君と僕と黒猫
ある日だ。そう、いつもと変わりない、いたって普通な日。
君があの公園から少し離れた花壇の隅で黒猫を見つけたんだった。
君は優しげで、悲しそうな何とも言えない顔で黒猫をなでた。
黒猫は一度なでられたあと、君を見てから横で見ていた僕を見た。
全て知っているような目で、綺麗に澄んでいて、暗く濁ったような、金色の目で。
君は僕が小さいころからずっとそばにいた。優しくて、いつでも君はそばにいて、
君は見分けがつかないくらいに僕に似ていた。
僕は周りの人達とあまり仲良くすることが苦手だったけど、
そんな時や、困った時は「大丈夫だよ」「僕が助けてあげるよ」って。
それから僕が高校生になったとき、公園で黒猫を見た。
君はたしか黒猫に見つめられていた。
それからか、君は小さかったころの優しい君から、
怒ったりし始めたのは。
怒るといっても、殴ったりするわけじゃない。昔のように優しい所は変わらない。
ただ、言葉で怒るだけだ。だけど、その言葉は僕の心にしみ込むように、
纏わりつくようになっていった。
そしてどんどんそれは強く、重たくなっていって、
あるとき、君に閉じ込められる、そう思った。
たとえば・・・監禁とか、そんな感じかな。
そして、僕は動けなくなった。
動けない僕の代わりに君が話すようになった。
見ているだけで、何もできない僕の通訳のように。
最初は、僕の言いたいことを君なりの言い方で相手に伝えてくれていた。
けれど、だんだん僕の言いたいことが君にさえ伝わらなくなってしまって、
いつしか、完全に伝わらなくなった。
君は、僕になった。
僕になった君は周りの人達と関係を作っていった。友人、親友、あと恋人とか。
傍で見ていた僕は、ただただそんな君を見ていた。
ある日、君が階段から落ちた。一緒にいた僕も落ちてしまった。
目を覚ますと、病院だった。
体全体が痛く、頭も痛かった。
だけど、その部屋には僕一人だけだった。
昔から、双子のようにそっくりだった君はいなかった。
暫くして看護師さんが来た。
目を覚ましたのね、と話しかけてきた。
「はい」と僕は答えた。ここには僕の代わりをしていた君はいない。
それに、いつのまにか動けるようにもなっていた。
だから、ここにいない彼のことをたずねた。
「あの・・・彼は?」
「彼?彼って誰かしら?」
彼って・・・君の名前は、きみの、なまえ、は、あれ、?
おかしい、名前なんてすぐ出るはずなのに、
「とにかく、先生を呼んできますね、」
そう言って、看護師さんは出て行った。
やってきた先生に、話をされた。
階段から落ちた後のこと、今までのこと。
僕は、二重人格だったらしい。
どこかから、あの黒猫の鳴き声が聞こえた気がした。
多重人格症についてはイメージで書いています。
なので、変な所があると思っています。
違和感などがあれば、言って貰えれば嬉しいです。