部活が暇です
今日は、水曜日。
つまり、週の折り返し地点だと言われているあの水曜日。
あと三日もあると、朝に思って、夜になると、まだ二日もあるのかよとか思う水曜日。
さらに、コンビニに寄って、パンを買う日である。
これで、雨降ってたら、俺休む。
ジャムパンにでもしようっと。
学校は、朝から内科検診がある。先に男子で、後に女子がするらしい。
内科検診の先生が女性だったら、聴診器であれやこれやされたいですよね。
こんなこと考えるの俺だけじゃないですよね。
今でこそ、検診のような行事があるけど、これから先、何にもない日が、続くとしんどくなる。
慌ただしく過ぎていく、放課後までの時間。
そして、放課後、
「水本くん、昨日言ったこと覚えてる?」
「えーと・・・何て言ったましたっけ?」
「明日は、お話しようねって言いました」
「うん。言ってました」
「というわけで、改めて自己紹介しない? お互いを知ることは、必要だから」
「そうですね」
俺たちは、椅子を向かい合わせにして座る。
「一年D組の委員長をやってます。水本翼です」
「一年D組の副委員長をしてます。空本風花です」
「・・・」
「・・・」
もう詰まった。何を聞いたらいいんだろうか?
村上君と話したとき何話してたっけ?
出身中学とか聞こう。
「どこの中学出身?」
「私ですか? 江野中学校です」
「そうなんですね」
「水本君は?」
聞くだけ聞いて、言ってなかった。
「松野中です」
「へぇー」
「・・・」
「・・・」
視線が、どっかにとんでいく。
俺たちの問題は、会話のラリーが続かないことだ。
「他に何を話せばいいんでしょうか?」
禁断の質問しちゃいました、俺。
「趣味とか誕生日とかかな?」
空本さんが、ナイスパスを出してくれた。
「じゃあ、俺の誕生日は、二月二日です」
「私の誕生日は、十二月二日です。水本くんとは、二ヶ月しか変わらないね」
「そうですね」
「敬語そろそろやめてくれないかな?」
「俺、敬語喋ってた?」
「少なくとも、今日は、ずっと敬語でした」
ほら、俺って無意識で人を敬う癖があるからとか言ってみたい。すごいダサいけど。
「それは、すいません。気を付けます」
「今のも敬語だよ。ですとかますとか禁止ね」
「はい……」
女の子からの「禁止ね」とかたまんないです。
お互いを知ろうとした結果、知ったのは、誕生日のみ。出身中学とかは、そこまで興味ない。
誕生日プレゼントを考えておこう。
「自己紹介って、こんなんだっけ?」
「そうです・・・じゃん」
敬語やめたら、こんなことになったじゃないか!
「慣れるまで頑張ってね♪」
「でも、空本さんはお嬢様なのに、全然敬語を使わないです・・・やん」
関西弁出てもうたやん。今日空本さんと会ってから、敬語を使われてない気がする
「馴れ馴れしいのは嫌いなの?」
「そんなことはないけど、何かイメージで」
言葉が足らず過ぎて、伝わらない。
「水本くんの前だから、こうなってるのかも……」
「俺の前だから?」
「うん」
俺は、不思議な能力を手にしたらしい。
人から敬語を奪う能力。ただ、需要がない!
「暇だね」
俺も空本さんと同じこと思ってたよ。
「この部活の存在意義って何だろうね?」
俺が空本さんに問う。
「人から恋愛の相談を受けることじゃない?」
「恋愛相談って、女子なら友達。男子なら抱え込むんじゃない」
「じゃあ、もしここに来る人がいたら・・・」
「女子ならぼっち。男子なら興味本意で来た」
「はぁ」
空本さんが、ため息をついた。
「まぁ、明日はどのみち部活ないじゃん」
明日は、校外活動のしおりを作るために、俺も空本さんもクラス委員のため放課後に呼ばれている。
「残念だなぁ」
「そうか? この部活、今、何もしてないよ」
だんだん敬語が取れてきた。人間成長するもんだな。
「そういうことじゃないんだけどなぁ……」
「まぁ、俺は勉強できればいいんだけどね」
現在、恋愛相談件数0件。
当然といえば、当然なんだけど、なるべくこの数字を増やしたいとは思う。
だって暇だもん。寂しくて死んじゃいそう。
あと、空本さんとずっと二人きりなのも緊張する。
「まだまだ時間があるね」
時計をチラッと見る。
「あと一時間もあるのか」
「ねぇ、メールアドレス交換しない?」
空本さんが、携帯を取り出して、こっちを見る。
「同じ部活だしな。うん、ちょっと待って」
カバンを漁る。携帯なんか学校で使うことがない。
奥の方に眠っていた携帯を出し、電源を入れる。
「赤外線?」
「じゃあ、私が先に送信するね」
「受信しまーす」
空本さんの電話番号とメールアドレスが入る。
「じゃあ、俺も送信する」
「受信しまーす」
俺と同じ言い方が、なんとも可愛らしい。
「じゃあ、ちょっとメールするね」
危うく電源を切りそうになった。
「メール来たよ。送り返せばいいの?」
「うん。お願い」
適当にメールの文を書き、送信する。
「届いたよ。ありがとね」
メールアドレスも交換し、いよいよすることが無くなった。誰でもいいから来てほしいな。
「・・・」
「・・・」
会話も止まってしまった。俺どんだけ、人と話すの苦手なんだよ。特に女子。
真由以外の女子と長い間、喋れた試しがない。
本当に、暇潰しがしたい。ラノベが読みたい。それ以上に勉強がしたい。言ってること超真面目。
あらかじめ、断りを入れておくか。
「空本さん。俺ちょっと本読むわ」
「『さん』付け禁止」
「分かったから。本読むね」
限界が来たら、これからラノベを読もう。
「何読むの?」
「ラノベ」
「ラノベって何?」
あーそっか、ラノベ知らないんだ。お嬢様だし、知らなくても当然だな。
「軽い感じの小説かな?」
ライトなノベルだから、軽い小説で合ってるだろ?
「私が読んでも面白い?」
「俺には分からないかな」
そりゃ、そうだ。人が面白いと思う作品が自分には合わないなんて、よくあることだから。
簡単には、オススメとかできない。
「明日、借りてもいい?」
「明日何冊か持ってくるから、そこから選んでね」
「よろしくね」
有名な作品でも持っていこう。それがいい。
変にちょっと変わった小説持っていくよりも、ある程度王道な作品の方がいいはず。
「勉強しなくていいの?」
「勉強は、独りでしたいから」
人がいる空間とかで勉強はあまり好きじゃない。
図書館ならまだ、イヤホンを使って勉強出来る。
だが、人の家での勉強会とか絶対いきたくない。
邪魔されたり、ゲームとか始まったりとか無駄しかない。まぁ、行ったことないけどね。想像だけど。
それから、俺は小説を読み始めた。
空本さんは、携帯をいじり始めた。
「部活終了です。戸締まりよろしく」
「先生、誰一人相談に来ないんですけど」
「あー、今週はまだ来ないだろ。来週まで頑張れ」
「もう頑張りたくないです」
やる気がほぼ無い先生と部員である。
家に帰ると、空本さんからメールが来ていた。
「小説持ってくるの忘れないでね」
ものすごい忘れてた。
忘れないように、本棚から何冊か出して、カバンに入れた。
メールの返信しないといけないが、何て送ったらいいのか全然わからない。
「忘れてないよ。ハッハッハ」
これは違うな。
「メールありがとう。危うく忘れそうだったよ」
これがいいのかな?
「いつ渡せばいい?」
突然すぎるかな? 前のにしよう。
メールの返信をして、勉強を始める。




