第七十六話 驚愕の真実
工房を守り抜き、祭りの最終日でもあったその日の夜、刹那は錬に連れられて、村の中央の広場に祭りの最後を飾る出し物を見に行くこととなった。
それはこの断石祭の元になった話、旅人が石を真っ二つにしたというのを再現した見せものだった。と言っても、本物の石を使うわけでは無く、あらかじめ切り込みの入った箱を石に見立て、それを旅人に扮した村の人間が割る、というものだ。
「刹那さん、そろそろっすよ!」
場面は今、旅人が石の前で剣を構えた所、最も盛り上がる個所だ。
「ん?あれ?刹那さん、あの剣って刹那さんのに似てません?」
「え?」
錬に言われて刹那は旅人が持っている剣に目をやった。確かに、鞘の色などは神威にそっくりで、刀身もどことなく似ている。
「ホントだ。まあ、似たようなものなんて結構あるだろ」
「それもそうっすね。あ、切りますよ!」
旅人が剣を抜いた。そして、それを高々と掲げ、一気に石を真っ二つにする。
その瞬間、音楽が流れ出し、村人たちが旅人の元に集まり、みんなで祝いの踊りを踊り始めた。軽快な音楽に乗せられて周りで見ていた観客たちも踊り出す。あっという間に、その場はダンス会場と化してしまった。
「刹那さん、俺たちも踊りましょうよ」
「え?俺も?」
記憶にある中では一度も踊りなど踊ったことが無い刹那は返答に困ってしまった。それを見た錬は雰囲気から察したのか刹那に助け船を出す。
「大丈夫っすよ。俺がリードしますから」
「リード?一緒に踊んの?」
「当たり前じゃないっすか」
「え?でも男同士で……」
その言葉を聞いた瞬間、錬がキョトンと不思議そうな顔をする。そして、次に彼から出てきた言葉に刹那は驚愕してしまう。
「俺、女っすよ?」
「は?」
「俺はれっきとした女です」
え?女?錬が?いやいやいや、それはウソでしょ。
「嘘付くなよ。だって、どう見たって男の姿じゃん」
「服装は動きやすいからこういう格好してるだけで、髪は師匠に仕事の邪魔になるからって言われて短くしてるんすよ」
「だ、だって、胸とか全然ないじゃん!」
「それは……まだ発育途中っすから」
刹那が随分と失礼なことを言うと、錬は少し顔を赤くして下を俯いてしまった。その反応からして、どうやら本当に錬は女の子らしい。
「なんてこった」
今まで男だと思って接してきたことと錬の行動が脳裏に浮かぶ。どう考えても、女とは思えないのだが……。
「それでどうします?踊りますか?」
「あ、あぁ、じゃあ、お願いします」
錬が女の子だと分かった後、刹那は彼女との距離感がつかめず思わず敬語になってしまうほど頭が混乱してしまった。とても陽気な音楽で皆楽しそうに踊っていたのだが、刹那は錬の真実に驚愕し、なんともぎこちなく踊ることとなってしまったのだった
* * *
次の日の朝、刹那の体調が良くなったのを確認して、彼らは村を出発することになった。
「元気でな兄ちゃんたち」
「またシチュー食べにおいでよ、二人とも」
頑徹夫妻が優しい言葉をかけてくれる。
「おら、チビ、おめぇもなんか言え」
「あ、あ、あの……」
錬とは昨日の一件があってからどうもぎこちない雰囲気になってしまった。ちなみに、戻ってから円に訊いてみると、円はすぐに錬が女だと見抜いていたらしい。それならそうと早く言ってもらいたかったのだが、面白そうだから黙っていたんだそうだ。いつもは必要以上に口うるさいというのに、こういう大事な情報は全く伝えないのである。
「刹那さん、これ、大事にしますから」
そう言って錬が出したのは祭りの初日に刹那が買ってやった馬のガラス細工だった。
「また、来て下さいね」
「あぁ」
「ぜ、絶対ですよ!」
なぜか念を押してくる錬だが、まあ刹那としても彼らにはまた会いたいと思う。機会があれば是非寄ることにしよう。
「約束するよ」
「はいっす。それで、次に来てくれた時は、その……俺のこと――」
最後の方は声が小さくて何と言っていたのか分らなかったが、顔を真っ赤にしていたのと、奥さんがより一層ニコニコしていたのを見てみると、どうやら気恥ずかしいことを言ったようだ。
円にもその声が聞こえたのか、ニヤニヤしながら足を突いてくる。なぜだろう?今日の円は、一発ぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。
「それじゃあ、またいつか」
「さらばだ」
刹那と円は三人に別れを告げて村を後にした。錬達は刹那たちが見えなくなるまで手を振ってくれていたのだった。




