金曜日は早く帰ろう
久しぶりに親友に会えて、嬉しいのも束の間だった。
今日の最後の授業は、体育であった。
体操服に着替え、運動場に出ていく。
C組と合同で、体育の授業になる。
俺は、体育が嫌いであり、苦手でもある。
体力がないし、ボールとか来たらパニックになるし、球技やってるとろくなことが起きない。
ちなみに、一学期は、体力テストと集団行動を予定されてる。
一応、水泳もあるらしいのだが、期待はしない。
今日は、最初だったので、男子はサッカー、女子はテニスをすることになった。テニスコートは、運動場とは少し離れているので、女子の応援はない。
C組と対決が、始まったのだが、俺はもちろん攻めない。
何故なら、人が多いからだ。
全員が攻めたところで、ボールは奪い合いになる。わざわざ、そんなところに行くほど俺は頭が悪くない。徹底的に、ディフェンスに専念する。
村上君も、俺と一緒にいた。
「僕、運動苦手なんだ」
「俺もだよ」
運動が苦手なので、どうすれば評価してもらえるかばかり考える毎回の体育の授業。
「今、攻めてるみたいだね」
「うん」
さすがに、こっちのチームが攻めてるかどうかは分かるよ。
「ボール取られちゃった」
「攻めてくるかもな」
俺は、一応ディフェンスに向かっていく。
相手の運動神経いいやつがドリブルしながら来やがった。どうせ、抜かれるなら、一矢報いたい。
相手は、フェイントしてかわそうとしたのだが、俺はわざとぶつかって止めようとした。
相手は、少し体勢を崩したので、その間にボールをどっかに蹴る。相手が、少しイラついた感じだ。
味方から、ナイスディフェンスと言われた。
これが、俺の処世術だ。見直したか。
そんな感じで、サッカーが永遠と続いた。
結果は、二対一で、俺たちのクラスの勝利だった。
授業が終わり、さっさと着替えて、ホームルームまでのびのび休憩をする。
女子も戻ってきて、ホームルームが始まる。
「課題テストの結果返すよー」
先生から言われて、成績が書いている紙を貰う。
狙うは順位一桁。俺が取りに行く。
結果は、七位だった。
まぁまぁ良かった。とりあえず安心した。
空本さんには負けたので、クラスではトップではない。
「このクラスの一番の人は、学年順位五位です。その次は、七位でした。その次は、十二位ね。次も頑張ってね♪」
つまり、俺はこのクラスで二番手ということだ。
中間試験では、空本さんに絶対勝つ。今の目標はそれだけしかない。
ホームルームが終わり、今日も昨日と同じ教室に向かう。
入って、昨日座っていた場所でしばし待つ。
全員揃い、学年主任が今日やることを説明する。
今日は、自分たちの分だけしおりを作り、来週の月曜日に全員分を作って、火曜日にクラスで配る。
俺は思った。
別に月曜日にしおりの中のページをクラスで配って、全員に作らせればいいんじゃねーのかと。
しかし、誰もそのことを指摘しない。何故だ?
もしかしたら、学年主任に弱みを握られてるのか?
「お前の内申点がどうなってもいいのか?」
こんな感じで脅されてるのかもしれない。
教育の闇がここにあったというのか。
自分のしおりを作った。
クラスのみんなに見せたいな。
「もう手に入れちゃったぜ、これ」的な感じで。
誰も羨ましくないんだろうな。
自分のしおりを作ったら、今日は解散なので、さっと帰ろう。
俺は、カバンを持ち、教室を出た。
何か嫌な予感がしたから、走って下駄箱に向かう。
「水本君、何帰ろうとしてるの?」
見つかっちゃった。あとちょっとなのに。
空本さんが、俺を追いかけてきた。
逃げようとしたが、待ってしまった。
「はぁはぁ、今日部活だよ」
「明日は週末だし、今日は休みにしましょう」
木曜日休みで、土曜日も休みなら、金曜日も休みにするべきだろう。
「だめ。部室に行かないと」
「はぁ」
諦めがつかないが、結局、空本さんと部室に向かうことにした。
「さて、何で帰ろうとしたの?」
おやおや、尋問が始まっちゃうよ。
「ほんの出来心で、ついやってしまったんです」
現行犯逮捕された犯人だな。この台詞。
「サボろうとしたんだ。ちょっと、信じてたのに」
「だって、この部活死ぬほど暇なんだもん」
「言い訳する気なの?」
空本さんの目が冷たい。
あれ、怒ってるの? 意味が分からない。
「すいませんでしたー」
「ちゃんと謝ろうね」
謝ったじゃん。語尾伸ばすだけで、駄目なの?
「申し訳ございませんでした。空本さん」
「『さん』付け」
どうしたらいいんだよ? 地獄かよ。
頭をグシャグシャと掻いた。イライラする。俺、短気。
「さて、もういいかな?」
空本さんが、区切りをつけた。
「部活始めよ」
「はい……」
いつ誰が来るかも分からないこの部活。
どうにかして、辞めることはできないかな?
「課題テストの結果どうだった?」
嫌みなのか? 嫌みでしかないな。
「私は五位だったよ」
「俺は七位だったけど」
「じゃあ、私たち、クラスのツートップだね」
もう喋りたくない。辛いだけだよ。心を閉ざす。
あることを思い出した。しおりの表紙の絵だ。
「あー、空本さ・・・空本、昨日俺も表紙の絵描いてみたんだけど見る?」
「見てみたい♪」
カバンからその絵を取り出す。
「はい、これ」
空本さんに渡して、感想を待つ。
「これ、本当に一晩で描いたの?」
「二時までかかったけどね」
「すごい・・・これ、先生に提出しようよ」
大げさだ。今までで、一番上手く描けたが、絵が良いというわけではない。
「いや、空本の方が良かったから、別にいいよ」
「そんなことない」
そんなに否定しなくても。
「せっかく描いたから見せたかっただけ」
空本さんから絵を奪って、カバンにしまう。
「そっちの方が良かったと思うのに」
褒められると嬉しいな。
「さて、空本、ノート貸してくれない?」
「えっ?」
「授業中に寝てたから、ノート真っ白なんだよ。お願いします。貸していただけませんか?」
「いいよ」
その日、俺はノートを写す作業で終わった。
部活の時間が終わり、とっとと帰る。
家に帰り、授業の復習をしていると、メールが来た。まこっちゃんからだった。
「日曜日、暇なら、うちの家に来ない?」
土日はどちらも暇なので、すぐに
「了解。何時ごろに行けばいい?」
と返信した。
「家知らないだろ」
そうだった。前とは違う家なのか。
「ごめん。何時にどこで待ち合わせ?」
「じゃあ、二時ぐらいに駅前で」
駅前というのは、高校に行くときに降りる駅だ。
「了解。じゃあ、日曜日に」
返信して、また、教科書とノートに向かっていく。




