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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十八話 絶不調

 聯賦達を退けた次の日、刹那たちは次の町へとさしかかろうとしていた。


「おい刹那、大丈夫か?」

「あ~?」


 巨大ムカデから聯賦達との連戦が祟ったのか、刹那は昨日の夜から頭がボーっとして、意識がハッキリしないのだ。そのため、円の問いにもうつろな返事を返してしまう。


「大丈夫か?少し休んだ方が良いんじゃないか?」

「あ~、大丈夫大丈夫。もうそろそろで町に着くし、休むのはそれからでいいだろ」


 自分の胸を叩いて自信満々に答える刹那だが、叩いた力によろけていれば世話がない。


「本当に大丈夫か?」

「大丈夫だって。俺を信じろよ」

「刹那、俺はこっちだ」


 自分と反対方向を向きながら啖呵を切る刹那を円は呆れた顔で見上げたのだった。


 ※ ※ ※


 それから程無くして刹那たちは町に着いた。どの家にも何かの飾りの様なものが備え付けられており、どこを見回しても忙しなく動き回る人の姿が見えるが、催物でもあるのだろうか。


「ふむ、賑やかだな……おい、大丈夫か?」

「大丈夫だって。こんなもの、俺にかかればすぐに……」


 とは言ったものの、あまり大丈夫な気がしない。いつもなら心躍るであろうこの町の雰囲気に全く食指が動かないし、何より、目の前の円がフラフラと揺れて見える。


「ちゃんと喋れてないぞ。まったく、さっさと宿を取って休まねば」


 円が刹那の足を後ろから押すようにして無理矢理に前に進める。刹那としては歩きにくいことこの上ないのだが、今の自分の状態ではそんなことを言っている場合でもないのだろう。


「刹那、とりあえず宿を探すぞ」

「あ~、分かってるって。だけどなぁ」


 同じような飾りがされている上に人の往来が激しく、どの建物がお目当ての宿屋なのかがよく分らない。だが、しばらく歩いているうちに見慣れた看板を掲げる家を見つけた。あった、宿屋だ。


「円、あったぞぉ?」

「わかったから、そんなに急ぐな」


 宿屋を見つけた安心感から、刹那の注意が宿屋に集中してしまい、曲がり角から飛び出してくる人影に気付くのが遅れてしまった。


「――うわっ!」

「え?あっ――いてて」


 お互いに相手に気付かなかったため、思い切りぶつかり転んでしまった。


「すいません、大丈夫ですか?」


 刹那にぶつかった人物は、見たところ、十五、六ぐらいの青年で、短くまとめた髪にまだ幼さの残る顔立ちだった。地味な長袖の上下姿で、捲った両腕にはいくつか火傷の様な痕があるが、いったい何をやっている人なのだろう。


「俺の方こそすんません、急いでてよそ見しちまって、怪我ないっすか?」


 ハキハキと答える青年はすぐに立ち上がると尻をパンパンと掃い始めた。どうやら、本当に怪我はなさそうだ。


「あ~、大丈夫です。これはちょっと……」


 そこまで喋って刹那の体力は限界を迎える。そのまま目を閉じて倒れ込み、微かに地面の感触を確かめたのち、彼の意識は急激に遠のいて行った。


 ※ ※ ※


「んんん、あれ?」


 刹那が次に目を覚ますと、そこはベッドの上だった。おでこの上に湿った感触があり、手を伸ばすと濡れたタオルが乗せられていた。辺りを見回してみると、小さなテーブルに椅子、それにクローゼットらしきものがあった。はて?いつの間に宿に入ったのだろう?


「あ、目覚めました?」


 その声の方へ視線を向けてみれば、そこには先ほど自分がぶつかったあの青年がいた。その瞳には自分が目覚めたことに安心したのか、少し安堵の色が広がっているように見える。


「ここは?」

「俺の職場っす!あの後、いきなり倒れちゃったんでビックリしたんすよ?それで触ってみたらすごい体熱いし。慌ててここに運んで、空いてる部屋貸してもらいました」


 そうだったのか。それは迷惑をかけてしまった。早くお暇しないと……。


「ありがとうございました。それじゃあ――」

「まだ動いちゃダメっすよ!おかみさんには言ってありますから。寝ててください」


 それだけ言うと青年は刹那のタオルを替えると言ってそれを持って部屋を出て行ってしまった。刹那がそれを黙って見送ると、ベッドの下から聞きなれた声が聞こえてくる。


「やれやれ、だから無理するなと言ったのに」


 そんな小言交じりの言葉を発しながら、円がベッドから這い出てきた。


「悪かったよ。今度から気を付ける」

「お前の気を付けるはあまりアテにならんからな。まあ、これに懲りたら人の忠告はきちんと聞くことだ」


 何か言い返してやりたい気分だが、円の言っていることが全面的に正しいため何も言い返すことが出来ない。このままでは次々と小言を言われ続ける気がしたので、刹那は話題を変えることにした。


「職場って言ってたけど、何やってる店なんだろうな?おかみさんって言ってたけど、宿かなにか?」

「それとは程遠いな」

「じゃあ何の店なんだよ?」


 疑問を投げかける刹那に、円は勿体つけるように笑うと一言だけ呟いた。


「鍛冶屋だ」

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