試験最終日
そこから一睡することなく迎えた試験最終日。
体調は絶不調、しかしこんな所で立ち止まれない。まずは空にバレないように、玄関へ向かわないと・・・・・・ガチャ。
「お兄ちゃん、何で制服着てるの?」
ガチャ。そっと自室のドアを閉める。優しい声が凄い怖かった。お腹の底に響いてくる重い声。あんな声生まれてきてから聞いたことないよ。
「さて、窓から降りるのも一つの手ではあるが、怪我とかしたら面倒くさいからな。これは話し合いだな」
再びドアを開けると、
「・・・・・・(笑顔)」
あー、この笑顔……凄い恐怖に満ちている。
「お兄ちゃんは戦うためにこの部屋を旅立つ。帰ってきたときには温かいご飯用意して待っててくれ」
決まったぁーーー!!!
人生で一度は言ってみたい台詞第何位か分からないけど言えたぁーー!!
「そうだね・・・・・・でも、温かいご飯は帰ってきたときじゃなくても今からゆっくり部屋で食べられるから」
「今からはいい。帰ってきたときに・・・」
「お兄ちゃん、今からだよね?」
「妹に反抗します!!!・・・ゲホゲホゲホッ」
俺は(咳をしながら)飛び出した。
「お兄ちゃん、帰ってきても看病しないからね」
もう、それは仕方ない。自力で完治目指します。
昨日からの努力が無駄になってしまわないように俺は今頑張る。
「ふぅ・・・・・・」
賢者タイムではありません。しんどすぎてため息を吐いてるだけでございます。学校に来るだけでも一苦労であり、歩いていても次の一歩が重すぎて進まないぐらい体が芯から弱ってる。
「今日は送っていってあげる」
「よろしくお願いじまず」
「素直でよろしい」
空本さんは何も聞かず、俺に優しくしてくれる。
マジ女神。いや、ほんと女神。感謝感謝。
ここまで試験のために頑張ったんだから、終わった日ぐらい甘えてもばちは当たらない・・・はず。
空はかなりキレてたから、看病してもらえる可能性は無くなったし、今日病院にでも行こうかな。
試験の出来は何故か上々な気がする。
「荷物持ってあげるね」
「いや、大丈夫だがら」
女子に荷物持ってもらうとか俺何様なんだよとか思われそうだし、むしろ車で送ってもらうんだから、俺が空本さんの荷物持っていかないといけないじゃん、あーー、面倒かけてごめんなさい。
「こちらへどうぞ」
校門前で待っている東山さんは淡々としていた。
「いづもいづも、ずびません」
「病院には行かないのですか?」
「午後から行ぎまず」
俺の返答に左様でございますかと言い、三人の中に何ともいえない空気が流れる。
車が家の前に停車すると、俺は軽く支えられながら玄関前まで足を進める。
「今日、絶対に病院に行くこと」
「はい」
「明日から二、三日学校は休むこと」
「・・・はい」
「何かあったら連絡すること」
「はい」
「とりあえず、この三つは絶対守って」
「はい」
圧倒的上下関係の前に、俺は見事なイエスマンとなっていた。ここで軽くふざけようものなら、グーパンチが来ても不思議ではない。
「まぁ、明日から学校終わったら見舞いに来てあげる」
「風邪うつるから、来なくても大丈夫っす」
「うん。絶対に行ってあげるね」
俺の意見は完全無視であったが、優しすぎて半分涙目になったのはいうまでもない。
そして、全身から力が抜けて景色が地面に近づいてくるのを最後に意識が飛んだ。
「はい・・・はい・・・すいません。よろしくお願いします」
自分に意識が宿るというか、ものすごく深い眠りから覚めたような気分だった。
俺は家のベッドに寝かされていた。隣にはどこかへ電話をしている空本さんがいる。
「あ・・・良かったぁぁ。私が誰だか分かる?」
「空本さんでしょ?」
「記憶には特に異常は無し。はぁー、倒れたときは本当にびっくりしたんだからね。とりあえず、このまま病院に行って、検査してもらわないと」
「さっき、電話してたのって」
「あれは、妹の空ちゃんの学校に電話してたの。お兄さんが倒れたから帰ってこれないかなぁって思って。もうすぐ学校から連絡が来るとは思うんだけど」
朝にやらかしたから、多分帰ってこないだろうなぁ。
妹の忠告を聞かず、挙げ句の果てにお兄さん倒れましたとか連絡行ったら、しばらく何を言われるか。
しかも妹以外に迷惑をかけてしまったというのが、申し訳無さすぎて辛いです。
「電話来た。ちょっと待ってて」
俺の部屋から一旦外に出ていく。疲れているとはいえ、まさか倒れるとは思わなかった。
「とりあえず、今から病院行くから保険証と財布の準備して」
「空は帰ってくるのか」
「今、授業中だから授業が終わり次第、帰ってくるみたい。とりあえず先に病院行って、薬もらわないと」
「本当にすいません」
「病人なんだからしっかり休んで」
「ありがとう」
「ただ・・・治ったらしっかりお礼をしてね」
その言葉は俺にとっては結構救いの言葉でもある。