プロローグ
中学二年のバレンタイン。
俺は人生で初めて告白した。
「ずっと、ずっと真由のことが好きでした。俺と付き合ってください」
相手は、俺の幼馴染の柳井真由。
真由は、学校内では五本の指に入るほどの美少女で、毎月一人か二人に、告白されているらしい。
俺は溜まっていた唾を飲み込み、彼女の答えを待っていた。そして、彼女が口を開く。
「翼の気持ちは嬉しい。すごく嬉しい。でも、ごめんなさい。付き合うことはできない」
彼女の言葉は、俺にとって重くのしかかった。
もう彼女とは、今までの関係を続けていくことは恐らくできないだろう。幼馴染という関係を壊してまで言った告白は、完全に失敗に終わった。
「分かった。わざわざ時間をくれてありがとう」
何故俺は、時間をくれたことにお礼を言っているのか分からなかった。そして、俺と彼女は、逆の方角へと、歩いていった。
こうして俺の人生初の告白は、幕を閉じた。
それから彼女とは、挨拶程度しか言葉を交わさなくなった。
中学三年の合唱コンクールの練習中。
俺の人生の最初の転機となった。
合唱コンクールまで、あと一週間と迫った日の教室での練習で、クラスの中心の女子グループのリーダーっぽい奴が、
「男子、もう少し大きく声出してよ。もっとこうバーっと、見に来る人を惹きつけるような声出してよ。あと一週間しかないんだよ。わかってる?」
正直こういう女子は、苦手である。
別に嫌いという訳ではないが、関わると面倒だと感じるからかもしれない。
「ちゃんと聞いてる~?」
はっきり言うとこういうのが何日も続くと、イライラしてしまう。年のせいかな?
「本ッッ当、男子ってめんどくさい」
俺の中で、何かがプチっと切れた音がした。
「さっきから、男子がちゃんとしてないって言うけど、お前らだってそんなに声出てないし、その癖に喋る声だけバカみたいにでかいし、そういうやつ、すっげームカつくわ」
我慢できなかった。
怒りを抑えることが出来なかった。
思わず、口に出してしまった。
一瞬にして、教室の空気を凍りつかせた。
誰も何もいわない。時間が止まっている。
すると、その女子が泣き出した。
女子の取り巻きから「謝りなよ」と言われたが、俺は決して謝ることをしなかった。謝れば、丸く治まるとは分かっている。
自分が悪いということも分かっている。
それでも俺はあやまらなかった。
それからのクラスの雰囲気は、最悪だった。
合唱コンクールは、今までやってきた中で、一番最悪の出来といってもいいほど、ひどいものだった。
合唱コンクールが、終わってから女子に嫌われ始めた。女子の情報の回るスピードはすぐで、俺は嫌われものになっていた。
そして、男子からも距離を置かれ、それ以降、クラスメイトはおろか、学校で会話することは、ほとんどなくなった。
中学校の卒業式。
学校に行く気がしなかった。
卒業証書だけもらって、さっさと帰りたかった。先生の最後のホームルームでの話は長く、とてつもなく暇に感じた。
クラスを見渡すと泣いている人もいた。この学校に思い出なんかは、特に無かった。
先生の話が終わると、みんなが立ち上がり、写真を撮ったり、卒業アルバムの真っ白なページに何か書いていたりしていた。
俺はすぐに教室を後にした。
下駄箱で靴をはきかえ、校門まで歩いていると、真由と男子が手を繋いで歩いていた。
俺は、胸の苦しさ抑えながら、二人の横を通り抜けた。後ろから二人の笑い声が聞こえる。
女なんてもうどうでもいい。
こんな青春なんか、早く終わればいい。