再会
前日(今日の夜中)の疲れがどっと来た。
明日から休みだから、今日は頑張ろう。
朝、少しでも体力を回復をしておきたいので、学校に着くと、すぐに机の上で倒れました。
次に、意識が戻ったのは、十分後。
空本さんが、俺を起こして紙を見せる。
昨日言われた、表紙の絵が、完成したらしい。
「一応、頑張って描いたんだけど、どう?」
「これでいいと思うよ」
一日で、ここまで上手く描けたなら、先生も怒らないだろう。俺が描いたのも、もういらないな。
あぁ、見せたいな……。今まで描いた中で、一番いい出来だったから、空本さんが提出してから、見せようかな。
「ラノベも参考にしたの。すごい役に立ったよ」
「そうなんだ。ごめん、ちょっと俺寝る」
「もうすぐ、授業始まるよ」
「号令代わりによろしく」
限界だったので、完全に意識を消してみる。
俺は、今日は絶対頑張らない。
その後、俺が目を覚めたときには、二時限の授業の終わりだった。引くほど怒られた。
いやいや、悪いことは一つもしてないよ。
寝る子は育つんだから、俺は今まで成長してた。
それなのに、昼休み職員室って、罰が重い。
昼休み。
渡り廊下走りたいと思ったが、歩きます。
職員室に入り、一時限の授業の先生のもとに行って怒られ、二時限の授業の先生のもとに行って怒られ、踏んだり踏んだりだな。
職員室を出ていった。
教室に戻るため渡り廊下を歩いていると、
「翼だよね?」
突然、肩をトントンされる。自腹とかじゃない。
振り返ると、身長一八〇センチ以上のまぁまぁカッコいい男子がそこにいた。
俺、こいつに見覚えがないはず。
でも、俺の下の名前知ってるし、同じクラスじゃないし、誰だろう?
「その顔は、覚えてないね。悲しいよ」
「本当にごめん。誰だっけ?」
謝りながら、失礼な質問する。
「昔、お前と親友でした。これがヒントだ」
昔。俺の昔に、中学校時代は存在しない。
つまり、小学校のときの親友である。
頭の回転が早くなる。
俺に電撃が走る。突然思い出すものだな。
「まこっちゃんなの?」
「正解だけど、忘れんなよ」
宮本真。俺の小学校時代の唯一の親友。
あだ名は、まこっちゃん。俺が命名。
何かにつけて、二人で組んでいたので、互いが親友で、その他に友達という友達がいない。
しかし、悲劇が起こる。
まこっちゃんの引っ越しである。
まこっちゃんの父親の転勤だったらしい。
小学校の卒業式までは、一緒にいれたのだが、その直後に、引っ越ししてしまった。
もちろん、見送りに行ったのだが、号泣した。
人生の中で、別れの辛さを知ったのがこのときだ。
それから、俺は中学のときに、友達は何人かは、出来たが親友にはならなかった。
進級して、クラスが変われば、繋がりが無くなる。
中学二年からは、友達を一人も作らなかった。
真由が話しかけてきたのも、そのときだった。
告白して、振られて中学校なんかどうでもよくなった。中学校三年からは、本格的なぼっち活動を活発化していった。
「いつぐらいに帰ってきたの?」
「二月ぐらいだよ」
「全員帰ってきてるの?」
「そうだけど」
「いやぁ、帰ってきてくれてうれしい」
「俺も翼に会えてうれしい」
ここ三年で一番嬉しいことだな。
「メアド交換しようぜ」
「おぅ」
そして、メアドを交換した。
「翼はどこのクラスなの?」
「1ーDだよ。まこっちゃんは?」
「1ーFだよ。来年一緒になりたいな」
来年は、理系と文系に別れるから、まこっちゃんが理系になることを願う。
「部活は?」
まこっちゃんに、部活について聞かれる。
「うーん。ちょっとこっちに来て」
あんまり周囲に聞かれたくない話もあるので、特別棟の誰もいないトイレに行った。
「ここなら大丈夫かな」
「聞かれたくない話?」
「そうだな」
ここには、多分誰も来ないはず。
「それで、部活は?」
「実は、俺、『恋愛相談部』に入ってるんだ」
「何でまたそんな部活に……」
「訳ありなんだけどね」
「その訳は、聞いてもいいのか?」
「あー、別に大丈夫」
まこっちゃんなら、言いふらす心配はない。
「俺、『結婚不適合者』なんだよね。それで、部活に強制的に入部させられた」
「大変だな」
「部活自体は、忙しくはないんだけどね」
「つまり、『結婚不適合者』しか入れないのか?」
「多分そうらしい」
「俺も入りたいなー。その部活」
「お前は、『結婚不適合者』じゃないだろ」
「いや、俺も『結婚不適合者』だけど?」
「えっ?」
耳を疑うような発言が聞こえた気がするんだけど。
「今何て言った?」
「だから、俺も『結婚不適合者』だって」
「どういうこと?」
「言葉通りの意味だけど」
「・・・」
絶句。俺たちは、ダブルで「結婚不適合者」なんだ。
「まぁ、バイト行かないといけないから無理なんだよ」
先生がもう一人誘ったけど断られたとかいっていたのは、まこっちゃんだったのかよ。
「それは、しょうがないな。でも、何でバイトしてるの?」
「今、賃貸で家借りてるんだけど、食費とかの金が少しでも多い方がいいから」
「なるほど」
世の中不況で色々と大変らしい。
「何で、『結婚不適合者』になったの?」
理由を聞いてみたかった。
「何でだと思う?」
「こっちが聞いたんだけど?」
「当ててみろ。当たったら何かおごるわ」
「じゃあ、一週間ぐらいくれ」
「いいだろう。翼に当てられるかな?」
軽い挑発を受けたが、一週間後には分かるから、待つことにする。
「それじゃあ、そろそろ戻ろうか」
「そうだな」
渡り廊下を歩いていると、空本さんに会った。
「空本さん、どうしたの?」
「昨日描いたやつを先生に持っていこうかなって」
「あー、そうなんだ」
「あのー?」
「うん?」
「水本君の後ろに隠れてる人はどなた?」
「隠れてる?」
後ろを見ると、俺の制服の裾を掴んでしゃがみこんで、ガクガク震えているまこっちゃんの姿があった。
「何してるの?」
返事が返ってこない。「結婚不適合者」の理由が分かった気がする。
「空本さん、早く職員室に行った方がいいんじゃないの?」
「あっ、そうだね。じゃあまた」
空本さんが職員室まで早歩きで行く。
「翼・・・理由分かった?」
「何となく・・・女性恐怖症なのか?」
「正解。後で、何かおごる」
意外なのかどうなのかよく分からないが、この先波乱を起こしてくれそうな気がする。




