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俺も彼女も結婚不適合者  作者: 高壁護
第1章 1年1学期(4月~5月)
18/112

放課後

 彼女は、俺のことを覚えていたのかな?

 翼と名前で、呼ばれていたのだが、出席確認のときに、先生から翼と言われたので、もしかしたら、それを覚えていただけなのかもしれない。

 簡単には信じない俺の悪いところが出てしまう。

「入学説明会のときは、ありがとう」

 彼女は、俺のことを覚えていた。

 信じていいでしょう。疑った俺は、ばかだ。


「それじゃあ、前期の委員長と副委員長から一言ずつお願いします」

突然、先生から振られて、びっくりしてしまった。

「えーと、水本(みずもと)(つばさ)といいます。頼りないかもしれないですけど、よろしくお願いします」

 教室から拍手が起きる。

「あの、えーと、空本(そらもと)風花(ふうか)です。頑張るので、よろしくお願いします」

 俺以上に、拍手がとんでいる。

「それじゃあ、ここからは、二人に進行してもらって、他の委員決めてね」

 そう言い、先生が、教室の入口のところに移動する。

「それじゃあ、委員やりたい人いますか?」

 誰も手を挙げてくれない。

空本さんが頼んだら、男全員、手挙げるだろうな。

「何の委員があるんですか?」

 肝心な部分が出来ていなかった。

 空本さんに頼んで、黒板に書いてもらう。

 前途多難なスタートになってしまった。


 委員は、美化委員、保健委員、体育委員、図書委員、風紀委員、管理委員がある。

 しかし、誰も手を挙げず、膠着(こうちゃく)状態になってしまった。

 きっと、誰かがやってくれるだろうとか思ってしまうので、誰も手を挙げてくれない。

 時間だけが過ぎていく。

ついつい、内申点稼ぎになるよとか言いたくなる。

 それを言っちゃあ、お終いですよ。

 こういうときは、じゃんけんとかで、無理矢理決めるってのもアリなんだけど、サボられるのが、嫌だから、強制はしたくない。

「もしかして、失敗したくないからやりたくないの?」

 俺は、唐突にクラスのみんなに聞いてみた。

「そりゃあ、失敗はしたくないだろ」

 男子から言葉が飛んでくる。

「大丈夫だろ。俺は、別に失敗とか考えてないし、完璧にする必要なんかないから」

 ある程度の経験が積めれば、俺は良いと思う。

 学生生活は、失敗しまくって、それが思い出になるはずなんだけどな。

 俺も中学校のときは、振られたり、暴言吐いて孤立したりって、これ全部悪い思い出ばっかりだな。

「失敗してもいいんだな?」

 男子からその言葉を聞いた。

「あぁ、その代わりサボるのはダメだけどな」

 どんなに嫌でも、サボるよりは行かないといけない。

 サボったら負けた気分になるからな。

「それじゃあ、俺、体育委員になる」

「分かった。名前言ってくれる?」

廣野(ひろの)正孝(まさたか)だ」

 名簿を見て、漢字を確認する。

「空本さん、名前書いといて」

「はい」

 空本さんに、名簿を渡した。


 こうなったら、ドミノ倒しのように、決まっていく。徐々に手が挙がってきたが、図書委員だけ決まらない。

 図書委員は、図書室で、放課後に時間を取られるので、部活をしている人にやらせるのは、あまりよくない。ここからが正念場だ。

 読書が好きな文系女子に手を挙げてほしい。

「あとは、図書委員だけど、誰かやりたい人いる?」

「あのー、私やります」

 眼鏡をかけた本好きそうな、女子が手を挙げた。

「分かりました。名前は?」

桜井(さくらい)結月(ゆづき)です」

「空本さん、名前書いといて」

「はい」

「先生、委員全部決まりました」

「じゃあ、水本君も空本さんも席に戻っていいよ」


 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴り、授業が終わる。

「それじゃあ、委員長、号令」

「あっ、起立、気をつけ、礼」

 委員長は、俺でした。忘れそうだ。

「「ありがとうございました」」

「次の時間から授業だから、寝ちゃダメだぞ♪」

 先生のぶりっ子は、見てて腹が立つ。

「本当に委員長になったんだね」

 村上(むらかみ)君に、目を輝かせて言ってくれる。

「まぁ、一年生の内は、失敗できるからな」

「それでも、すごいと思うよ」

「あ、ありがとう」

 こんなに、褒めてくれるなんて、俺、嬉しいよ。

「水本君」

 幸せな気分に浸っていると、声をかけられた。

「空本さん、どうしたの?」

 空本さんが、机の横に来た。

「少しだけ、お話したいんだけど、いいかな?」

「いいけど。じゃあ、村上君ちょっといってくるね」

「うん」

 俺と空本さんが、廊下へ出る。


「改めて、入学説明会のときは、ありがとうございました。助けてもらったので、お礼したいなって思って」

「別にお礼とかはいらないから」

「それでは、私の気が済まないです」

「本当に大丈夫だから。それより、同じクラスだったって、今日はじめて知って驚いてるから」

「でも、同じクラスになれて良かったです」

「俺のことは、気付いてた?」

「入学式のクラス発表で、名前があったから、もしかしたら、一緒のクラスになれたのかなって」

 彼女が、ふふっと微笑んだ。見とれてしまう。

「これから、よろしくお願いします」

 俺は、お礼を言っておくことにした。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 彼女の所作が、お嬢様の雰囲気を漂わせる。

「教室、戻ろっか」

「そうですね」

 楽しい一時を終え、教室に帰っていく。


 六時限は、数学だった。

 最初は、テスト返しで、テストの解答用紙が返されていく。貰った人は、喜んだり、悲しんだりしていた。俺の順番だ。

 解答用紙を貰い、席で点数を確認する。

「95点」

 すっごい喜びたいけど、表情を崩さず、心のなかで大爆笑。これが、俺のやり方だ。ハッハッハッ。

「水本君、どうだった?」

 村上君が聞いてくる。

 良い点数だったら、解答用紙を見せる。

 悪い点数だったら、口頭発表。

 つくづく性格がネジ曲がっている。

「水本君、スゴーイ。賢いんだね。憧れちゃう」

「村上君は、何点だったの?」

 意地悪な質問しちゃうよ。

「僕は、恥ずかしくて、見せられないよ」

「そんなこと言って、ちゃんと見せなさい」

「91点」

 まぁまぁ、賢いじゃねーか、コノヤロー。

 でも、可愛いから許す。


 このクラスの最高点は、95点だったと先生からの報告。俺が一番でした。やったね。


 その時間は、テストの解説だった。

 正直、ほとんど正解で、ちょっとだけ減点された俺は、聞かなくてもいいんだけど、満点取りたいので、こういう時間は、めっちゃ先生の解説を聞く。


 授業が終了し、ホームルームで、今日出す書類を、後ろから回収という作業が始まり、毎回、明日持ってきます宣言をする生徒が出てくる。

 そして、ホームルームが終わり、掃除の時間だ。

 班がまだ決まってないから、名前の順で、最初から六人と、委員長の俺と副委員長の空本さんで、教室掃除をしないといけなくなった。

 委員長の俺が戸締りをして、鍵を職員室に持っていく。

 さて、金曜日に言われた用事をしなければならない。特別棟の西側三階の奥の教室。

 果たして、何が待っているのでしょう。不思議発見。


 目的の教室にやって来た。

 確か、教室の中で、待っといてくれみたいなことを言われた気がする。

 一応、ノックをする。中で、女子が着替えてましたハプニングを防ぐためである。

 すると、中から、

「はい。どうぞ」

 人の声が聞こえた。

 俺は、その扉を開いた。

 その声の主は、美しい姿勢で、窓から吹き抜けている風に、黒い髪を揺らしながら、座っていた。

「水本君」

「空本さん」

 そこにいたのは、空本さんだった。


 すると、

「全員揃ってますかー?」

 俺たちの担任の森野(もりの)先生が入ってくる。

「あー、やっぱり来てくれなかったか。誘ったんだけどな」

 ぶりっ子だったそれは、見る影もなかった。

「二人だけか。まぁ、成立するだろう」

「先生、何の話をしてるんですか」

 俺は、彼女を問いただす。

「あー、説明する約束だったね」

「説明をそろそろお願いします」

「分かった」

 少しだけ緊張感が走る。


「君たちは、これから、三年間『恋愛相談部』に入ることを命じる」

「はぁ……」

「『恋愛相談部』では、この学校の生徒の恋愛の悩みの相談を聞き、解決してもらう」

「何で、俺たちなんですか?」

「良い質問だ」

「とっとと、答えてください」

「二人の共通点は、何だ?」

 同じクラスということしか思い浮かばない。

 だとしたら、俺じゃなくてもいいはずだ。

 じゃあ、何だろう?

「数学がクラスで一番のお前でも分からないのか」

「ほぼ関係ないでしょ。それ」

「正解は、『結婚不適合者』であることだ」

「えっ」

 そりゃあ、驚くよ。驚かない方がおかしい。

 空本さんが「結婚不適合者」だったなんて。

「水本君も、『結婚不適合者』なの?」

 俺以上に、空本さんの方が驚いていた。


「というわけで、悩みが来るまで、待機ね。お疲れ様」

 そう言い残し、先生が出ていってしまった。

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