部活は休みなのに忙しい
本日は木曜日。
明日が終われば、休みだとか思える木曜日。
弁当を持って、小説を三冊入れて、学校までレッツゴー。
少し暖かくなった、春のこの感じ。
暑いこともなく、寒いこともなく、中途半端なこの気温がずっと続けば、世界平和に繋がりそう。
あと、凄まじく眠い。
頭のなか空っぽの状態で、外には一歩も出ず、ベッドの上でずっと、寝ていたい。
しかし、学生というのは勉強が仕事だ。
そんなわけで、仕事現場に行こうか。
学校に来て、
「水本くん、おはよう」
「空本さん、おはようございます」
「敬語」
また怒られた。テヘッ♪
「ラノベ持ってきたから」
俺は、カバンからそれらを取りだし、空本さんに渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
空本さんが、席に戻っていく。
「何貸したの?」
後ろから村上君が聞いてきた。
「ラノベだよ」
「ラノベ?」
そんなに、ラノベって有名じゃないの?
「読みやすい小説ってところかな」
「また、僕にも貸してね」
「了解」
村上君とも約束をして、先生が来るのを待つ。
「はぁ、放課後しんどいなぁ」
声に出して、言ってみる。
「どうしたの?」
村上君との会話って、楽しいな。
「今日の放課後、クラス委員、校外活動のしおりを作るらしいんだけど、行きたくない」
内申点稼ぎの俺にとっては、嫌でしかないのだ。
「でも、委員長に立候補したから、頑張らないと」
「そうですよねー。頑張ります」
「そうそう、その意気だよ」
村上君に励まされたら、頑張れる。
人生のパートナーに決めちゃいたい。
というわけで、今から頑張らないといけないクラス委員の集まりが始まる。
別の教室に集められるのだ。
全部で八クラスあるので、委員長と副委員長で、全部で十六人だが、五人しか来ていなかった。
「1ーD 委員長」と書かれた所に座る。
隣には、既に空本さんが座っていて、
「しおり作ったら終わりかな?」
そんなことを聞かれたので、
「まだ、他に決めることとかあるかもな」
「敬語取れてきたね」
「何とか」
ぞろぞろと他のクラス委員が入ってくる。
全員が揃い、学年主任の先生が号令をかけた。
全員立ち上がり、よろしくお願いしますと言い、しおり作りが始まる。
といっても、予定とかのページは完成しており、他のページもほとんど出来ていて、後は、綴じるだけなのだが、問題は、表紙の絵をどうするかということになっていた。
中学校のときなどのしおりは、誰かが描いたの絵を、表紙にされていたのだが、興味がなかった。
結局その問題は後回しにされて、先に宿舎に入所するときに、そこの人に挨拶をする人を誰にするのかという問題が発生した。
先生が、
「委員長で、じゃんけんして負けたやつがやれ」
言いやがった。俺がじゃんけん弱いのを知っていたのか。俺を含めた全ての委員長が立ち上がる。
じゃんけんが始まる。
「最初はグー、じゃんけん」
ポン。俺はチョキを出した。
俺以外全員グー。
悪質な嫌がらせですか? 陰謀ですか?
「じゃあ、お前で決まりな。名前は?」
「水本です」
「ユニークなのを期待してるからな」
おいおい、仲間がプレッシャーをかけるな。
「それじゃあ、続けて退所式の挨拶決めろ」
再び全委員長が立ち、じゃんけんが始まろうとした。
俺は、入所式のときに言うから、立たなかったが、
「お前も参加しろ」
いやいや、二回はない。二回はない。
フラグじゃないよ。願いだよ。
渋々立ち上がり、じゃんけんが始まる
「最初はグー、じゃんけん」
ポン。俺はグーを出した。
俺以外全員パー。
デジャブかな? いいえ、再来です。
これは、同窓会で語れるエピソードが出来た。
まぁ、同窓会なんか行かないけど。
「水本に決定! 面白い話を頼むね」
ユニークの次は、面白い話ですか?
校外活動休もうかな?
「じゃあ、この勢いで表紙の絵、誰が描くか決めようか」
もう俺嫌だよ。まず、人が上手に描けないし、アニメの好きな女の子のキャラの目ぐらいしか描けない。
「今回は、副委員長の女子の中から決めろ」
女子なら絵も上手い人がいるはず。
白羽の矢が俺に立たず。よかったー。
空本さんが立ち上がり、じゃんけんが始まる。
「最初はグー、じゃんけん」
ポン。空本さんはグー。
空本さん以外全員パー。
俺と空本さん確実にいじめられてるよね。
全員が、クスクス笑い始める。
そりゃ、そうだろうな。
俺もちょっと面白いと思っている。
「水本くん、どうしよう? 私、絵得意じゃない」
「大丈夫だろ」
ほぼ他人事のような返事でこの話を終わらせる。
「絵は、明日の放課後までに提出してくれ」
先生っていつも、残酷だよね。
「水本く~ん(泣)」
「手伝うから、泣かないで」
結局俺も絵をやることになった。
先生の解散宣言で、みんなが帰り始めた。
俺と空本さんは、ファミレスで絵を描くことにした。
空本さんは、電話でいつも迎えに来ている運転手に今日は、歩いて帰ると伝えていた。
駅前のファミレスに行くのだが、途中でコンビニと本屋に寄った。一応、参考にするための少年誌などの本を買った。
ファミレスに入ると、学生が多く来ていた。
俺たちは、なるべく奥の方の席にして、集中できるようにした。
「私だけじゃなくて、水本くんも描いてね♪」
笑顔で、嫌なこと押し付けないでください。
「さて、早く終わらせよう」
「そうだね」
俺は、筆箱から鉛筆を出し、ノートに描く。
可愛い女の子キャラを何人か頑張って写していく。
でも、そこまで上手くはない。
ちなみに、空本さんは、
「うーん」
まだ、線一つ描けていなかった。
「空本さんって好きなものってある?」
空本さんが、何か掴んでくれたらいいと思って、質問する。
「私の好きなものは・・・」
俺の方をじっと見つめる。まさか、俺?
「特にないかな」
でしょうね。期待しちゃうとか、愚かだな。
「水本くん、何か描けた?」
ノートを見せてみる。
「へぇ、こんなの描けるんだ。スゴーイ」
「写しただけだし、そんなに上手くないよ」
「でも、これだけ描けるってうらやましいなぁ」
太鼓を持たれてる感じがするんだよなぁ……。
「代わりに描いてくれない?」
「うーん。それはちょっと……」
「ダメ?」
人にお願いされたら断れないんだよね。
「それでも、空本さんが描くべきだよ」
「・・・」
黙りこんでしまう。
苦手なことを頑張ることほど嫌なことはない。
出来るなら、得意な分野をずっとやりたい。
俺もそうだ。みんなもそうだろうと思う。
俺は、スポーツ全般(特に球技)が苦手だ。特にチームプレイ。
でも、唯一俺が得意なのは、バレーのサーブ。
中学校のとき、体育の選択授業は、バレーしか選ばなかった。そして、ずっとサーブの練習をした。
ただ、レシーブもトスもアタックも出来ないけど。
苦手なことは避けたい。
ただ、やれと言われたら、何とかしようと思う。
だから、空本さんにも頑張ってほしい。
「分かった。でも、出来なかったらゴメンね」
「そのときは、昼休み使って、一緒に描こう」
「ありがとう。それじゃあ、もう帰ろっか」
「じゃあ、これ持って帰った方がいいよ」
本屋で買った少年誌を空本さんに渡して、ファミレスを出ていく。
「それじゃあ、また明日ね、水本くん」
「じゃ、また明日」
俺は、電車に乗って帰る。
空本さんは、車が迎えに来るらしい。
その日、俺は家に帰ってから、漫画とかラノベの挿絵を参考に頑張って表紙になりそうな絵を描いていた。終わった頃には、夜中の二時を回っていた。




