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猫目先輩の罠

作者: 夏野 優奈


「ふーん、姉貴の方は可愛いのにお前はブスなんだね?」


興味なさ気に、でも確かに見定めるような、その愛らしい猫目で彼は言った。



                      *  *  *



平凡な人生だったと思う。

両親がいて、それから1つ上の姉がいる。

極々ありふれた一般家庭のはずだった。

ただ一つ、異端とするものがあるとするならば、姉がとても、それはそれは美しく育ったことくらいだろうか。


姉の人生は波乱万丈だった。

中学生のとき、付き合った男の子にことごとく騙され、こっぴどくフラれ、付き合った人数は数えきれないほどだった。

まさに中学生とは思えない経験数で、正直ドン引きしてたのはここだけの内緒だ。

それでも不憫だとは思ってたし、幸せになってほしいと思ってた。

そんな姉が半年前、ついに心から信頼できる恋人を見つめた。


それが|表田 春一≪おもてだ はるいち≫という人だった。

いわゆるツンデレ系男子というやつで、素直になれないがあまりに片思い歴12年という経歴を持ち、この度ようやく姉に気づいてもらえたのだ。

表田 春一、春くんは幼馴染だった。

とは言っても私とは顔見知り程度で特別仲がいいという訳でもないんだけど。

男女の幼馴染といえばそんなもんで、それに今まで気づかなかったお姉ちゃんは流石だ。うん。


そして私は高校1年生になった。

お姉ちゃんが2年生、春くんが3年生として在籍する高校に進学した。

地元では荒れているとかなんとかって評判だったけど、…まぁ、なんとかなるでしょうって、そんな感じ。

なんせ制服可愛いし。下手に頭いいとこ言っても授業ついていける気がしなかったし。


多少なりとも期待していた。

お姉ちゃんが覚えきれないくらい友達の名前をぽろぽろ言うもんだから、私だってって。

高校生になったら彼氏もできるんだって。

楽しいことでいっぱいなんだって、信じてた。


「ふーん、姉貴の方は可愛いのにお前はブスなんだね?」


初対面である。

初対面である。

…いや、何度も言うけど、本当に初対面である。

しかも入学式の日、だ。

色素の薄い猫目に同じ色のサラサラの髪。

加えて美形と来た。

私の目の前にまで来たとき、ちょっぴり期待した。

少女漫画よろしく展開を期待していた…わけですよ。

それがどうだ、開口一番これって、え、どうなの?普通なの?え?美形界ではこれが普通なの?

ショックを隠し切れない私を見てニンマリと笑う猫目の男。

その吊り上がった口を見てると、何故だかゾッとする。


「名前、なんつーの?」


「…か、|香山 佐智≪かやま さち≫です」


声が大きいと定評のあるこの私の声が、思いもよらないほど、よく言う蚊の鳴くような声しか出なかった。

しかも震えていた。

だって仕方ない。

この人、美形だけど、美形なんだけど、…なんか、不良っぽい、かも。

着崩された制服を見る限り、多分そう。

あと無駄に自分に自信があるように見えるのは不良効果だろうか。


「ふーん、じゃあブス」


「!?」


ちょ、な、名前聞いた意味ありました!?


「お前、スパイなれ」


「は?」


都合が悪いことに周りに人はあまりいない。

チラリとこちらを見る人がいても、助ける気はサッパリないらしい。薄情者めっ!


「お前ブスな上に馬鹿なの?可哀想な子だね」


「あ、あの…、意味が分からないんですけど」


なんで初対面の美男子に私ディスられてんの、え、何プレイですかお兄さんよ。


「んー、要するに密偵してほしーって言ってんの」


や、余計言葉難しくなってるし。

って、意味は分かってるけどね!?

私が言ったのは言葉の意味じゃなくって、その意図ですよ、意図!


「えー、密偵も分からないの?ほんと、可哀想な子」


「わ、分かりますよ、分かりますけど…その、スパイって、どういうことですか?」


「そのまんまだよ。

お前の姉貴、もしくは幼馴染を通じて表の奴らの情報取ってこいっつってんの」


「表…?」


「もう。ほんとブスって馬鹿。めんどくさいなぁ」


嫌そうに顔を歪める美形。

それだけで怖いし、もうビビるんで、ほんとすんません。

冷静に考えたらお前は性格ブスだと心の中で反論できるはずなんだけどね!


「この学校、荒れてるでしょ?」


「え、あ、は、はい…?」


「で、大きく分けて2つに対立してんの」


「!?こ、抗争ですか!?」


「は?…あー、うん、まぁそれでいいや」


ちょ、暴走族ですか!?

ていうか不良ですやん!ダメなやつですやん、これ!!


「で、その対立してるトップがアンタの幼馴染と俺の幼馴染ってわけ」


「は、春くんがトップ!?」


「そうそう、その春くんがトップなの。

ソイツの名字が表田だから、そっち側についてるやつは表って言われてんの」


は、春くん…ええっ、ちょ、冗談でしょう!?

確かに高校入って金髪になったりして荒れてるとは思ってたけど…うっそん!

こんな高校だから周りに合わせてるだけかと思ったのに、実はその先頭に立ってただなんて、ええ、…もう信じらんない。


「で、うちの幼馴染くんは|浦木 卓也≪うらき たくや≫って言うから、こっちは裏って言われてんの」


これまた安直な…。

未だに春くんショックから抜け出せないままだけど、

要するにこの高校には二部勢力があって、それが表と裏なんだってことは分かった。


「ここまで言ったら、意味、分かるよねぇ?」


「へっ?」


「携帯出して?連絡先交換しとこうか」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!

私、やるなんて…」


「なに?」


にこやかに猫目が細められた。

ああ、こ、怖い…!今って、一体全体どういう状態なの…?


「早く出せって」


声低くなってるしー!!

もうやだ、怖い、辛いんですけど!


「あ、あの、きょ、協力したい気持ちは山々、なんですけど、」


「ねえ、もっとハッキリ喋って?イライラする」


「ひぃっ!ご、ごめんなさい!」


「…はぁ、ブスって、ほんとぉーにめんどくさいね」


「っ、わ、私は、その、お姉ちゃんも、春くんも!裏切るような真似、したくないので失礼しますっ!!」


言った。

言ってやった!

あとは逃げるのみと動き出した足。

と、掴まれた左手首。

ギリギリと音を立てそうなほど、強く強く掴まれた。

何この人、握りつぶす気かねと言いたくなるくらいには痛いけど、そんなこと言う余裕なんて存在しなくって。


「痛い痛い痛い痛い!!」


「ねえ、俺に逆らったらどうなるか分かってんの?」


「い、痛いですってば!離してください!」


「俺、三年だよ?しかも裏のNo2だし」


「っ、」


「お前一人くらい、どうとでも出来るんだよ?」


ぐいっと手首を引かれたかと思うと、目と鼻の先に自称先輩の顔。

まつ毛長いな、なんて観察する余裕もなく、先輩の瞳の中の私は目を見開いて間抜けな顔をしていた。


「ねえ、お願い。ブス」


「、」


「俺がお願いしてる内に頷いたほうが身のためだと思うよ?」


「っ、でも」


「ダイジョーブダイジョーブ。

別に死にゃーしないからね。ただ表舞台から降りてほしいだけだよ、俺たちは」


「わ、わたし」


「携帯、出して?」


手が震えた。

でも、出してしまったのだ。

このときほど自分を恨んだことはない、と。


「いい子だね、後でメールしてあげる」


痛みから解放されたかと思うと、頭を一撫でされた。

満足そうに目を細めた彼はそのまま行ってしまった。





これが猫目先輩と私の出会いだった。

あれから3日後、私は彼の名前が|安西 奏人≪あんざい かなと≫だということを知った。

それから1か月経った今日この日、私は裏側の溜まり場、美術室にいる。


「カナ、だれ、その女」


きょとん、とした顔。

ぼんやりとした目。

それでも美形には変わりない男は裏のNo1である。


「んー、スパイちゃん」


「へぇ」


どうでもよさそうに返事したかと思ったら、近くにあった雑誌を手に取り始めた。

…いやいやいやいや!

私、今日アンタに呼ばれたんだよね!?


「真智ちゃんの妹ちゃんだよ?タク」


「真智の?」


|香山 真智≪かやま まち≫、それがお姉ちゃんの名前である。

心なしか目が輝いたように見える浦木先輩。

うう、イケメン…かっこいい。


「ブス、タクはね、お前のお姉ちゃんが大好きなの」


「へっ!?」


「だからお前が心配してた姉貴に身については安心してもいーよ」


「あ、そ、そうなんですか」


…覚えてたんだ、てっきり忘れてるかと思ってた。

この人の名前を知ったその日にぶつけた質問だ。声がでかすぎてうるさいと言われたのもこの日だ。


「あっ、でも春くんは?」


「さぁー?それはどうかなぁ?」


楽しそうに笑う猫目先輩。

この先輩の名前が分からない間に便宜上つけたあだ名がいつの間にか定着してしまったのだ。


「それじゃ作戦会議でもしようか」


「真智の話、聞けるのか?」


「…タク、あのね?そういうプライベートな話は後にしてほしいの。

このブスもそこまで暇ではないだろーし、ね?」


だけども猫目先輩が言うブスの二文字に比べたら可愛いあだ名だと思う。

とにかく毒舌なのだ、猫目先輩は。

しかも腹黒い。いや、腹黒いから毒舌なのかもしれないけど。

だけどイケメンなのだ。

もっと言うと、地味に気遣い屋さんなのだ。

まずは口に気を遣ってほしいところだけど、実はちょっとだけ優しいところがあるのだ。

…だから、なんだ。

お姉ちゃんを裏切るのは忍びないと思いつつも、ここに来てしまったのだ。

猫目先輩の期待を裏切るのも、怖いから。


「じゃ、ブスはここ座りなよ」


あの日以来人目を避けて会うようになったのが、いいや、この高校に来たのが間違いだったんだろうか。


「…ね、猫目先輩」


「は?」


「猫目、先輩」


「なにそれ?俺のこと?」


「あの、えっと」


今日はこの猫目先輩に仕返しすることが目標である。

間違いを正すには、これしかないわけで。

というよりもぶっちゃけこの先輩の嫌そうな顔を見たいが為である。

決してドMではない。単純に勝った気がするのである。


「前言ったよね?俺、猫目なの、コンプレックスだって」


「あああ愛嬌あると思いますよっ!」


「は?馬鹿にしてんの?」


この顔!この顔!!

この嫌っそーな顔!

もうずっと呼んでやる!


「猫目先輩」


「…ま、いーよ。ブスに名前呼ばれるのも腹立つし」


「!?ひ、酷いです!!」


「うるさいブス」




                    猫目先輩の罠

           (この物語は猫目先輩と闘う日々を綴ったものです…!)


「(コイツ等仲いーな。俺も真智んとこ、行きたいなぁ)」



―――――ハラハラする恋はいかが?






初めまして、夏野 優奈と申します。

なろうの機能はイマイチ分かってませんが、小説が書きたい!の一心で書かせていただきました。

また落ち着いた頃に連載版として投稿するかもしれません。

短編だと上手く猫目先輩の魅力が伝えられなかったり、主人公の性格が出せなかったりとしました…が、連載したら頑張ります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


2014年9月26日  夏野 優奈

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公は、相手がイケメンならレイプされようが輪姦されようが喜びそうだな、身内売るような人間だし根本的に狂ってるのかな?姉に対するコンプレックスのせいだろうか 言葉の暴力だけではなく身体…
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