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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第九十六話 宣戦布告

「そんなことが……」


 Ωの話を聞き終えた刹那は言葉が出なかった。ただの少年では無いとは思っていたが、まさかここまでだとは思ってもみなかった。初めて心を開いた相手を自ら殺めてしまったことで、「良い子」であることに執着しているのか。その心の隙間を聯賦に付け込まれたのだろう。きっと言葉巧みに彼の心を揺さぶったに違いない。


「ドクターはなんて言って君を誘ったの?」

「自分の言うことを聞けば、良い子になれるからって」


 とんだ大嘘だ。このまま聯賦の言うことを聞き続ければ、彼は良い子どころか、取り返しのつかない悪人になってしまう。


「その言葉を本当に信じてるの?」

「ドクターはいつも僕に良い子だと言ってくれる。僕は良い子になってるんだ」


 Ωの目には疑いの欠片もない。完全に聯賦に騙されている。

 今のこの子を見たら、彩華さんはどう思うだろう?

 そう考えると 刹那は目の前のこの少年を放っておくことが出来なかった。命がけで彼を正そうとした自分の行動が、逆に彼を罪に走らせている。それは……あまりに悲しすぎる。


「Ω、君はドクターに騙されてる」


 この子にはハッキリ言ってあげないと分からない。自分が何をしているのか理解させてあげないと。

だが、刹那のその言葉はΩには届かない。


「そんなことない。ドクターは僕が頑張ると本当にうれしそうに褒めてくれるんだ。お姉ちゃんと同じだ。僕は良い子になってる」

「それは君が良い子だからじゃない。聯賦の思い通りに動く道具(・・)だからだ」

「――ッ!違う!僕は道具じゃない!人間だ!良い子なんだ!」


 先ほどまで大人しかったΩが激高する。やはり、「道具」という言葉には敏感なようだ。目を血走らせ叫んでいる


「僕は統也だ!道具じゃない!」

「ちょ、ちょっと」

「僕は道具じゃない!道具じゃない!」


 なんてことだ。「道具」という言葉がここまで彼の心をかき乱すとは。

ダメだ。全く聞く耳を持たない。これではいくら言っても――


「――ぐっ」

「人間だ!道具じゃない!」


 Ωは刹那の首を掴むと、そのまま持ち上げ壁に打ち付けた。すごい力だ。とても振りほどけそうにない。


「くそっ、放せ」

「僕は!僕は!」


 このままじゃまずい――


 Ωの首を絞める力は強くなる一方で、意識がもうろうとしてきた。だが、このままだとそれより先に首が千切れてしまう。

 だが、その事態は刹那の意識が飛ぶ寸前に開いた部屋のドアから現れた人物によって解決することになる。。


「Ω、止めんか」


 部屋の入口の方から声が聞こえてくる。この声は聯賦だ。だが、聯賦の声であってもΩは止まる様子がない。


「止めろと言っているんじゃΩ」

「違う!僕はΩじゃない!統也だ!」

「止めろ統也!悪い子(・・・)じゃ!」


 その言葉を聞いた瞬間、Ωの肩がビクンと震え、そして刹那の首に掛かる力が弱められ、ようやく刹那はその苦しみから解放された。


「ゲホッゲホッゲホッ」


 首の圧力がとれ、やっと新鮮な空気が肺の中に入ってくる。危なかった、あと十秒遅れてたら昇天していたかもしれない。


「これで二度、君の危機を救ったの」

「ゲホッ、うるせぇ」

「ほっほ、悪態をつく余裕があるようなら安心じゃな」


 喉を押さえて蹲る刹那に近づいて来ていた聯賦は方向を変えると、Ωの方へ体を向けた。


「さてΩ、自分が何をしているか分っておるかの?」


 Ωの肩がビクンと震える。やはり、この老人には頭が上がらないようだ。


「お前は、悪い子じゃ」


 悪い子という単語を聞いた瞬間、Ωが泣きそうな顔になる。未だに過去の出来事が頭をよぎるのかもしれない。


「悪い子になってしまったお前がやることはなんじゃ?」

「ドクターの言うことを聞いて、良い子になること」


 下を俯いたままΩが答える。まるで、咎められた子供のように。


「そうそう、その通りじゃ」


 Ωから自分の望む答えが返ってきたためか聯賦がうれしそうに破顔する。こうやってΩを騙し続けているのか。


「やめろ!」


 刹那が立ち上がりながら聯賦を睨み付ける。このまま放っておいてはいけない。Ωを救わなければ。


「わしのやり方に一々ケチをつけんでもらおう。Ωはわしのために働いて良い子になるんじゃ」

「ふざけんな!そんなんで良い子になれるか!アンタの良いように使ってるだけだろう!」

「まったく、口が減らんの。そんなにΩを助けたいか?」

「あぁ。アンタと居るとこの子は不幸になる。それだけは確実だ。だから、俺はあの子をアンタから引き離す」


 真っ向からの宣戦布告。彼のために死んだ彩華さんの為にも、Ωを放っておくわけにはいかない。


「それは無理というものじゃ」

「なんで?」

「わしがΩの体を改造しているのは知っておるな?」

「あぁ」


 何をいまさら。常軌を逸したその行動が刹那がこの老人を危険視する一番の理由だ。


「Ωが暴走すればわし自身の身も危ない。そんな状態なのに、わしが保険を掛けないと思うか?」

「――ッ!この子の体に何かしたのかッ?」

「強力な爆弾じゃ。Ωの体が丸々吹っ飛んでしまうほどのな。遠隔操作でいつでも爆発させられるようになっとる。君が何かしようとすれば、起爆装置、どうなってしまうかわからんのう?」


 ――くそっ、汚い野郎だ。こうやって脅しをかけてくるとは。


「それに、助けてどうする?今のΩは普通には生きていけんよ」

「それはアンタが決めることじゃない」 

「まあいいがね。ただ、今言ったことはよく覚えておくことじゃ。助け出せたと思った瞬間、いきなりドカンッということもありうるからのう」


 手の出せない刹那をあざ笑うように聯賦が鼻を鳴らす。


「ちっ」


 Ωを救いだすには、まずこの老人を何とかしなければならないというわけか。

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