん。お兄ちゃんが決めて」
決めてと言われたら、何も浮かばない。どうしよ?
「本屋巡りでもするか?」
中三のときの土日の過ごし方を提案してみた。もちろんチャリで行っていたが。今回は歩きだろう。
「それって楽しい?」
楽しくなければ、数ヶ月もやってない。
「好きな漫画あったら、買ってやるぞ」
「行く」
またしても、土日が予定で埋まってしまった。
「今度こそ寝るぞ」
「うん……分かった」
そんなに、話したかったのか? 明日は楽しませよう。
俺たちは、眠りについた。
空を抱きしめて寝るのがとても気持ちいい。
俺は、目覚めてしまった。夜中に。
空は、寝息をたててスヤスヤ寝ている。
空の寝顔を見ることはあまりない。基本的に俺が先に寝てしまうか、同時に寝るからだ。
可愛い。可愛すぎる。美少女なんだな、俺の妹。
空が彼氏とか作ったら、泣いちゃうかも。
シスコンなのかな? 嫌、これは一般的な兄である。
空が俺をギュッと抱きしめていたので、身動きが上手くとれない。トイレに行きたいな・・・。
我慢すればいいか。早く寝よう。
しかし、尿意とは一度意識すれば、なかなかたちが悪いものである。
「はぁ、トイレ行きたい」
空を起こそうかな? でも、絶対迷惑だしな。
この状態が続けば、ある意味危険である。
仕方ない。空を起こそう。
「空、空、起きてください」
寝起きドッキリみたいな感じになっている。
「うー」
うなり声が聞こえてくる。
「起きてください」
空をゆさゆさと動かしたが、なかなか起きない。
「むぅ」
ちょっとイライラしてるのかな?
「何~?」
「ちょっとだけ離してくれるかな? トイレ行くから」
「じゃあ、私も行く」
「分かった。じゃあ、ちょっと離して」
「やだ」
「この状態で行くの?」
「うん」
空に抱きしめられていたので、俺も抱きしめた。
トイレまでこの状態で、歩いていった。
「空、先トイレ行っていいよ」
「ありがとう」
俺は、トイレで待っていた。早く出ないかな?
五分後。
女子のトイレって何分かかるのかな?
変態的な疑問が出てきた。
十分後。
電気を消してみた。反応がない。
これは、完全に寝てるな。どうしよう。
そろそろ限界だな。風呂場でしようかな?
一応、空に呼びかける。
「空~、起きろー」
中から何も聞こえない。もう風呂に入るため、服は脱ごうとしていた。
朝シャンプーだと思えばいい。
俺は、風呂に入った。シャワーを出す。
ジャー。この間に放尿。
出しきって、俺はシャンプーをした。
一応体も洗うことにした。潔癖症とかじゃない。
風呂から出ても、一向にトイレは開かない。
「空を起こさないと」
一応責任みたいなものを感じてはいた。
ドンドンドン。
何度もドアを叩く。
「うーん」
起きたようだ。電気をつけないと。
「あっ、お兄ちゃんごめん。寝ちゃった」
ドジっ子だな、空は。
ドアが開く。
「キャーーーー」
ドアが閉まる。
「お兄ちゃん、何で裸なの?」
「えっ?」
俺は、自分を見た。全裸だった。
風呂上がりであることを忘れていた。
「ごめんなさい」
トイレの前で土下座をしました。




